それならそれでユートピア10（不穏な空気で街道沿いの名店へ）

「うー、気持ち悪い・・・」
沈黙気味の車内でサトシが口を開いた。

「そんなに飲んだのか？」
「もうめちゃくちゃっすよ」
「ホンマやな、ワシもまだ酒が残っとるわ」

車は高速道路で四日市を過ぎたあたりを走っていた。気持ちの良い五月晴れと抜けの良い色のオープンカーは、客観的には実に爽やかな雰囲気に見えるのだが、それに反して車内の雰囲気はどんよりしていた。

「でも不思議なんすよね、酔い方が」
「え、サトシはいっつもあんな感じじゃない？」
「いや、確かに僕は酒に飲まれて記憶もなくすし、酒には意地汚いので飲めるだけ飲もうとして数多くの失敗はあります。でも大体記憶をなくす直前くらいまでの酔っている雰囲気とか気分ってのがあって、その後順当に記憶をなくしていくという感じなんですが」
「・・・」
「昨日はなんか違っていて」
「どゆこと？」
「前に銀座でキャバ嬢に飲んでる酒に薬を盛られたことがあって、ハイボール２杯で記憶をなくして気がついたらシャンパンのボトルを入れさせられてて、めちゃくちゃ高額請求されたことがあったんすけど」
「なんや、オモロそうな話やな」
「その時の酔い方に似ているっていうか・・・酔って記憶をよく無くすおれだけがわかるこの絶妙な違いってのがあるんだよ」

普通の酔っ払いは気づかないが、頻繁に記憶をなくすサトシにはその辺の差異がわかるようだった。

「思い返すと阪本くんと根津くんがホテルの部屋に来たあたりからあんまり記憶がはっきりしないんだよね。あの感じが薬を盛られたときの感じに似てるんだよなぁ」
「あいつらホテルの部屋来たんけ？」
「お前も覚えてねーじゃん！」
「あかん、ワシもあんまり記憶がおまへんわ。てっきりサトシと２人で飲んだんだと思とったわ」

「でもさ、物を取られたりとかなんかそういうのはないんだろ？あいつらが２人に薬を盛る意味ってあるか？」
雄二が口を挟んだ。
「そやそや、お前はいっつも飲んだら記憶を無くすポンコツなんじゃ」
「うるせー。でも確かに俺らを酔わせる意味はないわなぁ。覚えている感じだと、、なんか根掘り葉掘り宝探しのことを聞いてたなぁ。どんなものがあるのかとか、いつ掘るのかとか、見つかる目処はあるのかとか。結構執拗に聞いてたなぁ」「なんや、あいつら参加したかったんか？」
「わかんねーけど。ナチョス、お前いい加減に答えてたぞ。日本の歴史を覆すような宝が新宮の山の中の村に眠っていて、おれたちはそのうち大金持ちになるだろうって。実はもう場所もわかってるから今のうちにうちらと仲良くしといたほうがええぞみたいな大風呂敷広げてたな。覚えてないだろ？」
「全然覚えとらんなぁ」

「４人で部屋で飲んだあと、どうなったん？」
「ワシは気がついたらサトシの部屋の床で寝てて、朝方起きて自分の部屋に戻りましたわ」
「２人は気がついたら帰っていて、僕も自分の部屋で寝ていて起きたらベッドの上につまみとカップラーメンが散乱してましたわ。服は着ていたから変なことはされてないと思います」
「・・・・でしょうね」
雄二が答えた。

「ま、あいつらが仮に薬を盛ったかもしれへんけど、サトシからもワシからも残念ながら盗むものもなく、そして２人とも無事やったちゅーわけやから、そろそろ昼飯でも食いましょか？」
「どうゆう話の転換や。そんな２日酔いなのにナチョス、食えるの？」
「食えますよ」
「サトシは？」
「二日酔いから解放されるにはまずは飯っすね」
「この先の亀山にワシのおすすめのホルモンうどんっちゅーのがありますから、そこどうでしょ？」
「ホルモンうどん？」
「うどんに甘っ辛い味噌タレのホルモンが乗っかっててそりゃ美味いでっせ」
「どの辺にあるの？」
「亀山で高速降りですぐですわ」

「そーいえば、お前、昨日も焼肉だったじゃねーか！また肉かよ」
「うるせー、嫌なら食うな」

ナチョスはサトシの肩に強めのパンチをした。

昔ながら古い座敷のあるそのお店は壁に手書きメニューが飾られたナチョスが好きそうなビジュアルのお店だった。平日の昼前にも関わらず、近所の人と思しき人たちで店内は活気に溢れていた。

「とりあえず、瓶ビールとグラス２つ、この人運転なのでウーロン茶ね。あと牛ホルモンとキモね」

ナチョスは抜かりなく注文を済ませた。

「お前、飲むのかよ」
「うるせー、じゃお前飲むなよ」
ナチョスはサトシの肩に強めのパンチをした。
「痛っ！やめろよ。つか出てきたら普通飲むだろ！」

「普通ってなんだよ・・・」
さっきまで2日酔いで気持ち悪いと言っていた2人の飲みっぷりをみてさすがに少し呆れた雄二だった。

味噌焼きのホルモンうどんは、ナチョスが言うように食欲をそそる味で3人は口々に美味いなーと言いながら箸を進めた。

食べ終わってしばらくするとナチョスが
「昨日高速で会ったけったいなタインクトップの人おったやろ。あの人の店、、、なんやったっけ？タンクマンか。あそこに寄ってかへんか？」