あさひ市で暮らそう34 気配りと情熱で
『ふふふ。きょうもなぞかこさんがいらっしゃっているのね』
マルシェがあると聞いて、出店者も見ずにとりあえず足を運んだ水萌里は、喜んではしゃいでいる子供やそれを見つめる保護者たちが、ビニール剣やら大きなぬいぐるみやらを抱えているのを見て笑みが溢れた。
最近の水萌里はマルシェ通いにハマっていて、時間があれば足を向けている。旭市はマルシェの開催がとても盛んで、特に秋の涼しさを少しでも感じる頃には、同日に二つほど、近隣市を含めると五つほどが開催されている。市や大会社の主催でなければ、大抵リーダーや運営陣は女性が中心だ。それほどまでに女性が元気な市といえよう。
「ここのたこやき美味しいよ!」
何度目かのマルシェで『たこやきJOJO』のキッチンカーの前で悩んでいた水萌里に声をかけてきたのがかこだった。大きな体に大きな声、みんなを元気にすることが天性と言えるような女性だ。
「定番のソース味はもちろん美味しいけど、私は塩味も好きなのよ」
水萌里が目を瞬かせたことにかこは豪快に笑った。
「私、あそこで出店しているのよ。『なぞのくじびきやさん』」
「かこさん! あ、水萌里さんも来てくれたんですね!」
水萌里の後ろから声を掛けてきたのは『コミューン』のミユキだ。
「ミユキちゃんのお友達なの? かこです。よろしく」
「水萌里です。どうして『なぞのくじびきやさん』ってお名前なんですか?」
「それもなぞだから面白いんじゃなーい!」
かこはこれまた笑い飛ばした。その会話も楽しくて、水萌里はこっそりと「なぞかこさん」と呼んでいるのだった。時には本人に言ってしまうがそれを「なぞかこさんって呼ばれ方は初めてだわぁ」と笑い飛ばしてくれる豪快な女性だ。
かこは自分が出店しているだけでなくキッチンカーをはじめとした出店者を募り、マルシェの開催運営もしていた。
香取市で開催した『ふれあいマルシェin山倉大神』はかこが「夫の実家の近くにこんなに立派な神社があるのに、知られていないなんてもったいない」と奮起して企画したものだというのだから、熱き女性である。マルシェなど知るはずもない山倉大神関係者が最初は難色を示したであろうことは想像に容易い。それを何度も会って必要性を説き、最後には納得してもらえたバイタリティーは感服する。
そしてそれを感じ取った山倉大神の関係者や出店者も大変に盛り上がり、初回にも関わらず二千人の来場者があったのだから、本当にすごい。
そんなバイタリティー溢れるかこはどのマルシェに行っても他の店が潤うようにと会場を歩き回り、お客に声をかけていくのだった。
そんなかこだが、『なぞのくじびきやさん』をはじめてまだ一年だというから驚きである。
ミユキとかこが親しげに話をしている間に『たこ焼きJOJO』で塩味を買っていた。
「ミユキちゃんも出店していたのね。今日は何か新しいものあるの?」
「ブルーベリーの焼きタルトを出してるよ」
かことはそこで別れて『こみゅーん』の出店場所へと向かう。
小さな子ども連れではない水萌里がかこの店『なぞのくじびきやさん』のお客になるわけもないのに、いつの間にか、かこは水萌里を見かけると声をかけてくれるようになっていた。
ある時、ご主人にお店を任せてマルシェ内を探索しているかこと遭遇したが、とくに驚くこともなくフッと笑い、かこと目が会った。
「みもさんも好きだねぇ」
「かこさんほどではないと思うわよ」
「あははは」「ふふふふふ」
「かこさんってほぼ毎週どこかに出店しているのね。初めからこんなにすごかったの?」
「以前はもっと色々行ったね。幕◯のフリマとかも参加したし」
あまりに大きな話に水萌里は目を丸くした。
「でも、大きなフリマって市民が楽しむっていうより、プロたちが戦い合うって感じで、私がやりたいことじゃなかった」
首を傾げた水萌里にかこは説明を続けた。
「ネットフリマで高く売れるものを物色しに来たって人が多いの。でも、売る方もプロみないなもんだから、ネットオークションで高く売れそうならとっくにそうしていて、そういうフリマには持ってきてないわけ。だから殺伐としてくるんだよね」
かこはぐるりと会場を見回した。かこが目を止めた先にはビニールの剣で遊ぶ男の子たちがいる。
「私は、そんなフリマより、こうやってみんなが笑うような出店をしたくてさ」
「そのころからおもちゃを扱っていたの?」
「うん、そうだよ。最初は普通のおもちゃやだったんだけど、なんかそれって面白くないなって。子どもたちにドキドキワクワクしてほしいでしょう!」
「いいアイディアだね。お買い得すぎだとは思うけど。もう少し儲けたらいいのに」
「子供たちがお小遣いでできる金額でいたいんだ」
あくまでも子供たち優先のかこの考えに水萌里の顔も緩む。とはいえ、かこ一人でできることだとは思えない。
「それにしても旦那さんが協力的で羨ましいな」
「夜勤明けでも来てくれるんだ」
思いっきりノロケなのだが笑顔いっぱいで言うので憎めない。手を振って別れると、かこはまた別のお店のための声掛けをしていた。
「だって、売れ残りがあったらかわいそうじゃない」
かこの声が聞こえてくるような気がした水萌里だった。
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