【CoC】格子の向こう側〜Call of Excel〜【シナリオ】

スペック
時間:ボイセで4時間(つまり他の卓では2時間で終わる可能性がある)
人数:1〜4人向け
推奨技能:〈説得〉〈コンピューター〉〈経理〉
第6版と第7版のどちらでも遊べると思います。

アップデート

7/11(土): Bad Endを追加。普通にプレイしていたら普通はBad Endに行かないけれど、探索者が向き合っている事件の潜在的リスクをKPに理解してもらうために追加しました。

予告編

 サブカル系グッズの企画販売を行っている山嶺商事。社長は山嶺仁慈(やまみね・じんじ)。従業員数は30名という中小企業である。あまりにもニッチなグッズしか取り扱っていないため、一般人からはおろか同業者からの認知度も殆どない。そんな有様だが全社員を養えるだけの利益は出ている。

 そんな山嶺商事は情報システムを導入してから10年以上経つ。OSはWindows XPだし、導入ソフトはOffice 2007だ。ハードやソフトがサポート切れでも騙し騙し使ってきたが、流石に更改の時期だ。社長は決してITを軽視しているわけではないのだが、全くと言っていいほどITの知識がない。社長がそんなだから社員も言わずもがなである。

 山嶺商事にも一応システム部は存在する……所属しているのは名ばかり部長の曇円加(くもり・まどか)だけであるが。部長と言えども平社員も同然であり、プリンターのトナーを交換したり、印刷用紙を補充したり、社長にソリティアの遊び方を指南したりしている。それは総務の仕事ではないか? 総務は何をやっているのか? 総務部はお局様の前山田民子(まえやまだ・たみこ)に支配されており、給湯室で井戸端会議をすることがミッションである。総務部と仲良くしておけば良い茶葉を使う権利を得ることができる。

 さてさて、そんなありさまであるから、山嶺社長はシステム更改のためにITコンサルタントを雇うことにした。そのITコンサルタントこそが探索者なのである。ガラパゴス化したパンドラのブラックボックスにリバースエンジニアリングのメスを入れて深淵を理解し、文明の名の下に秩序だった企業システムを設計し直すことが探索者の任務だ。裸一貫で秘境を歩く訳でも、アナコンダの巣を突く訳でもあるまい。命の危険などある訳もない。いつも通りのプロフェッショナルの仕事を見せてくれるだけでよい。

 会社のシステムのステークホルダーはエンジニアだけではない。Officeの資格は取ったけど何もわからない新入社員、サーバーのコンセントを抜くことの重大性を知らないビル掃除の人、脱税の臭いを嗅ぎつけたマルサといった人々だって探索者には成り得るのだ。

NPC

山嶺仁慈(やまみね・じんじ)(67歳、男性)
 山嶺商事の社長。ITのことはよくわからないが、ITにするとよいことがあるし、古くなったら新しいものに取り替えなければならない、という程度のことは理解している。最近は曇に教えてもらったソリティアやスパイダーソリティアにご執心であり、会社に対して余計なことをしないので平和である。都市伝説に見られるような業務時間中にAVを視聴するような糞爺ではない。見たくても見られないのだ。何故なら曇によってチャイルドロックされているから。

前山田民子(まえやまだ・たみこ)(57歳、女性)
 総務部のお局様。社長のことを見下しており、社長を「山嶺」と呼び捨てにしたり、ハゲ親父と罵ったりする。前山田と山嶺の間に過去に何かあったようで、現在山嶺は逆らえないようだ。
 給湯室の全てを統べており、前山田民子の許可がなければ一定金額以上の茶葉を使用することが許されない。
 来客に対しては物腰柔らかいおばちゃんとして振る舞うので、殆どの探索者にとって驚異にはならないだろう。
 山嶺商事の最古参の一人であり、会社に関する様々なことを知っている。

曇円加(くもり・まどか)(36歳、男性)
 最近入社したばかりのシステム部部長。非常に腰の低い態度である。社長にソリティアやスパイダーソリティアの遊び方を教えた張本人である。曇曰く、社長をソリティアに釘付けにすることで余計なことをさせないようにするというリスクマネジメントなのだとか。
 その正体は遠い未来から来たイスの偉大な種族。宇宙規模の大問題を引き起こしかねない『バグ』を取り除くためにこの時代にやってきた。
 人類が作り込んだバグは人類が責任を持って処理するべきであるという考え方の持ち主である。探索者が依頼すれば様々なサポート(具体的にはExcelの使い方を教えてくれたり、技能の判定をしてくれたり)をしてくれるが、最も重大な選択に関しては何一つアドバスをくれない。人類としてどのような責任のとり方をするのかを試してくる。

蔀春賀(しとみ・はるか)(41歳、男性)
 12年前に山嶺商事を退職したシステムエンジニア。「【最新版】山嶺商事基幹システム_v1.4_20081121 - コピー_訂正3_rev5..xls」を半年で作り上げ、何かに怯えるように退職した。
 退職後は独学で物理学の勉強を始めたが挫折。大学理学部に入り直す。卒業後イスの偉大な種族に遠い未来のカブトムシの体に精神を飛ばされた。5年後、元の時代に帰還したが、正気を保つためにカブトムシになりきろうとしていたことが仇となり発狂。自宅付近の森でカブトムシとして生活し始めた。探索者が出会えるのはカブトムシ浮浪者モードの蔀である。

導入

 探索者たちは山嶺社長から仕事の内容について説明を受けている。

山嶺社長「君たちがITコンサルタントかね。実に優秀そうな顔ぶれではないか。まずは自己紹介をしてもらえんかな」

 探索者たちに自己紹介と山嶺商事のシステム更改に関わることになった経緯を話すよう促そう。全員の自己紹介が済んだら山嶺社長が話を始める。

山嶺社長「うむ、なんとも頼もしい限りだよ。この会社も10年ちょっと前にIT化というものしてね、業務が効率化して利益が以前より出るようになったんだよ。でもワシは相変わらずシステムのことはわからなくてね、システム部長の曇円加(くもり・まどか)に全部教えてもらっているんだ」

山嶺社長「そうそう、紹介しよう。我社の唯一にして最高のエンジニアである曇円加君だ。曇君、後の説明は頼んだよ」

 曇円加は一見したところでは頼りない痩せ気味の青年である。曇は探索者に対して常に腰の低い態度を取り続ける。

曇「ご紹介に預かりました。曇円加と言います。半年前に中途で入社したばかりですが、システム部の部長なんてものをやらせて頂いています。システム部には私しかいないんですけどね」

曇「さあさあ、私のことは兎も角として、早速現状の情報システムを見て頂きましょう」

曇が情報システムの中枢部まで案内してくれる。

『サーバ』の洗礼

 情報システムなどと立派な呼ばれ方はしているが、山嶺商事ではサーバの1台も所持していない。最近流行りのクラウドというわけでもない。本当にサーバが無いのだ。神棚(菅原道真が祀られている)の丁度真下にPCが置かれており、社員一同から「サーバ」と呼ばれている。「サーバ」なんて呼ばれているがハードは普通のデスクトップ型PCであり、中にインストールされているOSはWindows Server 2008ではなくWindows XP Professionalである。導入されているソフトウェアはOffice 2007だけだ。

 「サーバ」のCドライブには「山嶺商事基幹システム」というフォルダがあり、中には以下のファイル、フォルダが格納されている。

C:¥山嶺商事基幹システム
│ │ ダブルクリックしてね.bat
│ │ 【最新版】山嶺商事基幹システム_v1.4_20081121 - コピー_訂正3_rev5..xls
│ ├─DB
│ │ │ 給与管理.txt
│ │ │ 在庫管理.csv
│ │ │ 予算管理.csv
(中略)
│ ├─old
│ │ │ 【最新版】山嶺商事基幹システム_v1.1_20081001.xls
│ │ │ 山嶺商事基幹システム_v1.1_20081904.xls
(中略)
│ ├─取り込みデータのフォーマット
│ │ │ 【ボツ】【山嶺商事基幹システム】予算管理_フォーマット_承認済み.xls
│ │ │ 【最新】売上管理_山嶺商事基幹システむ_.xls
│ │ │ 【山峯商事基幹システム】給与管理_フォーマット_20090102.xls
│ │ │ 【山嶺商事基幹システム】在庫管理_フォーマット_v4.1.xls
(以下略)

 ポリシーというものが全く以て見えないその場しのぎで付け足していった冒涜的な命名規則のファイル名。【最新版】という文字列は自身が最新版であることを主張しているが、「old」フォルダを漁れば【最新版】という名乗りがこのパソコンにおけるトレンドであることがわかるだろう。ファイルの種類ごとにフォルダを分けるという最低限の理性の痕跡は、名状しがたい名状の惨状をただただ際立てるのみである。 
 システムと称されていたものの正体はExcelファイル。その名も「【最新版】山嶺商事基幹システム_v1.4_20081121 - コピー_訂正3_rev5..xls」である。システムと言うからにはおそらくマクロ付きブックであろう。このご時世に拡張子「.xls」を使っているのもマクロを使用する必要があったために違いない。ならば何故「.xlsm」を使用しないのか。

 情報システムと称されていた存在の正体を目の当たりにしたことで、ある程度のリテラシーを持つ者は否が応でも異常性を理解せざるを得ないだろう。〈コンピューター〉が6以上のキャラクターは、〈正気度〉ロールを行う。減少量は「0/1d3」である。

曇「如何でしょうか? これらは全てかつて当社に在籍していた蔀春賀(しとみ・はるか)というエンジニアが作成したものです。蔀はシステムのシの字も知らない状態から独学で本システムを作り上げたのです……と聞き及んでいます。彼が退職してからは一度もメンテナンスされていません」

曇「皆さんにご依頼したいのは、このガラパゴス・パンドラ・ブラックボックスをリバース・エンジニアリングし、現状が如何に酷い有様なのかをリテラシーのない人間でも理解できるような報告書に落とし込むことです。新システムの要件定義はそれが終わってからです。まずは現実を正しく理解しましょう」

【最新版】山嶺商事基幹システム_v1.4_20081121 - コピー_訂正3_rev5..xls

 約10年前に蔀春賀が6ヶ月で作り上げたExcelのマクロ付ブックである。ファイルサイズが1GBを超える異様に巨大なファイルである。

「readme」シート
 マクロの使用方法が書かれている。所定のフォーマットに数値を入力してマクロと同じフォルダに配置し、このシート内の「実行」ボタンをクリックする手順らしい。説明文はたったの2行である。
 このシートはのセルの大きさは初期サイズではなく、全てのセルが2cm×2cmの正方形に変更されている。所謂Excel方眼紙である。
 〈アイデア〉や〈コンピューター〉で判定を行うことができる。成功すれば次の事実に気付くだろう:

マクロ起動用のbatファイルが用意されているのに、ブック内にも起動用のボタンが用意されている。まさかこの会社の人間はマクロ付きブックを開くことすら嫌厭しているのではないだろうか。逆にbatファイルからの実行の方がエンドユーザにとって敷居が高いのではないか?最終的にbatファイルを使用する方法に落ち着いたということは、このマクロ付きブックを開くことに一定のリスクがあることに他ならないのではなかろうか。

非表示シート
 殆どのシートは非表示になっている。〈アイデア〉や〈コンピューター〉に成功したり、プレイヤーのリアル知識に基づく指摘があれば、非表示シートの存在を明かすこと。

非表示シート一覧
・readme_bk
・エラー結果
・sheet3
・sheet4

「readme_bk」シート
 マクロの使用方法が書かれている。「readme」シートとは異なり、使用方法が詳細に書かれており、利用者が操作しなければならない項目が多い。説明を読めば以下のことがわかる。

・取り込みデータの格納場所や、結果の出力場所を指定できるようになっている。
・「実行」ボタンをクリックする前に「エラーチェック」ボタンをクリックして取り込みデータにエラーが無いことを確認する必要がある。エラーが存在する場合は「エラー結果」シートに表示される。
・取り込みデータの形式は元々はCSV、TSVを想定していたようだ。

 〈アイデア〉や〈コンピューター〉で判定を行うことができる。成功すれば次の事実に気付くだろう:

開発中は取り込みデータの整合性チェックも実装する想定だったのだろう。実装が間に合わなかったのか、それとも、他のユーザにとって「エラーチェック」→「エラー修正」→「エラーチェック」→「実行」というフローさえハードルが高かったのか。取り込みデータの形式は元々CSVとTSVを想定していたようだが、この会社のリテラシーではコンピュータが取り扱いやすいデータ形式の価値は理解されなかったのだろう。そうでなければ取り込みデータのフォーマットとしてネ申エクセルが採用されることはあるまい。

 バックアップの内容から垣間見えた山嶺商事のITリテラシーの著しい低さに寒気を覚えるだろう。〈コンピューター〉が6以上のキャラクターは、〈正気度〉ロールを行う。減少量は「0/1d3」である。

「エラー結果」シート
 取り込んだフォーマットにエラーが有った場合、フォーマットの何行何列目にどのような誤りがあったのか表示するためのシートのようだ。

「sheet3」シート
プロパティの「Visible」が「xlSheetVeryHidden」になっているので、Visual Basic Editorからでないと表示させることができない。Visual Basic Editorのプロジェクトにはパスワードが掛かっているので、シートの内容を確認するにはパスワードが必要である。
 中身は方眼紙にすらなっていないデフォルトのシートである。なにも無い。〈目星〉や〈コンピューター〉の判定に成功すると、本当に何も無いことがわかる。何もないデフォルト設定のシートは人間にとっての盲腸めいて世界中のExcelファイルに潜んでいる。そんなことは〈コンピューター〉が6以上のキャラクターにとっては当たり前のことである。今更正気度を失うこともない。

「sheet4」シート
 開こうとすると異様に重く、表示に1D6分かかる。相変わらずの方眼紙だが、他のシートに比べて縦横の長さが短い。一見すると何も無い。
 〈聞き耳〉に成功すれば、ほんのうっすらとだが腐った臭いがすることに気づく。臭いの出どころはどう考えても目の前のパソコンだが、臭いを発する周辺機器は接続されていない。
 〈目星〉や〈コンピューター〉に成功すれば、50万行目辺りが非表示になっていることに気付く。非表示行に気付いた時点でもう一度〈聞き耳〉に挑戦できる。2度めの成功であれば、さっきよりも腐臭が少し強まったことに気付く。
 非表示行を再表示すると大量のオブジェクトが姿を表すと当時に強烈な腐臭があなたの鼻を突く。オブジェクトの一つ一つはOfficeの基本図形、即ち、三角形、四角形、五角形などであるが、色や模様は既定値のものではなく薄黒く悪趣味で視認性の悪いものが設定されている。個々の基本図形はそれ以上の幾何学的意味合いを待たないが、総体として認識することでその試みが過ちであったことに気付くだろう。図形の集合は何らかの獣のようなシルエットを形作っており、その獣は無数の円によって覆い隠され、押しつぶされ、閉じ込められているように見える。あなたが見ている間にも円は次から次への生成され獣を苛む。獣状の図形の集合体は目のような部位を持ち、「目」はOfficeのオブジェクトが本来持ち得ぬ感情の籠もった恨みがましい視線をあなたに向けている。

 この世の地獄とも思えたガラパゴスExcelファイルの格子の間からは、あの世の奈落からの使者がこちらを覗いていた。この様子を視認したキャラクターは、〈正気度〉ロールを行う。減少量は「1d6/1d20」である。

Visual Basic Editor
 開発タブは最初から表示されているので特に迷うことなく起動することができる。しかしプロジェクトにパスワードがかかっているのでソースコードを確認することはできない。

※パスワードは「moudame」であるが、ここでは入手できない。蔀春賀本人から聞き出すか、蔀春賀の自宅で探索を行う必要がある。

 プロジェクトに正しいパスワードを入力すると、VBAのソースコードを表示することができる。ソースコードを読み解くには〈コンピューター〉で成功する必がある。
 エディターには大量のプロシージャが定義されている。作成者はプログラミングに不慣れであったのだろう。整形はされておらず読みにくいことこの上ない。一行ごとに処理を説明するコメントが記載されている。おそらく初めてのコーディングだったので備忘の為に記載していたのだろう。変数にはa,b,cといった役割のわかりにくい名前が与えられており、型は全てVariant型である。型を気にせず全ての値を代入することができてしまう悪魔の壺である。金の計算をしているのにも関わらず丸め方は適当だ。すなわち、四捨五入したり、明示的な丸め処理をしていなかったりしている。当初は入力データのエラーチェックを行っていたようだが、大半はコメントアウトされている。コメントアウトされずに残っている処理にしても判定結果を返さないので結局意味を為していない。至るところに禁術On Error Resume Nextが記載され、エラーなんてなんのそのである。ここ十数年の間にも法令改正が何度もあり、金の計算方法はエンハンスが必要なはずなのだが、そのような形跡は全く見られない。このブラックボックスは法的にもブラックだったという訳だ。

君たちは学部1年生が課題で作ったかのような稚拙極まりないプログラムが企業の根幹に関わる処理を行っているという事実に直面してしまった。〈コンピューター〉の技能値が6以上のキャラクターは〈正気度〉ロールを行う。減少量は「 1/1d6+1」である。

 プログラムはまだまだ続く。プロシージャの名前は基本的に英単語の組み合わせで命名されているが、後半から見慣れない単語が頻出し始める。適切な技能を持っていればラテン語が混ざっていることがわかるだろう。1行あたりの文字数は次第に密度を高めていき、自然言語として意味を持った文字列を形成し始める。プログラマーとしてのあなたの頭脳はフル回転しており、英語やラテン語の素養がなくとも、ソースコードを解析するが如く脳内でコンパイルが行われていく。地平の彼方は自分の足元にあり、永劫の果ては昨日のことのように思い起こされる。その全てを享受すれど理解には遥か及ばず、而して珪素上の矮小なる格子に築いた複製は不完全なるが、狭間より真実の一端を垣間見せる。矢が向かうは前のみに非ず、明日の暴食は昨日の腹を満たす。円環を閉じよ! 矛盾は内包せよ! 撞着に執着せし獣を膠着せよ!
Call UtLucrumAFutura
Call BestiaCirculusInCaptionem

読み方 for KP
UtLucrumAFutura:ウート・ルークルーム・ア・フトゥーラ
→"get profit from future"をGoogle翻訳でラテン語に翻訳し、キャメルケース表記にしたもの。
BestiaCirculusInCaptionem:ベスティア・サーキュルス・イン・キャプティオネム
→"trap beast in circle"をGoogle翻訳でラテン語に翻訳し、キャメルケース表記にしたもの。

 今やトランス状態に入った探索者の脳内には冒涜的なな呪文とプロシージャが跋扈し、論理ではなく直観による強制的な理解を齎している。このソースコードを読んでしまったキャラクターは〈正気度〉ロールを行う。減少量は「1/1d10」。また、〈クトゥルフ神話〉および〈コンピューター〉の技能ポイントがそれぞれ1点上昇する。

 「UtLucrumAFutura」と「BestiaCirculusInCaptionem」はプロシージャであり、〈コンピューター〉による判定に成功すれば処理内容を理解できる。

Sub BestiaCirculusInCaptionem
 VBAのサブルーチンである。「sheet4」シートに延々と楕円を生成して配置する処理を主に行っている。

Function UtLucrumAFutura
 VBAの関数である。5年未来の山嶺商事の会計データから金を掠め取り戻り値とする。

社員(主に前山田民子)から聞けること

・蔀は12年前に山嶺商事を退職した元社員。蔀の基本的な情報は山嶺商事の社員に聞けば教えてもらえる。判定は必要ない。
・蔀は文学部哲学科卒である。
・蔀はOfficeの資格を取得していたので社内で重宝されていた。パソコン、プリンタ、エアコン、湯沸かし器、etc、家電のトラブルは蔀にすべて任されていた。
・12年前に社長が突然社内システム導入を叫び、一番パソコンに詳しかった蔀をプロジェクトマネージャーに任命した。与えられた期間は半年。雑用と並行しての任務であった。
・蔀はシステムを作り上げた直後に消えるように退職した。理由は社長しか知らない。退職届はちゃんと出されていたようだ。
・蔀は非常に真面目な人間であり、どんな仕事を依頼されても嫌な顔ひとつせずこなしていた。
・蔀は退職間際、顔色は大変悪かった。体調の悪さからくる顔色の悪さではなくなにかに怯えているようだった。
・蔀の連絡先や住所は12年前のものであれば保管している。ただ、個人情報なのでそうそう簡単には渡せない。→交渉系の技能で判定
・現在のシステム担当の曇は人付き合いが悪いし、なんか黒画面でハッカーみたいなことをしてて信用ならない。Excelを開いているのを見たことがない。

山嶺社長から聞けること

・蔀は大変良く働いてくれていた。彼がいなければITによる業務効率化なんて夢のまた夢だった。
・蔀が退職届を提出しに来たとき、「私は大変なことをしてしまった。仕事を続けるわけにはいかない」といっていた。それに対し社長は「そりゃあ大変な成果だよ、君。自分の仕事に誇りを持っていいんだ。どうか退職を踏みとどまってくれないか」と頼んだが聞く耳は持たなかった。
・システム部は人の入れ替わりが激しい。今のシステム部社員は蔀から数えて6代目である。曇は半年前に入社した。蔀以来の非常に優秀なエンジニアである。曇のおかげでソリティアをクリアできるようになった。

山嶺商事の経営状態

 世間的にはこの時勢において比較的経営状態の良い中小企業として知られている。社内のデータをざっと確認した感じでは、世間の評判と遜色ないキャッシュフローである。
 〈経理〉で判定して成功すると違和感を覚える。全体として計算はあっているのに、細部の計算が合わない。殆どの商品の売上が悪く赤字を出しているのにもかかわらず、全体として利益が出ているのだ。しかし利益の出どころがわからない。
 更に〈経理〉で判定を行うことができる。数年間に渡って会計データを読み込むと、任意の年度の雑収入とその5年後の使途不明金がほぼ一致していることがわかる。

蔀春賀の自宅

 山嶺商事から教えてもらった住所はとあるマンションの308号室である。蔀の表札はかかっているが不在のようだ。大家に聞けば家賃は支払われているがしばらく帰ってきていないとのこと。
 鍵開けなどで蔀の部屋に侵入すると、ゴミ屋敷となっている。部屋の奥には大量のノートや、物理学、数学の専門書が散乱している。ノートには鼻水や涙と思しき体液が染み込んでおり大変汚らしい。時間に関する理論を必死に理解しようとしていた痕跡が伺われる。
 〈物理学〉や〈数学〉などに成功すれば、次のことがわかる:

蔀は、数値シミュレーションの結果によって時空に影響を与える方法、具体的にはExcelマクロにおいて時空の任意の要素をメモリと見なして値を書き換える方法を探求していたようだ。

 〈目星〉に成功すれば日記を発見できる。退職してから毎日つけていたようだ。

2009/1/15 とんでもないことをした。あの会社が倒産したとき終わる。世界が終わる。

2009/2/11 わからない。私はどうやってあのマクロを組み上げたんだ。いや、再現はできる。だがロジックがまったくわからない。

2010/1/15 山嶺商事はまだ健在だ……まだ大丈夫……まだ大丈夫……

2011/7/15 高校以来久しぶりに物理学を勉強した。足しにはならなかった。

2012/4/1 今日から大学。この歳からの学び直し、普通はわくわくするものなのだろうが、全く気持ちが晴れない。好奇心ではなく罪悪感が私を突き動かしているからだ。

2016/3/31 今日で卒業か……結局マクロのロジックは理解できない。そもそもパソコン1台で時空を操作するなんてありえないだろう……私は一体何を考えているんだ?

しばらく空白

2019/12/27 (久しぶりにペンを持ったような崩れた字で)私はカブトムシ……私はカブトムシ……解除キーはなんだって聞かれたからmoudameだって答えたのに……私はカブトムシ……

 マンションの周辺で聞き込みをすると、半年前から不審者が町外れの森で木登りをしている様子が目撃されていることがわかる。

 1時間程度の捜索で難なく蔀を発見できる。蔀は大木にへばりついてブツブツ独り言を言っている。

蔀「私はカブトムシ。アインシュタインは間違っている。私はカブトムシ。ビル・ゲイツも間違っている。私はカブトムシ。私はカブトムシ。もうダメだ。私はカブトムシ。もうダメだ。もうダメだ。もうダメだって言ってるだろう」

蔀「私はカブトムシ。もう何度も言わせないでくれ。私はカブトムシ。円環を閉じたのは偶然だったんだ。私はカブトムシ。後になってから自分のやったことを理解したんだ。私はカブトムシ。もうダメなんだって。私はカブトムシ。おまえたちの言う通りだよ。私はカブトムシ。この世界はもうおしまいだ。私はカブトムシ。もうダメだって言ってるだろ!私はカブトムシ。解除キーってどれのことだよ!もうダメだって言ってるよ!他には無いよ!私はカブトムシ……」

クライマックス

 探索者が以下の要素を満たすと曇が話しかけてくる。

クライマックスの条件
・「sheet4」の謎の存在に気付く。
・マクロの処理内容を理解する。

曇「みなさん、進捗は如何でしょうか。その様子では全てを理解することができたようですね」

 曇は極めて真摯で紳士的な態度で以下の内容を話す。一方的に話すのではなく、探索者と会話しながら小出しにすると雰囲気が出て良い。

・山嶺商事のExcelマクロについて、プロジェクトのパスワード以外の全てを私達は知っている。
・山嶺商事のExcelマクロはバグである。ソフトウェアで言うところのバグではなく、この時空におけるバグである。
・極限状態の蔀が偶然にも時空のバグを取り込んだ社内システムを作り上げてしまった。今や山嶺商事のExcelマクロと時空は深く結びついてしまっている。
・放置しておけばこの時空は終焉を迎える。私達の種族も君達の種族も諸共。
・私達としても看過できる事態ではないが、パスワードがわからないし、「sheet4」シートの存在があったので迂闊に手が出せなかった。
・蔀に直接、マクロの仕組みやパスワードを聞いたが有用な情報は得られなかった。
・人類の作り込んだバグには人類が責任を持って対処すべきである。それがこの時空に住まう者としての責務である。
・「sheet4」シートの存在は言わば古の時空エンジニアといった存在である。解き放てばメンテナンス行為を行ってくれるだろう。
・古の時空エンジニアが私達や君達にとって利を齎すか否かは保証できない。少なくとも、時空にとっては好ましい結果を齎してくれるはずである。
・曇が提案できる選択肢は2つ。1つは未来永劫山嶺商事のExcelマクロを保守運用し続けること。もう1つは古の時空エンジニアを解き放つこと。人類として責任を持って行動を選択してほしい。どのような結果になっても私達は最後まで見守る。それがこの時空に住まう者の責務だからである。

結末:「【最新版】山嶺商事基幹システム_v1.4_20081121 - コピー_訂正3_rev5..xls」を未来永劫保守運用することにした場合

 曇は「なるほど、それも一つの答えでしょう」と言い残しその場に倒れ伏す。そして直ぐに立ち上がり、「うわああああ!!!!あんたたちは何者だああああ!!!!カブトムシじゃないだとおおおお!!!」と錯乱する。
 探索者は臭いものに蓋をすることを選択した。差し当たっての不都合は無いだろう。山嶺商事が存続する限りはこの時空が崩壊することは無いのだから。

Bitter End

結末:「sheet4」シートの存在を解き放つ場合

 曇は「なるほど、自分たちの危険を顧みず、種族や時空の確実な安全を選択するのですね」とコメントする。
 「BestiaCirculusInCaptionem」を削除またはコメントアウトによって無効化すると、やにわに悪臭がパソコンの周囲に立ち込め、画面から醜悪な獣が徐々に姿を表す。今やOfficeの基本図形によって形作られたチープな輪郭の動物ではなく、醜悪の煮こごりとでも言うべき厚みを持った得体のしれない獣である。獣は蔀のマンションの方角に一目散に走っていく。探索者には目もくれない。数秒後、再び帰還した獣は山嶺商事の戸棚、デスク、キングジム、プリンタといったオフィス用品や、社長、お局様といった古参の社員を貪り尽くす。やがてオフィスはテナントが入る前の伽藍堂の状態となり、残されたのは探索者、曇、山嶺商事の新入社員のみであった。

曇「この時空に住まう者としての責務を立派に果たされましたね。こういうとき、君達の社会では手を打ち合わせる行為……拍手によって賞賛の意を示すのでしたね(パチパチパチパチパチパチパチパチ)」

 ひとしきり拍手をすると曇はその場に倒れ伏す。そして直ぐに立ち上がり、「うわああああ!!!!あんたたちは何者だああああ!!!!カブトムシじゃないだとおおおお!!!」と錯乱する。
 山嶺商事はExcelマクロが元で10年近くバグり続けていた。そのバグが取り除かれたことでこの十数年間の山嶺商事の存在は消滅してしまったのだ。それが時空が崩壊することよりもマシなことなのかはそれぞれの探索者の心の中で消化していって欲しい。

Normal End

結末:やらかした場合

 あまりにも大外れの行動を選択した場合、世界は終焉を迎えることだろう。想定されるやらかしの例を以下に示す。

・「【最新版】山嶺商事基幹システム_v1.4_20081121 - コピー_訂正3_rev5..xls」を破壊する。
・「サーバ」をシステム的に破壊する。
・「サーバ」を物理的に破壊する。
・5年以内に山嶺商事が倒産する事態を引き起こす。
・他にも色々あるはずだ

 「【最新版】山嶺商事基幹システム_v1.4_20081121 - コピー_訂正3_rev5..xls」は時空に穴を穿ち局所的な情報のループを構成していた。このループを流れる情報は本来であれば歴史に矛盾を来すはずだが、山嶺商事内で完結していたため今まで世界に影響がなかった。ではこのループが途切れるようなことが起こればどうなってしまうのか。矛盾情報は行き場を失くすだろう。人類には全く想像もつかないが(KPは思い付くはずだ。いや、思い付け)、きっと宇宙の構造にとって良からぬことが起きるだろう。

 うっかりループを破壊してしまったとしても「sheet4」シートの古の時空エンジニアがどうにかしてくれるかもしれない。でも彼を解放する前にファイルやサーバ本体を破壊してしまったら、その望みは絶たれるだろう。

 KPは考えられる限りの言葉を尽くして時空が捻じ曲がり世界が終局に向かう様を描写してほしい。人間、イス人、その他世界の内側にしか存在し得ないものは皆消えて果てるだろう。

Bad End

報酬

・ティンダロスの猟犬を解放した:SAN+20
・イス人とコミュニケーションを取った:〈クトゥルフ神話〉+1
・Normal Endの場合、ITコンサルで来ていたPCの会社の口座には山嶺商事から支払われるはずだった報酬が入金されている。イス人からのちょっとしたお駄賃かもしれない。

あとがき

 筆者が噂に聞いたり実際に経験したりしたExcelあるあるを盛り込んだシナリオです。近くの神社に得体の知れない神が祀られていたり、自分の先祖に人ならざる存在が含まれていたりする世界です。老朽化したシステムが時空に穴を穿つこともあり得ましょう。

 KPにはある程度のExcel知識が求められます。また、PLも普段から仕事でExcelを利用していないとシナリオに没入することが難しいかも知れません。筆者の卓ではエンジニア3人組がリアルSANを減らしている一方で、残りの2名は新入女子社員と熟年清掃員(4児の母)に扮して給湯室で高度な井戸端会議エミュレートを楽しんでいました。そういう遊び方もあるかも知れませんね。

以上

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