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Canon シネレンズの基礎知識 <第2刷>

1970 年代に米国アカデミー賞を受賞した伝説のオールドレンズ K35 から、CINEMA EOS SYSTEM の最新モデル Sumire Prime まで。教養として覚えておきたい、Canon のシネレンズの基礎知識を紹介していきます。

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当記事は、動画制作のオンラインサロン 『UMU TOKYO』で公開されたものです。限定公開を目的に有料化しています。公開日:2022.1.17
https://community.camp-fire.jp/projects/view/231393


1. Canon のレンズ開発の歴史

1939 年、それまで Nikon(日本光学工業)からレンズ提供を受けてきた Canon は、35mm フィルムカメラ用の単焦点レンズ Serenar 50mm f/3.5 I の自社開発に成功すると、写真用レンズの開発をはじめていきます。

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Serenar 50mm f/3.5 I - Canon Camera Museum

テレビ放送の分野では、Canon は 1958 年に放送用のフィールド・ズームレンズ IF-I 60-400mm F4 を開発します。この IF-1 は、スポーツ中継でよく目にする “箱レンズ” の原型となるモデルで、以降 Canon は写真用レンズと並行して、放送用ズームレンズの開発を進めていきます。

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60 years of Canon Broadcast lenses - Canon Europe

シネカメラの分野では、Canon は 1965 年にズームレンズ付きの 16mm カメラ SCOOPIC 16 を発売すると、その後 16mm フィルムカメラ用のズームレンズの開発を手がけていきます。映画業界では、Canon 8-64mm F2.4 が 16mm フィルム撮影の定番モデルとして人気を博します。

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Canon 8-64mm T2.4 Review - Vintage Lens For Video

そして 2011 年、Canon は映画・CM・MV など、デジタルシネマ作品の撮影に特化した映像制作機器システム CINEMA EOS SYSTEM を発表すると、4K 対応のシネレンズの開発を進めていきます。

以降、この記事では、CINEMA EOS SYSTEM のシネレンズと、世界で高い評価を得る Canon のオールドレンズに関する情報をまとめていきます。


2. Canon のレンズの特徴とは?

理想的なレンズを作るための指針として、Canon は 4 つの条件を掲げています。

この条件をクリアするべく「色・歪みなどあらゆる収差を補正してフレアやゴーストを生み出すあらゆる反射を防止することでクリアで高画質なイメージを再現する」というのが、Canon のレンズ開発の基本コンセプトとなります。

また Canon には、LLuxuryシリーズ と呼ばれる高品質なレンズがありますが、モデル名にこの “L” の表記があるかどうか?は、Canon のレンズの個性・品質を見る上で、最もシンプルな評価方法となります。L シリーズは、レンズの筐体に 赤線 があるので外見で判断することもできます。

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以降、各モデルごとに Canon のシネレンズを紹介していきたいと思います。


3. CN-E Prime

2011 年、CINEMA EOS SYSTEM の標準モデルとして開発された CN-E Prime は、4K 解像度、35mm フルサイズ規格 に対応した単焦点レンズです。14mm から 135mm まで 7 本のラインナップがあり、レンズマウントは EF マウント固定 となっています。

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この CN-E Prime のルックは、あらゆる収差を抑えたレンズ設計による “クリアでシャープな質感” に特徴があります。

その製法に関しては、モデル名に L(Luxury)の表記がある通り、大口径高精度非球面レンズ、蛍石、UD ガラス、Hi-UD ガラス、スーパースペクトラコーティングなど、Canon のあらゆる光学技術が用いられています。


4. CN-E Zoom

写真・放送業界に向けて 60 年以上に渡り、数多くのズームレンズを作り続けてきた Canon ですが、デジタルシネマ業界に向けて開発された CINEMA EOS SYSTEM では、4 種類のシリーズ、合計 9 本のズームレンズを展開しています。

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EF CINEMA LENS スペシャルサイト - Canon

❶ TOP END ZOOM
❷ COMPACT ZOOM
❸ CINE-SERVO
❹ COMPACT-SERVO

この CN-E Zoom は、写真用のズームレンズと異なる点として、ズーム位置焦点距離を変えてもピントがボケない構造 になっています。さらには、引きボケを防ぐ “フランジバックの調整” を専用工具を使わずレンズ側で行えるという、他のシネレンズにはない便利な機能もあります。

イメージサークルに関しては、CN-E Prime がフルサイズ対応なのに対して、CN-E Zoom は Super 35 対応 となります。またレンズマウントに関しては、CN-E Prime が EF マウント限定なのに対して、CN-E Zoom には EF 以外にも PL マウント を搭載したモデルがあります。


デジタルシネマ業界向けのズームレンズ

CN-E ZOOM の中で、とりわけデジタルシネマの撮影に特化した 4 機種のスペックを整理してみると、以下のようになります。

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三脚での使用を想定した TOP END ZOOM に対して、手持ち撮影もできる COMPACT ZOOM はレンズの重量が半分以下(2.2kg)となっています。また CN-E 30-300mm に関しては、レンズの開放値が T2.95-3.7 とやや暗めになっています。

❶ TOP END ZOOM
デジタルシネマの撮影に特化した標準モデル TOP END ZOOM には、CN-E 14.5-60mm T2.6CN-E 30-300 T2.95-3.7 の 2 本のラインナップがあります。

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❷ COMPACT ZOOM
TOP END ZOOM のズーム幅をさらにコンパクトにした小型・軽量モデルCOMPACT ZOOM には、CN-E 15.5-47mm T2.8CN-E 30-105mm T2.8 の 2 本のラインナップがあります。

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ルックの参考事例として、以下の作品は CN-E 30-300mm で撮影をしています。CN-E Zoom は非常に人気の高いズームレンズですが、300mm まで寄り切るとやや解像力の粗さが感じられます。カメラは ALEXA Mini(2.8K ARRIRAW)を使用しています。

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SHISEIDO - MAQuillAGE サラリと決めるレディな肌篇

放送業界向けのズームレンズ

一方、CN-E Zoom の中で、とりわけテレビ放送業界の撮影に特化した 5 機種のスペックを整理してみると、以下のようになります。

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内蔵エクステンダー、マクロリングなど、従来の放送用ズームレンズの機能を踏襲した CINE-SERVO は、ある程度のオペレート技術が求められるのに対して、CINEMA EOS カメラの AF 機能を活かせる COMPACT-SERVO は、初心者でも簡単に使えるエントリーモデルといえます。

❸ CINE-SERVO
テレビ番組、スポーツ、ドキュメンタリー分野の撮影に特化した、ズームやアイリスの電動制御ができる ドライブユニットServo)を搭載したズームレンズ CINE-SERVO には、CN10×25 IAS SCN20×50 IAS HCN7×17 KAS S の 3 本のラインナップがあります。

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❹ COMPACT-SERVO
サーボ機構を搭載した小型・軽量のズームレンズ COMPACT-SERVO には、CN-E 18-80mm T4.4 L IS KAS SCN-E 70-200mm T4.4 L IS KAS S の 2 本のラインナップがあります。

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5. Sumire Prime

2019 年、Canon は CINEMA EOS SYSTEM シリーズの第 2 弾となる単焦点レンズ、Sumire Prime を発売します。この Sumire Prime は、CN-E Prime と同じく 35mm フルサイズ対応 で、14mm から 135mm まで 7 本のラインナップがあります。一方、レンズマウントに関しては CN-E Prime とは異なり、PL マウント が採用されています(有償で EF に交換可能)。

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