【フタリソウサ】堕つる雅遊はむず痒く【シナリオ】

本作は、「著:平野累次/冒険企画局」が権利を有する『バディサスペンスTRPG フタリソウサ』の二次創作作品です。

●シチュエーション

 ある秋の日。探偵と助手は過去に解決した事件の依頼者からの誘いで小説家主催のホームパーティに参加するが、パーティの最中に小説家が自室で首を吊って死亡してしまう。単純に考えれば自殺だが、自殺と断ずるには異様すぎる現場の状況なのであった……。

●ロケーション・用語

多賀邸

 小説家多賀征の自宅。一軒家。親しい友人を招いて定期的に小規模なホームパーティを開いている。

自己愛性災害

 窒息プレイなどの自慰行為中の死亡事故。本シナリオのポイントは、多賀征の死因が、自己愛性災害なのか、それとも自己愛性災害を装った自殺なのか、という点である。シナリオ中に確定的な情報が存在しないため、探偵がどのように事件を解釈して収拾させるのかが最大の見せ所となる。

●登場人物

多賀征(たが・すすむ) 37歳

 二流小説家。本人はミステリ作家を名乗っていないが、読者からはミステリ作家だと思われている。最近人気低迷中。窒息プレイ愛好家。タートルネックのセーターを着ている。

多賀小枝子(たが・さえこ) 38歳

 ライター。多賀征の妻。多賀夫妻はお互いに過度に干渉しない主義のため傍から見ると冷えた関係である。しかし実際の夫婦仲は良好。

藤牧一(ふじまき・はじめ) 32歳

 角門書店(かどかどしょてん)の編集者、多賀征の担当編集。多賀征の人気が低迷し始めてから間も無く担当となった。多賀征にインスピレーションを与えるために、巷で話題の探偵と助手をホームパーティに招待した。

玉川史子(たまがわ・ふみこ) 44歳

 丸窓出版(まるまどしゅっぱん)の編集長。多賀征を小説家デビューさせた実績を持つ。近年は多賀征を角門書店に奪われ続けており苦々しい思いをしている。多賀征の人気低迷の原因が藤牧一だと思っている。

真岩哲夫(まいわ・てつお) 51歳

 中小企業社長。出版業界ではない。昔新人賞受賞で浮かれた多賀征が夜通し飲み歩いた際、3軒目あたりから明け方まで同行していた胡乱なおじさん。今では多賀征の唯一無二の飲み友達である。

●真相

 多賀征は小説家の男性である。最近人気が低迷しており精神的にひどく不安定であった。プレッシャーに押し潰されそうな彼が唯一解放される時間は、密かな一人窒息プレイであった。麻袋を頭から被り、天井から吊るした縄で麻袋ごと首を括る。首を括る輪の高さは多賀征の身長と同程度であり、直立している限りは首が締め付けられることはない。多賀征が移動したり屈んだりすることで任意の強さで自らの首を締め付けることができる寸法である。全裸である。首に窒息死寸前の締め付けを加えながら、己の局部を優しく、そして、激しく愛撫する。局部の刺激に由来する高揚のピークに合わせ、一層強く首を締める。高揚と窒息のピークが完全なる合一を果たすとき、その刹那、多賀征は全ての柵(しがらみ)から解放されるのだ。

 今回は運が悪かったのか、それとも望んだことだったのか。多賀征は一人窒息プレイが原因で死亡した。

 多賀征が死亡した現場の第一発見者は妻である多賀小枝子(たが・さえこ)であった。夫の異様な様相を前に、多賀小枝子の脳裏には様々な感情が湧き上がった。最終的に感情の蠱毒を生き残ったのは「恥」であった。多賀小枝子は大慌てで夫に服を着せ、その後に悲鳴を上げて関係者を呼び寄せた。

●犯人

 死亡したのは多賀征。死因は自殺、または、事故死(自己愛性災害)である。
 死因について、シナリオ中の情報からは絶対にどちらか一方に結論付けることはできないし、メタ的にはどちらが真相であるか決められていない。「犯人はお前だ」で探偵PCがどちらを解答したとしても正解となる。探偵は己の良心と矜持において、事態を収束させるために最も適切と考えられるバックストーリーを拵え披露する必要があるだろう。

●知ってたカード

知ってたカード1

 多賀征の首には「①」が見られ、他に目立った外傷が無いことから縊死で間違いないだろう。ただ、「②」ことと「③」ことが気に掛かる。「②」割には抵抗した形跡がないのも不審だ。
 多賀征からその前方1mまでの範囲に何かが『④』痕がある。

知ってたカード2

 多賀征は最近「⑤」に悩んでいた様子だ。このことについて、かつての担当編集である玉川史子は苦々しく思っている。
また、彼には「⑥」がかかっていることがわかった。家中探しても遺書が無いので「⑥」を狙った自殺と考えられる。だが、そうならば事故に装う必要があるが……。

知ってたカード3

※キーワード⑨はキーワード⑦と⑧の両方を獲得した後でなければ獲得できない。
 多賀征の服が乱れていたのは『⑦』からだ。だとすれば合点が行く。縄が妙に長いのは自殺ではなく「⑧」を目的としたものだったのだ。麻袋を被っていたこととも整合性が取れる。『⑨』ので、家族のためにわざとこのような痴態を晒して自殺したのだ。

知ってたカード4

※この知ってたカードにキーワードはない。
 本当にそうか? 縄と麻袋は随分と使い込まれているし、縊痕だってどう見てもプレイ1回分の痕ではない。元々プレイ自体は習慣であり、今回偶々事故死してしまっただけの可能性も残っている。だが、だからといって、自己愛性災害認定による保険金全額受給を目的とした自殺の線が消えた訳ではない。多賀征は一体何を考えていたのか。事故死なのか自殺なのか。死人に口なし。残された者が解釈するしかあるまい。

●キーワード

①縊痕
②服が乱れている
③首吊り縄が妙に長い
④飛び散った
⑤人気が落ちてきたこと
⑥多額の保険金
⑦多賀小枝子が慌てて着せた
⑧窒息プレイ
⑨自己愛性災害による死亡であることが証明できれば、保険金が全額降りる

■事件発生フェイズ

 PCたちは編集者の藤牧一(ふじまき・はじめ)に誘われ、小説家である多賀征のホームパーティにやってきた。藤牧一は探偵と助手のかつてのクライアントである。藤牧一が関わった事件についてはプレイヤーとGMで自由に演出しても良いだろう。

 ホームパーティは特別な催しではなく、定期的に多賀征が親しい友人を招いて行っているささやかなものである。多賀征の当たり障りのない挨拶と共に始まり、皆が適当に飲み食いし談笑する。それだけのイベントである。

 パーティ開始から1時間程度経った頃、多賀征は「ちょっと失礼」と言って自室に戻った。そしてその30分後に多賀小枝子が様子を見に多賀征の部屋へ行き、そして悲鳴を上げた。

 皆が駆けつけるとそこには呆然と立ち尽くす多賀小枝子と、麻袋を被り力なく首吊り紐から垂れ下がる多賀征の姿があった。

 玉川史子(たまがわ・ふみこ)が直ちに警察を呼び、やがて警察がやってきた。その中にはPCにもお馴染みの警察関係者の姿もあったりなかったりするだろう。

 PCたちは現場に対して猛烈な違和感を覚える。ただの自殺現場ではない。初動捜査では被害者の状態に対する違和感の正体を探る。この初動捜査で使用する技能は《外見》《現場》である。獲得できるキーワードはキーワード③である。

■捜査フェイズ

 多賀征の部屋を調査したり、パーティ参加者に聞き込みをしたりする。基本的に多賀邸が舞台である。

●フタリソウサシーン:④を調べた場合

 探偵と助手で協力して多賀の部屋を調査するシーンである。やがて、探偵と助手のどちらかが多賀の前方のフローリングの光沢が他の部分と異なることに気付く。多賀征から飛び散った何かが拭き取られ、残留したものが乾いて固まったことにより、多少の光沢が失われているのである。

 PC達は重要キーワード『④飛び散った』を獲得する。

●フタリソウサシーン:⑦を調べた場合

 第一発見者の多賀小枝子を問い詰めるシーンである。探偵PCと助手PCが尋問すれば、多賀小枝子は観念して自分の行いを語る。

 多賀小枝子「私が征の部屋に入ったとき、最初に目に写ったのはロープにぶら下がる弛んだ肉の塊でした。最初は何が起きているのかさっぱりわからず、悲鳴を上げることさえできませんでした。数秒経って状況を飲み込むことができてきました。弛んだ肉塊は、最近ご無沙汰ではありますが、私の夫たる征の肉体に他なりませんでした。そうすると私の脳内では恐怖や混乱を押し込めて『恥』の感情が湧き上がってきました。事態は全く理解できないが、征の痴態だけは隠蔽すべきだという結論に、そのときの私は至ったのです。私は大慌てで征に服を着せ、そして一呼吸置いて悲鳴を上げました。征が服を着たまま死んでいたと皆さんに印象付けるために、あえて悲鳴をあげて皆さんを集めたのです」

 PC達は重要キーワード『⑦多賀小枝子が慌てて着せた』を獲得する。

●フタリソウサシーン:⑨を調べた場合

 今や推理に必要な情報は全て揃った。多賀征は保険金を全額受給するために事故死を演出しようとした。この状況は事故となり得るのか? 探偵と助手で協力し、過去の類似事例を調べたり思い出したりする。そして、「自己愛性災害」という概念に行き当たったのだ。

 PC達は重要キーワード『⑨自己愛性災害による死亡であることが証明できれば、保険金が全額降りる』を獲得する。

■真相フェイズ

 探偵PCが推理をする。事件関係者をリビングや庭に集めるシチュエーションにすると良いだろう。

 「事件の振り返り」と「犯人はお前だ」を行う。「犯人はお前だ」で「多賀征の自殺」または「事故」を指定すると、「真相は暴かれる」に進む。しかし、通常のシナリオと異なり真相を語ることのできる存命NPCは存在しない。そこで代わりに、探偵PCが説得力のあるバックストーリーを考え披露しなければならない。「犯人はお前だ」に成功した時点でゲームクリアの扱いとするので、気張らず自由に演出して欲しい。

■終了フェイズ

 探偵PCがどのように事件を解釈し披露したかによって、GMが後日談を考え語る。

あとがき

 少々センシティブなシナリオです。Wikipediaの「自己愛性災害」の項を読んだことのあるプレイヤーなら事件発生フェイズで状況を理解してしまうかもしれませんね。
 このシナリオの肝は、探偵と助手を含め誰も真実を知らないという点です。この状況において探偵に求められるのは、物理的な事実を語ることではなく、関係者が納得できる形で事件を解釈し直す、という京極堂めいた行いなのです。

以上

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