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あさひ市で暮らそう20 おひてら勉強会

 水萌里は緊張した面持ちでイオンタウン二階の旭市多世代交流施設おひさまテラスの前に立った。大きく深呼吸してから中へ進む。


 今日はローカルチャレンジャーの初顔合わせだ。数日前に運営からメールが届き、アンケートへ答える課題とSlackというアプリで自己紹介のやり取りはあった。何かを求めて集まった人々なのでやる気に満ち溢れていて、自分の不安定なプランニング計画性アルゴリズム解決法に不安をいただいた水萌里は腹に気合いを入れて立ち向かうような気持ちだった。


「あれ? 田中さんの奥さん?」


 人の良さそうな男性が水萌里に声をかけてきた。


「えっと……はい、そうですけど……すみません……」


 会ったことがあるようなないような状態なのは、水萌里の記憶に何かが引っ掛かっているからなのか、相手を安心させるようなこの笑顔のおかげなのか定かではない。


「そうですよね、ご挨拶できなかったんで。先日はうちの夏まつりに来てくださってありがとうございます」


「あ、木だまりさんのお誘いの!」


「はい。石橋です。田中さんもローカルチャレンジャーに参加するんですか?」


「石橋さんもですか?」


「はい。二ヶ月間、よろしくお願いします」

 

 その男は『フライデーバーBAR TAKU』のマスター石橋タクマだった。夏まつりでは主催者として忙しそうにしていて挨拶もできなかったので、すぐにはわからなかったが、真守が楽しそうに話をしていた姿を思い出した。顔見知りがいるというだけで、水萌里の緊張はだいぶ解けた。

 二人で受付を済ませると用意されたテーブルについた。

 ローカルチャレンジャーではスラックというアプリを使いメンバーで共有していく。そこに自己紹介チャンネルもあり、水萌里は早速その男の自己紹介をチェックする。タクマは植木職人でもあるようだ。


「実は第一回目のローカルチャレンジャーに娘が参加してまして。とても楽しそうにしていたんで、俺もやることにしたんですよ。『Bar TAKU』のあり方のために勉強もしたいですし」


 タクマは照れながら娘の話を切り出した。夏まつりの様子で石橋家が子沢山であることは知っていた。


「娘さんってあのスイカ割りのお嬢さんですか?」


 子どもたちを上手にまとめ盛り上げていた様子がすぐに思い浮かぶ。


「そうです。あれをきっかけに『おひテラジオ』のパーソナリティになってユーチューブで発信を始めたんですよ」


 『おひテラジオ』ではおひさまテラス内の機器で収録編集してユーチューブで発信していて、旭市の情報などを伝えている。

 タクマの話では娘アスカは旭市の人々をゲストに迎えて様々な聞くインタビュー形式の動画のパーソナリティを務めているという。


「家に戻ったら早速見てみます」


 水萌里はワクワクした気持ちを一つ見つけた。


「田中さん?」


 後ろから歓喜する声が聞こえ、振り返るとそこにいたのは『木だまり』のママたまきであった。


「タクさんが来ることは知っていたんだけど、ちょっと不安だったのよぉ。知っている人が沢山いてよかったわぁ!」 


『たまきさんならすぐに誰かと仲良くなりそうだけど』


 水萌里は思わず笑ってしまったが、隣のタクマも笑っていたので、たまきの人柄がそうさせるのだと暖かい気持ちになった。


 水萌里はタクマの名前もたまきのフルネームも知らないので自己紹介を読んでも今日まで顔見知りがいることを知らなかった。


 三人が入室するとすでにある程度の席は埋まっていて、水萌里は二人にペコリと頭を下げて別のテーブルへ行った。

 周りを見た水萌里はタクマの娘アスカが一期生と聞いていたが、今回はそれほど若い参加者はいないようだと少しだけがっかりした。洋太の話し相手になってくれそうな人がいたらいいなと思っていたのだ。


『私の友達探しになりそうね』


 それはそれで目的の一つなので水萌里は楽しもうと思い、同テーブルの人たちに挨拶をする。

 対面に座る『げんき』と名乗る男性は今回のメンバーでは若そうだ。育児休暇を取得して子育て中だというげんきは『育児休暇』について知識のなかった会社にそれをプレゼンテーションして休暇をもぎ取るほどバイタリティがある男のようだ。


「俺も会社を説得するためにすげぇ勉強してプレゼンテーションしたんですけど、結構あっさりと認めてもらえたんですよ」                                                  


 それを受け入れる会社も柔軟性のあるよい会社のようだ。もしかしたら、現在『育児休暇』という制度を設ける機会がなく放置しているだけで、それを必要としている者がアプローチすれば受け入れるという会社はあるのかもしれない。


『確かに数百人規模の会社ならそういう福利厚生にすぐに着手するだろうけど、中小企業では忙しくて手は回せないかもしれないけど、必要な者が求めれば応じるところはあるのかもしれないわ』


 水萌里はほしい制度が自分の会社に無いからと諦めてしまう者が多い中でそれをどうにかしようとする前向きな青年とそれを即時受理する寛容さのある会社を喜ばしく思った。


  ☆☆☆

 ご協力

 おひさまテラス様

 ローカルチャレンジャー参加者皆様

 フライデーバー Bar TAKU様

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