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腰が痛い

腰が痛い。まだ25歳なのに。
原因は単純にして明確である。仕事のせいである。私が仕事を辞めたい理由は60個くらいあるのだが、そのうちの一つは腰が痛いからである。
私は総合病院で看護師をしていている。看護師は肉体労働と感情労働のハイブリットで肉体とメンタルが疲弊する仕事である。職場の人たちはみんな整体に行ったりコルセットを巻いたりしている。でも私みたいに勤務中に「いでーっ」てなってる人はあまり見ない。患者を持ち上げたり支えたりするのにいちいち腰に負担がかかるのである。学生時代はボディメカニクスを活用すれば腰に負担がかからないと学んだが、数をこなしている内に体はバキバキになる。腰の痛みが特にひどいのは朝である。朝起きると腰が痛くて元気よく起きれない「いだだだ」と言いながらヨロヨロ起きるのである。そしてしばらくは老人のようにヨロヨロ歩いている。

さて、私はこの痛みを解消するべく、ついに整体に行った。人生初の整体である。口コミで良さそうなところを適当に予約した。実際に行ってみると思っていたよりも完全個室で整体師である中年男性と二人きりであった。こいつに完全に背中を預けるのか…と失礼ながら不安になりつつ施術が始まった。
驚くことにこの整体師、死ぬほど喋るのである。もちろん骨とか施術の内容も喋るのだが、全然関係ないことも喋る。この店がいかに売れているかとか、現在の首相がダメだとか政治だダメだとか日本はもうダメだとかそういう話を永遠にしている。リラックスどころではない。私は完全に年上に相槌を打つ若者モードに入ってしまい「あ〜そうなんですね!知らなかったです〜!すごいですね!」を繰り返していた。
その後、謎の熱線を腰に当てたりしていたが、私は狭い個室でこの男と二人きりで接待の真似事をしていることに精神が疲弊し時が過ぎ去るのをただ願っていた。

30分だか1時間だか忘れたが永遠に感じられた整体の時間が終わり、「ちょっと動いてみな、体が軽くなってるよ」と言われた。というかこの客にタメ口という距離感も苦手である。そして肝心の施術はどうだったのかというと、終わった瞬間から普通に腰が痛かった。疲れたので体も重かった。何だったんだこの時間。

次回の予約への強い勧めを「まだ来週のシフトが決まっていない」というバイトしている学生の様な言い訳で躱しその場を後にしたのだった。


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