見出し画像

あさひ市で暮らそう32 豚もたまごも

 ある日のお昼少し前、水萌里が真守を連れて来たのは『おひさまテラス』内にあるカフェ『Ready Made in Wonderland』であった。水萌里は真守にメニューも一切見せずに意見も聞かず注文をするが、それは来る前から言っていたことなので真守も納得して品が来るのを待つ。


「お待たせしました。ハンバーグランチと東京サンドイッチです」


 真守の前にはアツアツのハンバーグランチが置かれた。


「どうぞ」


 水萌里に促されて箸を動かす。


「うわぁ。うまぁ。肉が甘くてジューシーでホクホクだあ」


 美味しそうに食べる真守に水萌里は満足そうに笑った。


「なあ、これって、ランチだけでここへ来る意味あるよな」


「でしょう! おひさまテラスに来たら寄るお店って思われているかもしれないけど、イオンタウンにあるランチがおいしいカフェって感じなのよ」


 水萌里の解説にうなずきながら新鮮なサラダを口にいれる。


「ジャジャジャーン! 問題です。そのハンバーグは何でできているでしょうか?」


「え? 普通にジューシーだし、牛肉と豚肉だろう? でも、柔らかくて甘いから、もしや鶏肉も入っているのかい?」


 水萌里は嬉しそうにバッテンのジェスチャーをした。


「ブッブー。正解は豚肉百パーセントでしたぁ!」


「豚だけ?」


「そうよ。旭市は豚肉産出量が全国でなんと二位なの! この店はハンバーガーのパテも豚肉、カレーも豚カレーなんだから」


 水萌里がズイっとVサインを真守に見せる。


 旭市は人口六万の市であるにも関わらず、都市別豚肉生産地において宮崎県都城市(人口十六万)に次ぐ全国二位である。水田地帯であるため飼料米が豊富であることや一年を通して気候が温暖であることなどの養豚に好条件(養豚に限ったことではないが)が重なり、養豚業が大変に盛んになった。

 旭市にはいも豚だけでなく数種類の銘柄豚があり、その中でも七種類が千葉県が推す『チバザポーク』に認定されているほどである。旭市では銘柄豚でなくとも生育方法や出荷方法に工夫があり、安全で新鮮で美味しい豚肉が市場に供給されている。

 旭市養豚推進協議会では品評会が年に一回行われており、最優秀賞などを設定して、市全体で品質の向上に努めている。令和五年に行われた品評会には小規模な家族経営農家から大規模企業養豚まで参加し、四十五農場が出品した。こうして研鑽している養豚業は旭市の経済や雇用にも多大な貢献をし、これからも発展が見込まれている。


「ここのハンバーグは旭市産の豚肉でできているのよ。さらに卵も旭市産、野菜も旭市産、からあげの鶏肉も旭市産で、米も当然旭市産!

私の食べている東京サンドイッチの卵もそれね」


 農産物であるがゆえに「ほぼ旭市産」であることはいなめないが、店として旭市産を使う努力を日々していることは間違いない。それが店主赤座ごうのこだわりであり、旭市への思いである。

  

 水萌里が真守にメニューを手渡し、パラリとめくる。


「うおおおお! 『赤座たまごかけご飯』だって! 塩で食べさせると書いてあるぞ。なんたる挑戦的なメニューだ。これはいつか受けて立たねばなるまい!」


 前話でも出たように『生卵かけご飯』に大いなるこだわりを持つ真守は鼻息を荒くし、喜びで目を輝かせた。


「赤座たまごさんってここのオーナーさんの親戚らしいわよ」


『旭愛農赤座養鶏場』は市街地から旭小見川線を北に向かい、袋公園の駐車場を越したところの『焼き肉牛車』を左折して五百メートルほどにある養鶏場だ。赤座の『デカタマゴ』は道の駅季楽里あさひで購入できる。

 

「オーナーさんはあの方、ね」


 水萌里がカウンターの中を目線で示し、真守がそれを追うと、あごひげとカンカン帽が特徴的な体格のいい男性が調理台の近くにいる。視線を感じたのか、真守とばっちり目が合うとニパリと笑うので、真守は思わずのけぞった。


「くふふふふ。見た目があれって反則技よね」


 何度もおひさまテラスに来ているため店主赤座ごうにすでに見慣れている水萌里はいたずらが成功したと笑っていた。一風変わったメニューも彼が作ったものだというのだから、彼の多才さには脱帽ものだが、彼がカンカン帽をとることはほぼない。この彼、実は婿入りで旭市に来たいわゆる移住組であるのだが、だからこそ旭市の魅力に気付き驚きそれを活用することを日々考えている人物である。旭市の青年会議所に所属したり、地域の消防団に所属したりと、積極的に活動してきている。

 

「人のいい方なのよ。気軽に挨拶してくださるし、近くで見るとつぶらな瞳がかわいらしいの。国道の近くで『あかざ』っていう造園園芸業もしているそうだから行ってみましょうよ」


 二人はデザートに後ろ髪を惹かれながらも満腹なのであきらめ、ホットコーヒーのテイクアウトを注文し、それを手に車に乗り込んだ。

 カフェ『Ready Made in Wonderland』はコーヒーも美味しい。

 ギャラリーあかざに到着すると人懐っこい笑顔で迎えてくれたのはGOの妻さとこだった。ビッグな男GOと小さな体のさとこのアンバランスが魅力的な夫婦である。さとこの仕事は植木職人と聞いた二人はびっくりして口を開けていた。

   


 ☆☆☆

 ご協力

 カフェReady Made in Wonderland様

 旭愛農赤座養鶏場様

 有限会社あかざ様

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?