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【前世の記憶】孤児列車で移送された記憶が蘇る少女


アメリカ、ペンシルベニア州。ローレルとビルにはウィラという一人娘がいる。大学教授のローレルがこの地でのポジションを得たため、家族はニューヨークから引っ越してきた。

ウィラが2〜3歳のある日、ローレルがウィラを公園に連れて行った時のこと。大きな木を見上げてウィラが何か話しかけている。ローレルは、木に向かって話すなんて木が好きなのだと微笑ましく思って娘を見ていた。

公園から戻ると、自宅のドライブウェイにチョークで絵を描いていたウィラが言う。「もう一人のママを描くね」と。

「もう一人のママ?」

不思議に思ったローレルが聞き返すとウィラが言う。

「そう、公園にいたでしょ。」

それを聞いたローレルは動揺する。なんて事なの、何者かが娘を誘拐しようとしてたなんて!誰かが自分が彼女の母親だと吹き込んで誘拐しようとしたのだと。

ウィラを怖がらせたくなかったローレルは言った。

「もう一人のお母さんのことを話してくれる?」

彼女は木の上にいたと言う娘にその理由を聞くとこう答えた。

「彼女には片足しかないの。蛇に噛まれて悪いドクターが助けようとして、足を切断したんだけど結局死んじゃったの。彼女は木の上から下ろして欲しいと助けを求めてた。だから私言ったの。今の私は小さいの、分からない?下ろせないよ。そろそろ行かなきゃ。新しいお母さんがいるの、って。」

そう告げて去ったのだと言う。

もう一人の母親と話していたと言う娘の発言に、ローレルはショックを受ける。何が起こっているか訳が分からない。

ウィラは父ビルにはもう一人の母親のことを直接話すことはなかった。おそらくビルが疑い深い性格なのを察してのことだろう。ビルは、何かが見えるからといって、その人が何が起こっているのか理解しているとは限らない。だから全てに疑問を抱くのだと言う。

ローレルには、ウィラの顔を見れば彼女に何かが見えているのが分かる。しかし娘が聞こえているものが聞こえなければ助けられない。そのことがもどかしく苦しかった。

ウィラが4〜5歳の頃、幼稚園へ送っていく時のこと。ローレルは後部座席にいるウィラに、ランチに持たせたサンドイッチのことなどを喋り続けていた。すると窓の外を見ていた彼女が突然振り返り、母の方を見る。ミラー越しに見る娘の顔は違って見えた。同じ子供なのに、大人びた表情をしている。

そしてこう言うのだ。

「お母さん、あなたが与えた贈り物を取り戻さなければいけません。」

普段ウィラはローレルのことをお母さんとは呼ばない。両親のことはママ、パパと呼んでいた。お母さんという言葉が彼女の口から発せられたことは、かつてなかった。全くの別人のふりをする時以外は。

「それどういう意味?何を言ってるの?」

ローレルが聞くと、ウィラは「何?」と聞き返す。まるで母がなぜそんなことを聞くのか分からないと言う表情で。自分が言った言葉など全く覚えていない様子だった。

ローレルは娘の突然の変化に動揺する。同じ顔だが、性格や喋り方、深刻さが全く違う人物になっていたのだから。同時にローレルはこれを、ウィラが自分にメッセージを送っているのだと感じた。

実はウェラが2歳の時、ローレルは癌の宣告を受けていて、化学療法や手術、放射線治療などが約1年続いた。その頃のローレルは張りつめていた。自分の人生を自分でコントロールはもはや不可能なのだと。しかし幸いなことに、早期発見のおかげで癌が転移することはなかった。

娘からのメッセージにローレルは救われた思いだった。しかしこれはどういう意味なのか。少し不安にもなる。娘のことをおかしいと思うわけではないが、自分には理解できない何かが娘に起こっている。ローレルはもう一人の母親の件とつなぎ合わせ、娘に起こっていることに恐怖を覚える。

その後しばらくは平穏な日々が続くが、少し成長したウィラは、両親に見えるはずのないものが見えると打ち明ける。

実際に夜、自分の部屋からバスルームまで行く途中に「やめて!」と叫ぶ声もよく聞こえていた。ウィラによると、二人の女の子の霊が「わっ!」と言って驚かせようとしているのだと。それが霊だと信じようと信じまいと、親にとっても恐ろしいものには違いない。どうやって助けたらいいのか分からないのだから。

娘が親の目を引くために作り話をしているとは思えなかった。そしてこれらの霊はウィラの心をかき乱す。

さらに少し成長すると過去の記憶を思い出すようになり、ウィラは辛い時期を過ごす。眠れない夜が続き、神経過敏、何かに怯える時もあった。ウィラはその記憶をブロックできないのだ。

そんな娘を見るのは親としても辛かった。誰にこのことを相談したらいいのだろう。頭がおかしいと思われる?

ある時期、親子はカウンセラーの元を訪れる。しかしこの頃は、人生の中でも特に自分は他の子達と全く違うと感じていた時期。彼女は他の子供と違った目で世の中を見ていた。同年齢の子達が幼すぎると感じることもあった。

ウィラは常に変わった子供で、周りには馴染めない。彼女が孤独感を味わっていたのを知りつつも、そんな娘を救えないのは両親にとっても辛いものだ。

8〜9歳の頃、ウィラはビルに、西側へ送られる子供達について聞いてくる。学校でそれを学んでいるのかと聞くと、違うと言う。そして孤児とワゴン、ワゴンに乗せられた孤児達、そして移送される子供達について主にビルに質問をするようになる。一つ質問をしてしばらくすると新たな質問、さらにまた間隔をあけて質問という具合に。何が起こっているのか分からないビルは危惧し始める。

5年生から7年生の間のウィラは暗黒期だった。引きこもりがちになり、荒れていた。人気グループに入っていないからでもなければ、やりたい活動をできないからでもない。生も死も存在するこの世の中のどこで自分は馴染めるのだろうか、という悩みのようだった。

ローレルは親としてどうすることもできないことに無力感を感じる。この世では自分が母親でも、彼女の別の人生の側面を助けてあげられるわけではない。

どこにも属さないと感じていたこの時期、ウィラにとって学校は大きな苦痛を感じる場所だった。が、そんな学校で、皮肉にもこれまでの答えを見つけることになる。

ある日学校から帰ってきたウィラが珍しく興奮し、嬉しそうに言った。

「私おかしくなんかない、おかしくないのよ!」

明らかに安堵した表情だ。

どういうことかと聞くローレルに彼女は言う。

「孤児列車、孤児列車よ!孤児の列車が実在したの!」

ウィラによると、学校で歴史の授業中に孤児列車について学んだと言う。

孤児列車は1854年から1929年まで運行。主に東海岸の都市から孤児達を乗せて移送した。孤児達は中西部の農村部へ、養子として歓迎してくれる家庭、または最小限受け入れてくれる家庭へと送られていった。孤児達はその後幸せな人生を送る子達もいれば、奴隷のように働かせられる子達もいた。

突然垣間見始めたウィラの記憶の中に実際の根拠があったのだ。夢でもなく、狂っているわけでもなく。そして自分はその汽車の中にいたと思う、と言う。

ビルは心配していた。ウィラがより多くの記憶らしきものを思い出していたからだ。彼には存在するかさえ分からない何かを・・。ビルは前世の記憶に関して疑問を持っていた。が、ウィラはその立証を見つけた。

一方、我が子が自身をおかしいのではないかと恐れながら、自失状態で生きているのを悟った時、そして彼女を理解していなかったことに気がついた時、ローレルは胸が張り裂けるような思いだった。

ローレルは孤児列車の存在は知っていたが、前世の記憶だとは思っていなかった。ウィラの、自分も孤児列車に乗っていたと思う、と言う言葉を聞くまでは。娘を疑っていたわけではないが、考えがまとまらなかったのだ。ウィラが孤児列車に乗っていたと言った時、全く作り話だとは思わなかった。信じない理由は何もない。

ウィラは孤児列車の自分を描写する。花柄のドレスを着ていて、その模様は大きくもなければ小さくもない。まだ若い女の子。大人の男性と女性を見上げているのを覚えていると言う。おそらくそれが養父母だったのだろうと。

彼女には駅での記憶があった。同じ時期に養子となる金髪の男の子がいて、彼はワゴンに乗って行った。その男の子は孤児列車で1番の仲良しで、兄弟のような存在だった。ワゴンのことを思い出すのはそのせいなのではないかと言う。小さな丘の記憶もある。記憶はどんどん開花していく。

学校で孤児列車について学んだことがウィラにとって転機となった。

調べると、国立孤児列車記念館がカンザス州にある。ウィラはそこに行くことにする。

18歳になったウィラは言う。

「本当に国立孤児列車記念館に行けるなんてすごく嬉しい。自分の前世の実体のある部分を見に行けるなんてすごく稀な機会に恵まれていると思うわ。重要な部分を見つけられるか、とても楽しみ。」

ビルも彼女が外へ出ることは良いことだと賛成。

ウィラは養子先の家を覚えているため、もしかしたらその家の写真、または見覚えのある友達の写真が見つかるかもしれないと期待する。

「幼い頃から孤児列車の記憶を思い出し始めたの。同じ夢を何度も何度も見た。男の子が出てきたの。そして私はドレスを着た女の子。列車から降りて彼がどこかの家庭に貰われていくのを見てる。自分の家族も覚えてる。そして自分の名前も思い出したの。私の名前はアナだったと記憶してる。」

道中のカンザス州の景色を見ながらウィラは言う。

「この景色は列車から降りた時の景色と全く同じよ。すごく興味深い旅になる予感。自分の前世をできるだけ知りたいの。だってそれも自分の一部だから。全ての記憶、経験、全てが私という人間だから。」

たとえ記憶にある記録や写真を見つけられなかったとしても、自分と同じ立場にあった他の孤児達がどのような経験をしたのか、見ることができる。準備は万全だった。

そうしてウィラは孤児列車記念館に到着し、専門家アマンダに会う。

自分の記憶について聞かれたウィラは言う。

「多くの子ども達がすでに列車から降りて養子先に行っていました。私は最後の方の州、カンザスとかネブラスカだったと思います。年齢は8歳から10歳くらい。名前はアナだったはずです。」

アマンダはアナという名前の孤児のリストをウィラに見せる。

「Rという文字が名前のどこかにありました。彼女のファイルを見てもいいですか?」

と言ってウィラが指差したのは、Anna Ruth 。Anna Reed の可能性もあるが、とにかくRが一文字入っていたと言う。Anna Reedについては、カンザス州に養子に出されたという情報しかない。ファイルを見てみるが、情報が少なすぎてどちらのアナなのかピンポイントで見つけることはできなかった。

アマンダは孤児列車がカンザス州で停車した町の名前をリストにし、当時の新聞記事からウィラの目を引く情報がないか調べることをオファーしてくれた。ウィラは当時のスーツケース、ドレス、列車などの写真を見て、全てが記憶の中にあるものと同じだと感じた。

孤児院、だいたいの場所と年代が分かった今、原点ができた。そこからアナを探そう。

自宅へ戻ると、良くない知らせが待っていた。ローレルが乳がんだと診断されたのだ。

17年間再発しなかったのになんで今更とローレルは驚く。17年前に癌の診断をされたときは、死んでしまうことで頭がいっぱいだった。しかし今はそうは思わない。

ローレルは言う。

「終わりだと思わないのです。終わりはないのだから。私の娘を彼女の前世の母が見つけた。そこで気付いたのは、愛する人とのコンタクトがなくなることはないということ。大事な人達を見つけることができると信じています。次の人生でも、その次の人生でも、そのまた次の人生でも。最初がんと診断された時に比べれば、ほとんど恐れを感じることはなくなりました。」

ビルも言う。

「多くの人が言うことと反するが、私は人生に続きがあるともないとも証明することはできないと思う。でも家族は死後も引き継いでいくものだと感じる。その方が気分がいい。」

現在は手術と化学療法の過程にあるローレルの予後はとても良い。しかしたとえローレルに何かが起こったとしても、ウィラは母を失う気持ちにはならないだろうと言う。

「彼女がもし物理的にいなくなったとしてもここにいてくれる。」


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