技術解説:Star Wars Ahsoka
デジタルシネマ撮影、バーチャル・プロダクションなど、映像業界の技術トレンドを生み出し続けている Star Wars シリーズの最新作『Ahsoka(アソーカ)』の撮影技術を紐解いていきます。
1. Ahsoka の制作環境
2023 年に公開された Disney+ 製作のドラマシリーズ『Ahsoka』は、巨大な LED Wall を活用したバーチャル・プロダクションによる映像制作が話題を呼んだ、Star Wars のテレビドラマシリーズ『The Mandalorian』のスピンオフ版となる作品です。
本作の製作費に関する公式発表はありませんが、およそ 150 億円($100M)と予測されています。1 話あたり、20 億円弱 の計算です。参考までに、大元となるドラマシリーズ『The Mandalorian』の製作費は、1 話あたり約 23 億円($15M)と報じられています。
撮影期間に関しては、2022 年 5 月からの半年間で撮影監督を 2 名立て、2 班体制 で全 8 話を撮影したという情報があります。
また製作会社は、歴代の Star Wars シリーズと同じく、ジョージ・ルーカス氏が創立した Lucasfilm 社が、バーチャル・プロダクションを含めた視覚効果は ILM(Industrial Light & Magic)、監督は Star Wars の過去作品で実績のある Dave Filoni 氏が担当しています。
2. HDR のお手本となる映像表現
現在、Disney+ で公開されるオリジナル作品のほとんどが、HDR 規格の中でも最高品質となる Dolby Vision を採用しており、本作も Dolby Vision 規格の HDR 仕上げとなっています。
HDR の映像表現は、従来のテレビ放送の標準規格である Rec.709 に比べて、まだまだ普及が進んでないという現状もあり、明るさや色のバランスが作品によりまちまちな印象がありますが、本作の映像表現は、HDR 映像のお手本となるような見事な品質となっています。
一般的に HDR と言えば、彩度が高く、コントラストの高い映像という印象がありますが、そうしたイメージとは裏腹に、本作では映像のコントラストに関しても、彩度に関しても、Rec.709 よりも抑えられた印象があります。ルックに関しては、明るさ・色ともに階調がなめらかで、全体的にローコントラストな仕上がりになっていますが、一部、極端にコントラストの高い部分があります。
Star Wars シリーズということで、本作では、ライトセーバーなど光を放つ武器がたびたび登場しますが、そうした 発光体 だったり、光源、金属やガラスなどの光の反射 に関しては、まばゆいほどに輝度が高く、あざやかな色彩表現で描かれています。
Dolby Vision の規格では、Rec.709 の上限である 100 nits の 100 倍の輝度となる 10,000 nits まで、映像の明るさを拡張することができますが、発光体など以外は、208 nits 以下に抑えることがセオリーとされています。本作では、そうした輝度のマッピングが、教科書どおりに忠実におこなわれている印象があります。
ここから先は
¥ 150
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?