【完全保存版】 レンズフィルター徹底比較!FX篇
レンズフィルターで肌の発色をよくする? Tiffen、Schneider、tokyo grapher の人気モデル 15 種類の比較を通して、色に影響を与える Color FX 系、光の筋を発生させる Special FX 系のフィルター効果を検証していきます。
1. はじめに
前回のテスト撮影では、ディフュージョン効果に特徴のある、24 製品のフィルター効果を検証しましたが、今回の記事では、色に影響を与える Color FX 系、光の筋を発生させる Special FX 系のフィルター、偏光フィルター、計 15 モデルの効果を検証していきたいと思います。
テストの環境としては、撮影条件を揃えるため、できるだけ太陽の直射光が当たらない位置に、カラフルな衣装を着たマネキンを置き、前回のテストと同じ距離感で撮影をしています。
コントラスト比は 4:1 の状態で、トップ光(天空)の明るさが +1 STOP、最暗部が -1 STOP となる光量バランスで露出を切っています。また、被写体まわりの色温度は 5800K で、カラーチャートを利用して、撮影後に DaVinci Resolve で色温度の補正をしています。
カメラ機材の構成に関しては、カメラは Blackmagic Cinema Camera 6K、レンズは Leica の写真用レンズ APO-Summicron-SL 75mm f2.0 ASPH. を使用しています。フィルターに関しては、光量調整のために Mitomo TRUE ND を使用しています。
Blackmagic Cinema Camera 6K は、2023 年に発売された、35mm フルサイズ規格のシネマカメラで、レンズマウントは Leica L マウント、ダイナミックレンジの公称値は 13 STOP となります。
カメラ設定は、以下の通りです。
APO-Summicron-SL 75mm f2.0 ASPH. は、Leica の 35mm フルサイズ規格のミラーレス一眼、Leica SL シリーズ向けに開発された写真用の単焦点レンズで、非球面レンズ(Aspherical Lens)が組み込まれているため、限りなく色収差が抑えられた、アポクロマートな設計に特徴のあるモデルとなります。今回のテストでは、F 値は F2.8 - F3.5 の範囲に設定しています。
以降、今回の記事では Tiffen、Schneider Optics、tokyo grapher の Color FX 系フィルター、偏光フィルター、Special FX 系フィルターの効果を検証していきます。
2. Color FX フィルターの効果を比較する
映像の色に影響を与えるフィルターは、その役割で分けると、大きく 2 種類に分類されます。
Color Conversion タイプは “色温度” を変換することを目的としたフィルターで、おもにフィルム撮影で使われるモデルとなります。多くの製品が、フィルターの識別に用いられる ラッテン番号(Wratten Number)で呼ばれますが、最も有名なのが 85 というモデルで、5500K の光を 3200K に変化する効果があります。
一方、Color FX タイプは Color Conversion 系を除いた、色に影響を与えるフィルター全般を意味するものとなります。イメージ全体の色をシフトさせる単色系から、空の色の演出によく使われる Gradient 系、特定の色に作用する Enhancing など、Color FX タイプにはさまざまなモデルがあります。
以降、Tiffen、tokyo grapher の色に影響を与えるフィルター、9 製品の質感を比較していきます。
まずはじめに、Color Conversion タイプに分類される、Tiffen Digital HT 812 Warming のフィルター効果を見ていきます。
Tiffen Digital HT 812 Warming
812 Warming は、見た目は うすい茶色 をした 81 系の Color Conversion フィルターで、屋外撮影でシャドウ域の青みを抑えたり、肌色に赤みを加える、などの効果が想定されたモデルとなっています。また 812 Warming の効果は、Warm Pro-Mist、Warm Soft FX など、Tiffen の暖色化のフィルター効果のある、数多くの製品に組み込まれています。
製品名にある Digital HT は、Tiffen が開発する両面チタン・マルチコーティングの技術で、フィルターの強度、耐久性、透明度、光の透過性を向上させるものとされています。HT は High Transmission を意味します。
試しに、812 Warming の質感を フィルターなし の状態と比較してみると、以下のようになります。
812 Warming をかけると、イメージ全体がやわらかい セピア色 に染まりました。色合いとしては、回想シーンや夕景の再現などに最適な印象があります。ベクトルスコープを見てみると、色は Skin Tone Indicator と同じ Amber 方向(暖色)にシフトしており、試しに DaVinci Resolve でホワイトバランスを補正してみると、以下の数値で色がノーマルとなります。
続いて、Tiffen Skylight 1A のフィルター効果を見ていきます。
Tiffen Skylight 1-A
Skylight 1-A は、見た目はうすい ピンク色 をした、暖色の Color Conversion フィルターで、暖色化の効果は 812 Warming より控えめなモデルとなっています。紫外線を吸収し、屋外撮影でシャドウの青みを抑えたり、肌色に赤みを加える、などの効果が想定されています。
試しに、Skylight 1-A の質感を フィルターなし の状態と比較してみると、以下のようになります。
天候にばらつきがあり、Skylight 1-A の撮影時にはすこし直射光が射していたため、そこまで厳密な比較にはなりませんが、Skylight 1-A をかけると、映像全体がほのかに 暖色 になりました。
その色合いとしては「夕暮れ前に太陽がすこし赤みを増した」ぐらいのわずかな変化で、試しに DaVinci Resolve でホワイトバランスを補正してみると、以下の数値で色がノーマルとなります。色のシフト具合としては、812 Warming の およそ半分 となっています。
続いて、Digital HT 812 Warming と質感を比較してみると、以下のようになります。
天候の条件はすこし異なりますが、両者を比較してみると、 812 Warming はイメージ全体が暖色に染まり、やや非現実感があるのに対して、Skylight 1-A の方は、暖色化の効果が控えめで、よりリアルで自然な変化になっている印象があります。
その他、暖色系 のフィルターとしては、81A、81B、81EF、85、Coral、Chocolate、Antique Suede、Tobacco などのモデルが有名です。
続いて、Tiffen Cool Day for Night のフィルター効果を見ていきます。
Tiffen Cool Day For Night
Cool Day For Night は、昼の光を夜の雰囲気に変える “擬似夜景”の撮影をするために使われる、濃紺 の色をした寒色系のフィルターです。
擬似夜景(Day for Night)は、1930 年代から行われている古典的な撮影手法で、日中に 2 STOP アンダー露出で撮影をすることで、夜の月明かりの雰囲気を再現するというものです。最近では、撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマ氏が手がけた、2022 年公開の映画『NOPE』で擬似夜景の撮影が行われて、大きな話題となりました。
試しに、Cool Day For Night の質感を フィルターなし の状態と比較すると、以下のようになります。
Cool Day For Night をかけると、映像全体が青く染まり、明るさが暗く落ち込みますが、シャドウの階調は維持された状態になっており、カラーグレーディング時に処理をするより、彩度の落ち方などが自然な印象があります。波形モニターで見ると、明るさは全体的に 40% ほど落ちています。
実際の撮影で使用するには、かなりの覚悟が必要になりそうなフィルターですが、たとえばリファレンス(参考映像)として、Cool Day For Night を効かせた素材を撮影しておいて、カラーグレーディング時にそのルックを再現する、みたいな使い方は考えられそうです。その他、寒色系 のフィルターには、80A、80B、82A、82B などのモデルがあります。
続いて、Tiffen Enhancing のフィルター効果を見ていきます。
Tiffen Enhancing
Enhancing は、見た目は うすい紫色 をしたフィルターで、ガラスに配合された希土類である ジジミウム(Dydimium)のはたらきにより、オレンジ色の波長域が軽減されることで、他の色に影響を与えることなく 赤系統の色 の発色が上がる、という特徴があります。
一般的には、紅葉など赤い被写体の色をあざやかにする目的で使われますが、くもり空での撮影だったり、ポートレート撮影などで、肌の発色 をよくする目的で使用されることもあります。
試しに、Enhancing を フィルターなし の状態と比較してみると、以下のようになります。
Enhancing をかけると、イメージ全体が寒色方向にシフトして、フィルター係数により光量が落ちた状態となりました。試しに、露出を +1 STOP 開けて撮影してみると、以下のようになります。
Enhancing のフィルター係数は 2(1 STOP)とされていますが、実際に +1 STOP 開けて撮影してみると、やや露出オーバーになる印象があります。試しに、DaVinci Resolve で露出とホワイトバランスを適正化してみると、以下のようになります。
露出、ホワイトバランスを整えた状態で見てみると、発色 に大きな変化があることが分かります。
木々などの緑は、G-Cy 方向(寒色)にシフトしており、衣装の柄にある紫色・オレンジ色などの暖色は、彩度があざやかになり、色合いが R-Mg 方向(ピンク色)にシフトしています。肌色に関しては、Mg 方向 へのシフトが見られますが、青系統の色には大きな影響がないようです。
またフィルター係数の影響は、露出の補正値から推測すると、実際には 0.5 STOP 程度と考えられます。参考までに、DaVinci Resolve でのホワイトバランスの補正値は、以下の通りです。
続いて、tokyo grapher OPF 480-L のフィルター効果を見ていきます。
ここから先は
¥ 350 (数量限定:残り 9 / 10)
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?