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TOYO RENTAL Lab.8 速報!

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ZEISS のシネレンズは何を選べばいい? 最新モデル Nano Prime の性能を Supreme Prime、CP.3XD、Cooke SP3、Sony G Master の 4 種類と比較したレンズテストの結果を共有していきます。


この記事では、YouTube で公開中のワークショップの内容と合わせて、未公開素材をもとに追加検証をしていきいます。記事後半には、テスト素材の一部をダウンロードできる、リンクも掲載しています。


1. ZEISS Nano Prime とは?

2024 年に発売された、ZEISS の最新モデル Nano Prime は、ミラーレス一眼向けに開発された小型のシネレンズになります。

ZEISS Nano Prime
35mm フルサイズ対応
開放値:T1.5
対応マウント:E・RF
参考価格:$4,640(約65万円)

この Nano Prime は、ZEISS のシネレンズで初となる “ショート・フランジバック” の構造を採用しており、標準仕様では、E マウント(18mm)が搭載されています。また KipperTie のサードパーティ製品を使用すると、RF マウント(20mm)に交換も可能となります。

フランジバック(Flange Focal Distance)は、レンズのマウント面からカメラのイメージセンサー面までの距離を意味する用語ですが、フランジバックが短くなることで、レンズを通過する光の直進性(テレセントリック性)を上げやすくなり、CMOS イメージセンサーに有利な構造を作りやすくなる、と言われています。

一方、ZEISS のシネレンズと言えば、Ultra PrimeMaster Prime など、1937 年から続いている ARRI との共同開発による製品が有名ですが、2008 年以降、Carl Zeiss は独自のシネレンズを開発するようになります。

Carl Zeiss が、シネレンズとして独自開発する単焦点レンズには、2008 年にリリースした Compact Prime をはじめ、Supreme PrimeSupreme Prime Radiance の 3 種類のモデルがあります。

以降、この記事では、Compact Prime、Supreme Prime など 4 種類のレンズとの比較を通して、Nano Prime の性能を検証していきます。


2. 比較対象のレンズまとめ

はじめに、今回のテストで比較する 4 種類のレンズの特徴を、簡単に紹介したいと思います。

❶ ZEISS CP.3XD
❷ ZEISS Supreme Prime
❸ Cooke SP3
❹ Sony G Master Series

❶ ZEISS CP.3XD

CP.3XD は、2017 年に発売された、ZEISS の標準モデル Compact Prime の第 3 世代となる、単焦点レンズのシリーズです。シリーズ全体で、レンズ筐体のサイズ感が揃えられており、交換可能なレンズマウントの豊富さに特徴がありますが、開放値はやや暗め(T2.1)の設計となっています。

モデル名にある XD の表記は、ZEISS のレンズデータ機能 eXtended Data に対応していることを意味しています。

ZEISS CP.3XD
35mm フルサイズ対応 / 46.3mm
開放値:T2.1-
対応マウント:PL・EF・E・Nikon F・MTF
参考価格:$5,966(約83.5万円)

❷ ZEISS Supreme Prime

Supreme Prime は、2018 年に発売された ZEISS の最上位モデルとなる、単焦点レンズのシリーズです。ほとんどの焦点距離で開放値が T1.5 と明るく、2019 年には、新開発の T* blue coating によるフレア効果が追加された、Supreme Prime Radiance という派生モデルも開発されています。

ZEISS Supreme Prime
35mm フルサイズ対応 / 46.3mm
開放値:T1.5-
対応マウント:PL・LPL・EF
参考価格:$19,951(約280万円)

❸ Cooke SP3

SP3 は、2023 年に発売され話題を呼んだ、Cooke の小型・軽量のシネレンズです。1940 年代に人気を博した、Cooke Speed Panchro の光学設計を再現しており、オールドレンズ感のある質感に特徴があります。

技術的には、フレーム端の周辺解像度がソフトになる focus fall-off、単層コーティングなどに特徴があり、レンズの開放値は T2.4 となっています。

Cooke SP3
35mm フルサイズ対応 / 43.3mm
開放値:T2.4
対応マウント:E・RF・Leica L・Leica M
参考価格:$4,309(約60万円)

❹ Sony G Master

G Master は、α シリーズのミラーレス一眼向けに設計されたレンズで、写真撮影で問題なく使える “高い解像力と美しいぼけの両立” をコンセプトにしたモデルとなっています。

技術的には、超高度非球面 XA レンズのはたらきにより、あらゆる収差が解消されており、100mm にはアポダイゼーション光学エレメント(STF)が搭載されるなど、美しいボケ感にこだわりのある光学設計となっています。

Sony G Master
35mm フルサイズ対応
開放値:F1.2-
対応マウント:E
参考価格:$2,319(約30万円)

以降、レンズテストの結果を共有していきたいと思います。まずは、背景のボケ感に各レンズの個性が現れた、100mm の質感を比較していきます。


3. 望遠レンズの質感

今回のテストでは 100mm に関しては、くもり空の条件で、路上で女性モデルのポートレートを撮影しています。カメラは、Sony BURANO 8K を使用しています。

Sony BURANO 8K
8K 16:9(8632×4856)X-OCN LT
ISO: 800

まず、基準となる Nano Prime 100mm のイメージは、こちらになります。

続いて、CP.3 のイメージを見てみます。

CP.3XD 100mm は、Nano Prime と価格もサイズ感もほとんど変わらず、ルックもわりと似ていますが、コントラストに関しては、Nano Prime よりも高い印象があります。

続いて、Supreme Prime と比較をしてみます。

Supreme Prime 100mm は、ボケ感に大きな違いが見られます。いずれのレンズも同じ距離感で撮影をしていますが、Supreme Prime は Nano Prime、CP.3 よりも背景のボケ感が大きく、溶けるようななめらかさが感じられます。

続いて、G Master と比較してみます。

FE 100mm F2.8 STF GM は、他のレンズに比べてボケ感が弱く、より背景の輪郭がくっきり出ている印象があります。

その要因としては、レンズ内に組み込まれたグラデーション状の ND フィルター(STF)の効果で、カメラのイメージセンサーに届く光量が 2 STOP 落ちるため、その影響により被写界深度も深くなっている、という点が考えられます。

続いて、SP3 と比較してみます。

SP3 100mm は、開放値が T2.4 と暗いため、T2.8 で撮影していますが、背景のボケ感、とりわけ “玉ボケ” の輪郭がシャープな印象があります。一方、SP3 特有のコントラストのやわらかさ、focus fall-off の効果などは、はっきり確認できないレベルとなっています。

結論:
100mm に関しては、各レンズとも被写体の見え方に、大きな差は感じられませんでしたが、背景のボケ感に違いが出る結果となっています。とりわけ、Supreme Prime の溶けるようなボケ感、G Master の被写界深度の深さが印象的です。

続いて、50mm の比較を見ていきます。


4. 標準レンズの質感

50mm に関しても 100mm と同じく、くもり空の条件で、路上で女性モデルを撮影しています。まず、基準となる Nano Prime 50mm のイメージは、こちらになります。

続いて、CP.3 と比較をしてみます。50mm に関しては、2 分割画面で見ていきたいと思います。

CP.3XD 50mm のルックは Nano Prime と似ていますが、シャープネスに関しては、CP.3 の方がややソフトな感じに見えます。続いて、Supreme Prime と比較してみます。

Supreme Prime 50mm は、100mm と同じように、背景が溶けるような大きなボケ感があり、人物が浮き出すような視覚効果が見られます。コントラスト感だったり、輪郭のシャープネスに関しては、Nano Prime よりもソフトな印象です。

続いて、G Master と比較してみます。

FE 50mm F1.2 GM は、Nano Prime より輪郭がシャープで、背景のボケ感が大きい印象があります。背景のボケ感は Supreme Prime に近く、比較した 5 種類のレンズの中では、輪郭のシャープネスが最も強い印象があります。

続いて、SP3 と比較してみます。

SP3 50mm は、周辺解像度がソフトになる focus fall-off の効果が見られ、特に女性の顔あたりのシャープネスが、弱まっている印象があります。またコントラストに関しては、比較した 5 種類のレンズの中で、最も低くなっています。

結論:
50mm に関しても、Supreme Prime のなめらかなボケ感が印象的な感じがあります。また “美しいボケ感” をコンセプトにする G Master は、Supreme Prime の次に、背景のボケ感が大きい印象です。

続いて、広角側のレンズの比較を見ていきます。


5. 広角レンズの質感

広角側のレンズに関しては、TOYO RENTAL の機材倉庫の通路を利用して、パース感が出るような構図で撮影をしています。照明の条件はどれも同じですが、モデルの座り位置・体勢などにより、顔に当たる光にはすこしバラつきが見られます。

まず、基準となる Nano Prime 24mm のイメージは、こちらになります。

続いて、CP.3 のイメージを見てみます。

CP.3XD 25mm は、Nano Prime よりも大きな樽型の歪みがあり、画面中央の被写体が、より大きく切り取られている感じがあります。またフレーム端の周辺光量落ちが激しく、Nano Prime よりも暗く落ちています。

続いて、Supreme Prime のイメージを見てみます。

Supreme Prime 25mm は、CP.3 とよく似た樽型の歪曲収差がありますが、フレーム端の周辺光量落ちがほとんどなく、Nano Prime、CP.3 よりも明るい状態になっています。

続いて、G Master のイメージを見てみます。

FE 24mm F1.4 GM は、Supreme Prime、CP.3 とは逆の糸巻き型の歪曲収差があり、画面中央の被写体が、より小さく描写されています。また周辺光量の落ち具合に関しては、Nano Prime と似た印象があります。

続いて、SP3 のイメージを見てみます。

SP3 25mm は、レンズの故障により画面中央のフォーカスが甘くなっており、残念ながらあまり参考になりませんが、歪みに関しては、Nano Prime と似た樽型の歪曲収差が見られます。


また Nano Prime をはじめ、ZEISS のシネレンズは、広角側の開発に力を入れているという話がありますが、参考までに、18mm の質感を比較してみると、以下のようになります。

まず、基準となる Nano Prime 18mm のイメージは、こちらになります。

続いて、CP.3 のイメージを見てみます。

CP.3XD 18mm は、開放値が T2.9 と暗く、Nano Prime より被写界深度が深いため、より手前までピントが合った状態になっています。

歪みに関しては、Nano Prime とあまり差はないようにも見えますが、Nano Prime の方が、フレーム端の被写体が横に伸びる感じがない印象です。また周辺光量は、CP.3 の方が Nano Prime よりも暗く落ちており、暗部のノイズが目立つ感じになっています。

続いて、Supreme Prime のイメージを見てみます。

Supreme Prime 18mm は、CP.3 と歪みの具合はかなり似ていますが、フレーム端の周辺光量落ちはほとんどなく、Nano Prime、CP.3 よりも明るくなっています。またボケ感に関しては、Nano Prime、CP.3 よりも大きく、手前の被写体に溶けるようななめらかさが見られます。

結論:
Nano Prime、Supreme Prime、CP.3、SP3 は、いずれも樽型の歪みがあるのに対して、G Master は、広角側でも糸巻き型の歪曲収差が見られます。また 18mm のフレーム端の歪みに関しては、横に伸びる感じのない Nano Prime が、使いやすそうな印象です。

続いて、32mm、35mm の比較を見ていきます。

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