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【短文】庭の一幕

 庭のしずけさ。陽光をたっぷり吸った芝生。よく刈られた芝生が、ときおり吹く風にくすぐったそうに揺れる。ちょうちょが舞い、とんぼが飛び、犬が走り回る。風が吹くと、それらすべてがぐわんぐわんと波のように揺れに揺れる。そういうものを、青空が高いところからのんびりと見守っている。陽光はじりじりと顔を照りつけて暑いぐらいだし、ぼーっとしていると、次から次にとんぼが服にとまるので、なかなか読書に集中できない。とんぼにとって、人の足は枝なのだ。ならば植物らしく、本なんか読まずに、陽光を、風をたっぷり吸い込もうか。動植物にとっては形が大事で、内面なんか関係ない。人の側がどれほど自分たちと動植物の間に「人間性」みたいなものをかかげて線を引こうとも、動植物からすれば、人間は二股の幹と、二本の枝からなる森(=頭部)なのだ。庭にいると、自分も動植物の一部と化してきて、読書なんて、する気にならない。

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