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それならそれでユートピア7(焼肉は名古屋めしです)

「すんまへーん!ホルモンとシマチョウ、あとマッコリ1本」
混雑と煙が充満する店内にナチョスの声が響いた。

昼に東京を出れば新宮には夜にはなるが、その日のうちになんとか到着する。ただ暇と金(を担当する者)がある3人はそんな考えはハナから持ち合わせていなかった。

「雄二さん、名古屋行きましょよ。味噌カツ、味噌煮込み、エビフライ、ほいで、、、味噌カツでっか。名古屋めしっちゅーやつですか?仰山ありまっせ!」「ナチョス、味噌カツ2回言ってるよ」
サトシが口を挟んだ
「うるせー!じゃあお前生涯で1回しか味噌カツ食うなよ」
めちゃくちゃな理論だった。

「ま、いいけど」
運転しながら雄二は興味があるのかないのかわからない感じで答えた。

「んじゃ、早速ホテルを予約しましょ」
サトシは行動が早い。
「サトシ、ちょっとええ感じのホテルにしとけよ」
小声でナチョスが言った。
ナチョスは人の金なら隙あらばワンランク上を狙う男だった。

というわけでの名古屋であった。

「なー、ナチョス。お前名古屋めしって言ってたわりになんで焼肉なん?」
「あのな、ホテルを出て街を探索しようとしているときに、煙もくもくで寂れているけどええ感じの焼肉屋があったら誰でも入るやろ」
「そうかな」
「んじゃ、お前食うな!絶対食うな!お前食っていいの、キムチとナムルだけな。ま、しゃーないからセンマイは許す」
「馬鹿か!おれも食うわ」
2人はじゃれ合って肉を奪い合っていた。

今池にある焼肉屋というよりは古いホルモン焼き屋『将門屋』
コの字カウンターだけの超昭和的名店だった。
煙の向こうの壁に貼られている黄色い短冊に書かれたメニューは、煤けて何が書いてあるのかもよくわからなかった。

「しかし、ナチョスの店のセレクトは渋いよな」
雄二は感心して言った。
「そうでしょ。ぼくちゃん、こう見えても結構グルメなの。こういう店構えの店はハズレのときもあるけどこの店はビビっときましたぜ」
「話のネタはいいかげんな物が多いけどな」
「まぁまぁ、そうおっしゃらず。あ、雄二さんも食べてくださいね」
ナチョスは人の金で焼肉を食べているのを忘れて雄二にすすめた。
「お、悪いね」
雄二も自分の金だということを忘れてマッコリを飲んでハラミをつまんだ。

「しかも、今回の話だってまだ本当かどうか確定したわけでじゃいしな。本当に宝なんてあるんか」
サトシが口を挟むと
「うるせー!お前は黙って墓を掘ってりゃええんや、ボケぇ」
「多摩川の幻の魚の前はなんだったけ?秩父のヤツだったけ?雄二さんもよく付き合いますね」
「やかましわ。お前、平家の宝が出てもやらんぞ。誘ってもらっただけでもありがたいと思えよ」

「お兄さんたち賑やかやね、グフっ」
隣に座っていた中年カップルが3人に話かけてきた。

「あ、うるさかったらすみません」
雄二が謝ると
「いや、全然気にしなくてええよ、なんか賑やかで楽しそうだなって思って、グフっ」

「こいつがいちいちうるさくて」
「うるせー」
ナチョスとサトシがじゃれ合っていると

「ところでさ、観光で来たの、グフっ?」
「いえ、新宮に行く途中です」
「へー、新宮に何しに行くの、グフっ?」
「ちょっと所用で」
雄二は恥ずかしくて宝探しとは言わずに濁した。

「ちょっと聞いてくださいよ、こいつ、新宮に平家の落ち武者の宝が埋まってるとかワケわからないことを言ってオレらを巻き込んでるんですよ」
「アホー!あるかもしれんやろ!お前今ので分け前ゼロ決定な!」

「なんか面白い話だね、グフっ」
男が答えると連れの彼女なのか不倫なのかわからない女が
「いーなー、藤井さん、私もそういうのやってみたい」
「小百合ちゃんはそんなところに行かなくても、オレが宝物をたくさんあげるからね、グフっ」
「えー、やったー」
女が舌ったらずで答えた。

2人は藤井と小百合と言うらしい。
歳の頃50代の男とそれより少し若いと思える40代くらいの女。
藤井という男は話すとなぜかグフっと笑いのようなゲップのような語尾になっていた。

「宝といえばさ、徳川埋蔵金って知ってる?グフっ」
「知ってる知っている」
3人に質問しているのになぜか小百合が答えた。
「あれさ、、」

カップル2人が3人を置いて盛り上がり出したのでナチョスが
「次の店、どないします?」
と言うと、藤井がまた会話に入ってきた。

「この辺で居酒屋なら『若一』、バーなら『♭(フラット)』なんかがおすすめだがぁ、グフっ」
藤井は名古屋弁で答えた。
「えー、『若一』、わたしも行きたーい」
「小百合ちゃんはこのあと、とっておきの場所に連れて行ってあげるよ、グフっ」「えー、やったー」

鬱陶しいカップルを置いて3人は席を立った。

「ちょーっと。また差し歯落ちているよ」
「あー、ごめんごめん、グフっ」雄二が会計をしていると遠くでカップルの声が聞こえていた。

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