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【前世の記憶】亡き叔父の殺人の真実を告げる息子


アメリカ・アーカンソー州。

モーガンにはブライデンという息子がいる。17歳で妊娠したモーガンに祖母ナンシーは、「男の子が生まれるわよ」と言った。ナンシーは妊婦検診に必ず同行し、妊娠5ヶ月の時の検診で赤ちゃんは女の子と言われた時も「ノー、彼女は男の子を産みますよ」と主張した。翌月の検診では、赤ちゃんは男の子だと言われる。

そうして生まれたブライデンは、病院から家に着くなり肺から出すような大きな声で泣き続けた。何か異常があるのかもしれないと病院に連れて行くが、何も異常はないと言われる。

モーガンは親として十分なケアをしてあげられていないのでは?と感情的になっていた。なぜなら自分が抱っこすると泣き止まないのに、祖母が抱っこした途端に泣き止むのだ。モーガンの目には、祖母と我が子のつながりは特別で、2人は即座に絆で結ばれたように映っていた。

祖母ナンシーはモーガンがブライデンを出産した時、この世でいちばんの幸せ者だと感じたと言う。ひ孫にあたるブライデンは自分の元を離れたくないようで、特別な絆を感じていた。

数年後、ブライデンは悪夢を見るようになる。

モーガンの伯父キャリー曰く、悪夢を見るときのブライデンはとても大きな声で叫んでいて、恐れを知らない自分をも怖がらせるほどのものだと表現する。

ブライデンの悪夢の多くはナンシーの家にいる時に起こった。ブライデンは真夜中に起きると目を閉じたまま歩き回るのだが、どこに向かうのか分かっているように見えた。

何が起こっているか分からない家族全員にとっては恐怖である。彼はリビングルームの隅からキッチンまで歩き、ナンシーが大きい声で呼ぶと目を覚ました。

家族の中でこんな風に睡眠中に歩き回るのは、モーガンの亡くなった叔父ジョンだけだった。家族が何らかの理由で夜中に起きると、ジョンが眠ったまま歩き回っていた。

ブライデンが小さい頃、家族と親しい人が亡くなったため墓地へ行ったときのことである。ブライデンはその時までお墓を訪れたことは一度もない。

彼は突然墓地を横切って駆け出すと、ある墓石の前で立ち止まり「この女性の心臓と魂に神の恵みを」と言う。モーガンが何を言ってるのか聞くと「この女性は悲惨な車の事故で亡くなったんだ」と言う。

なぜそんなことが分かるのかとモーガンが聞くと、「ママ、お墓の上に輪っかが見えるの」とブライデン。

その女性はナンシーの友達で、20年ほど前に車の事故で亡くなっていた。なぜブライデンにそれが分かったのか。首を傾げる家族をよそに彼は他にも20〜50ほどのお墓の前で立ち止まり、彼らの死因を告げていった。

そして家族は彼の次の言動に目と耳を疑う。ブライデンはモーガンの叔父であるジョンおじさんのお墓の前へ走って行くと、ひざまづいて泣きはじめた。ブライデンはジョンおじさんのお墓を一度も訪れたことはない。何百ものお墓が並んでいる中、なぜ真っ直ぐにジョンおじさんのお墓の前に行けるのか。

ブライデンは言った。

「ここには彼の体はあるけど魂はいないよ、マミー。毎晩彼の夢を見るんだ。夢の中では彼になったみたいに感じる。」

そこで「あなたはジョンおじさんを知らないわよね」と言うと、ブライデンは半狂乱で取り乱す。

「知ってる、知ってるよ!僕そこに居たんだ。彼が殺された夜、そこにいたんだ!」

誰もジョンおじさんの話を彼にしたことはない。そもそもジョンおじさんが殺された時、彼は生まれてさえいない。だからこそブライデンが突拍子のないことを言い始めた時、皆が不思議がった。

ジョンおじさんは、胸を銃で撃たれて殺された。

モーガンはジョンおじさんととても仲が良く大好きで、父親のような存在だった。

息子を亡くしたナンシーは、 2度と元のナンシーに戻ることはなかった。これほど人は痛みを感じることができるのかとさえモーガンが思ったほど。

ある日ナンシーがブライデンと外で座って話していた時、彼が突然「マム」と呼んだ。ナンシーには他にも2人の子供がいるが、他の2人はママと呼び、マムと呼ぶのはジョンだけだった。

ブライデンは小さな手をナンシーの顎に置いて、「マム、僕だよ」と言う。ジョンは生前いつもそんな風にナンシーの顎に手を添えていた。その時の声はブライデンのものではなかった。ナンシーは壊れた。

また別の日のこと。ブライデンが言う。

「僕がバイクの事故で足を火傷したときのこと覚えてない?」

伯父キャリーが「ブライデン、何言ってるんだ?」と言うと、

「覚えてないの?君と僕とで原付に乗って家の周りを乗り回してた。戻ってきた時君がハンドルを切り損ねて松の木に突っ込んじゃったの。僕は後部座席から飛び降りた。」

ジョンおじさんにはバイクの事故でできた火傷の傷が足にあった。ブライデンにではなく。それを彼がなぜ知っているのか。ブライデンはあの時バイクの後部座席にいたと主張する。

その1週間後、モーガンとナンシーがブライデンと一緒にベッドに横になっていると、ブライデンがベッドと壁の間に落ちてしまう。

モーガンが「怪我しちゃったんじゃない?」と言うと、ブライデンは言った。

「ジョンおじさんは怪我をした。彼は背中を撃たれて殺された、後ろから襲われるなんて予測してなかったの。」

裁判では、彼は前方から撃たれたとされている。発砲した男は正当防衛だったとして刑を免れた。

ブライデンはなぜ背中から撃たれたと言うのか。家族は皆ブライデンの前でジョンおじさんの死について触れることには慎重で気を付けてきた。

警察から聞かされたこととは全く話が違う。警察の捜査によると、ジョンおじさんは前方から撃たれた。が、ブライデンによると、男の方から寄ってきて後部から撃たれたと言うのだ。なぜブライデンがこんなことを知り得るのか。

家族が不思議がる中、伯父キャリーは一連のことを笑い飛ばしていた。ある日ブライデンが発した言葉を聞くまでは。

ブライデンがやってきて言う。

「キャリーおじさん、覚えてる? 2人でクーラーボックスいっぱいのオタマジャクシを捕まえたこと。」

そこでキャリーは言った。

「君と一緒にオタマジャクシを捕まえた覚えはないけど。」

「覚えてるよね。シンクのそばの赤と白のクーラーボックスに入れたの。」

「ブライデン、俺たち一緒に行ったことないだろ。」

「あるよ。一緒に行ったよね。覚えてないの?」

キャリーは一瞬座って考え込んだ。そして理解した。それは弟ジョンとの経験だったことを。しかしブライデンは自分はそこにいたと言う。確かに彼が知り得ない情報だ。

ブライデンがジョンおじさんが殺される夢を見るようになってから、さらに恐怖が強まっていく。

モーガンはそれに対し、どう反応し、どう答えればいいのか、どうすればいいのか分からなかった。

ブライデンは言う。

「ジョンおじさんが死んだ夜、ポケットの中には5ドルといくつかのコインしかなかったんだ。彼は2つ折りの財布を持っていて、それにはマジッックで彼の名前が書かれていた。」

モーガンさえそんなことは知らなかった。ナンシーに確認するまでは。それは全てが事実だった。

ブライデンは、ジョンおじさんが殺された家を見せることができるとも言う。

家族はその家のある道路まで行き、ブライデンが一軒の家を指差す。

「あの家なんだけど前は黄色だったの」

そしてそれも事実だった。

モーガンが息子は前世の記憶を持っているのでは?と考え始めたのはその時だった。

伯父キャリーも、弟ジョンがブライデンとして生まれ変わったのだと思うようになっていた。疑いの域を越えて。家族の誰もが理解できないことがあまりにも多すぎる。

モーガンは南部のバプテストでイエス・キリストを固く信じている。日曜学校で輪廻転生は教わらないし、教会でも教わらない。輪廻転生なんて狂っていると思っていた。ブライデンを産むまでは。今ではちっともおかしくないし、そういうものが存在していることも分かっている。

家族の脳裏には、ジョンを殺した男はまだどこかに居るのか、この話にはもっと続きがあるのだろうか、という思いが横切る。

ブライデンには、ジョンおじさんしか知り得ない記憶がある。彼はブライデンが生まれる7年前に亡くなっている。

ブライデンは5歳の頃から、ジョンおじさんが殺された夜のことを夢に見るようになった。

キャリーは、警察から渡されていた箱を開けてみることにする。その箱にはジョンが殺害された時に身につけていたものが入っていた。

彼が着ていたシャツを見ると、前方に何かで吹き飛ばされたような大きな穴があるのに気がつく。前から撃たれたとすれば、なぜ前方がこんなにズタズタなのだろう。

そう思ってシャツを後ろの穴をすと、小指くらいの大きさだ。それを囲むように、まるで誰かが描いたような完璧な黒いマークがある。それだけ近距離から銃を突きつけられたと言うことだ。

一般的に銃の跡は入口よりも出口の方が穴が大きい。中心軸よりも拡張したり乱雑になったりするからだ。

キャリーの心に疑いはなくなっていた。ブライデンは自分が言っていることの意味を分かっている、彼はそこにいたのだと。

さらにある出来事が起こる。ブライデンが彼の叔母と農園にいたときのこと。ある男がそこで働いているのを目にするやいなやブライデンは言った。

「おばさん、おばさん、おばさん、来て!」

彼女がどうしたのかと尋ねると、彼は叔母の後ろに隠れて

「あそこに男が見えるでしょ。あの男が僕を撃ったんだ。」

しかし事件当時逮捕されていた男はブライデンが言う男とは別人だった。

警察は無実の人を逮捕したのか?そこで家族は警察から聞かされていた話は真実ではないと確信する。

そこで家族は、事件の再捜査をしてもらうことはできないものかと考え、ブライデンから聞いた話を全て警察に報告することに決めた。

家族の心の中で生き続けるジョンのために、公正な裁きをしてほしい。たとえ再捜査ができなくても、ブライデンンに安らぎを与える方法を見つけなければならない。家族にとってブライデンに関する一連のことは、困難な道のりだった。

7歳のブライデンはこう言っている。

「ジョンおじさんは教会を横切ったところで亡くなった。高校があるところだよ。彼は黄色の家で亡くなった。僕は彼のように眠りながら歩くし悪いこともする。

ジョンおじさんは僕をくぐり抜けることができるけど、彼になったような気はしない。でも彼が僕の中に居続ける時は、幽霊になった気がする。」

ナンシーは、ジョンが殺人事件の真実を伝えるためにブライデンになって帰ってきたのだと感じた。

家族はジョンおじさんの追憶とブライデンの心の安堵のために墓地を訪れる。

「あ、ジョンのお墓だ!」と言うブライデンに、モーガンが「大丈夫?」と声をかけると「うん」と答える。

キャリーが聞く。

「神様がジョンを君の中に送ったのはどんな理由なんだい?」

すると泣きそうな声でブライデンは答える。

「彼がおばあちゃんを愛していて恋しいと思っていることを僕に伝えるため。そしたら僕が伝えられるから。」

ナンシーは「本当にありがとう」と言い、ブライデンはこの家族にとってかつてない最高の贈り物だと言う。

ブライデンは今度はキャリーに向かって涙を堪えるように伝える。

「彼は一緒に過ごした時間を恋しがってる」

「僕も彼と釣りに行ったことが恋しいよ、ブライデン。」

ブライデンのことをとても愛していて、家族のために生きていると言うキャリーが、「愛してる」と言うと「僕もだよ」とブライデンが答えた。

ブライデンは今でもジョンおじさんのことを話すが、幸せな思い出を共有するようになったと言う。

家族はいまだに警察から再捜査についての返事はもらっていない。

ブライデンは前世は前世ということを理解していて、過去に執着する必要はないことも理解している。

ブライデンと釣りを楽しむキャリー。ブライデンはいつか前世を手放すと信じていて、すでにブライデンとして生きはじめたと感じると言う。


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