二男の誕生日に寄せて。5歳の時の大事件

1995年春、私は広島在住の8歳と5歳の息子を持つ母親で、専門学校の非常勤講師や翻訳をしながら通訳の勉強を続けていた。ある日、年中行事のように受けては落ちていた通訳技能検定1級(現在は存在しない)の二次試験合格一週間後に東京で三次試験という通知が来た。


うわ!これは頑張って準備しなきゃと大急ぎで抱えていた翻訳を終え、与えられたテーマの予習を始め、翌日に資料を取りに行く約束を取り付けた。
急に電話がなった。二男の通っている保育園からだった「申し訳ありません。K君が股のところを怪我して。今外科です。来ていただけますか?」
落ち着かなきゃ、落ち着かなきゃ、自分に繰り返し言かせながら、外科に走った。


外科に着くと園長先生が蒼い顔をして待っていて「すみません。K君、フックのついたラックに跨って遊ぶことを思いついたらしくて、短いズボンだったのでフックが中に入ってしまって。」
奥歯をかみしめて診察室に入ると二男が診察台に寝かされていた。小さな陰嚢にかぎ裂きができていて中に灰色っぽい小鳥の卵のようなものが見えている。出血はほとんどない。「お母さんが来たからもう大丈夫」と頑張って笑って見せたが、二男はひたすら「注射するの?注射するの?」

おじいちゃん外科医がゆるゆると「タマが見えとっちゃあ具合が悪かろうけぇちいと縫うちゃらにゃ」二男「注射するの?注射するの?」外科医「ちいとだけよ」私「痛くなくなる注射だよ。すぐ終わるから大丈夫。」二男はそこで初めて泣いた。


でも注射が終わったら「あ、ほんとだ、痛くない」と泣き止んで、そのまま大人しく縫合を受けた。拍子抜けするくらい淡々と処置が完了。
入院することになるんだろう、三次試験も断念しようと覚悟していたのだが、おじいちゃん先生「これから抜糸するまでは毎日消毒に来てもらわんと。」私「え?それだけでいいんですか?」園長先生「消毒には園から職員が付き添っていきますから、ご心配なく。目が行き届かなくて本当に申し訳ありません。」


狐につままれたような気持ちでいるうちに保育園の先生が車を出してくださって家まで送ってくださるという。ズボンはダメになってしまったので、バスタオルをお借りしてスカートみたいに巻いてとめたら二男は「かっこわるい」とその日一番大きな声で泣いた。


家に着いたら送ってくださった先生が「こちらの方、お大事に」と股間を押さえて丁寧にお辞儀をしてくださった。


翌日、本当にいいのかと思いながら二男を保育園に預けて資料を取りに行き、急いで戻ってきたら保育園で「少しよろしいですか?」と言われた。これは何かあったかと、私は緊張した。面談室のようなところに入ったら「今日K君はトイレはこうやって、遊ぶときはこうやって」と股をかばいながらどう生活したかを若い可愛い先生が細かく実演してくださった。そしてまた家に送ってくださって、「こちらの方、お大事に」と股を押さえてお辞儀。私がお礼を言ってドアを閉めるが早いか二男はガニ股気味でひょこひょこお気に入りのおもちゃに向かっていく。

私はしばらく爆笑していた。

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