あなたが知らない世界線で

12歳から22歳まで好きだった人との思い出を書き連ねてみんとす。

「恋愛対象じゃない。友達にしか思えない。好きな人がいる。」

彼が23歳で、私が22歳だったときに、ファミレスで彼が私に言った言葉だ。
「恋愛対象じゃない」と「友達にしか思えない」という文章は、「私を」という目的語が省略されている。「好きな人がいる」という文章は、「私以外に」という修飾語が省略されている。それらを明示しなくても、言いたいことが伝わるほどに、関係性が明確だったのだ。

私は彼のことを「もう好きじゃない」と言った。「だから一緒にいたい」と言った。つまりは、嘘をついた。くだらない嘘で、自分が嫌になる嘘だ。まだ好きだったし、これ以上自分を痛めつけてまで一緒にいたいという確信はなかった。それでもそんな言葉が口をついて出たのは、彼を好きだった過去の自分のためだったのかもしれない。

中学1年生で出会ったときから、彼のことが好きだった。彼のことがどんな風に好きかをノートに書いていた。毎日彼を好きだったので、毎日書いていた。
私は部活動で日焼けをしていて、真っ黒な肌をしていた。歯だけが白く、痩せこけていて、少年のようだった。少年のような外見で、毎日彼を好きだった。
私はきれいになろうとか、かわいくなろうとか、そんなことは全然考えなかった。ただ彼と一緒にしょうもない話をして、笑っていた。彼がぼけたら、つっこむのは私だと思っていた。私がぼけたら、つっこむのは彼だと思っていた。そして、ノートが増えていった。

彼は「一緒にいることはできない」と言った。「私と」という言葉が省略されている文章だ。
だから、私はファミレスからの帰り道に、ツルゲーネフの文庫本を買った。そのことを彼は一生知ることができない。

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