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あさひ市で暮らそう63話 つぶつぶなもともと 

「旭市を伝える何かをしたい」


 これは昔から旭市などの千葉県東総地区に住まう人々よりも、『移住者』と言われる方々がよく考えることだ。旭市はとてもいいところなのだけれど、その良さが当たり前すぎて『何が良いのかわからない』とか『何もない田舎だ』と考える人が多いように思う。だが、この地域に移住してきた人たちはその素晴らしさを理解したうえで移住先として選んでいるのだ。まさに『岡目八目』である。


 有馬健太は十年以上前に旭に来た移住者だ。都内で生活している時に匝瑳市での田んぼプロジェクトへ参加し、田舎暮らしに戻り・・たくなった。健太は群馬県で育っていて、田舎暮らしは憧れというより帰還に近い。東総地区で家を探していたところ旭市で「素人でも直せそうな家」と出会いセルフリノベーションを始めた。

 セルフリノベーションを始めてみると、本気になったのは健太より妻のユカ。ユカは電気技師の資格まで取得し……その時点で「素人でも直せそう」は破綻しているが、本人たちが大変に楽しそうにやったことなので全て問題無しである……リノベを満喫していく。東京から通いながら床貼りまでもをした家はぬくもりと愛着があり二人にとって心地よい空間となった。


 田舎生活を楽しむ二人は子供たちとともにナチュラルキャンパーのようなことも日々している。

 庭にブロックを立てただけの野外かまどは大活躍だ。パエリヤなんぞは当然、焼きそばトークイベントらたけのこの下茹でやら味噌作りの下準備やら焼き芋やら、そば粉ぎょうざまで。とにかくお陽様の下で火をおこすのは人をウキウキさせるようだ。


 広い庭では家庭菜園も盛ん。定番の夏野菜は当然で、スナップエンドウやらサツマイモやら。とはいえ、もちきびの不耕起栽培まで始めたのは驚きだ。もちきびとは雑穀の一つなのだが、それを栽培しようなどと考える方は少ないのではないだろうか。それはユカの料理によるものである。

 ユカは『つぶつぶ料理』といわれる雑穀料理を実践している。その素晴らしさを実感したユカは講師の資格を取り、その手作りの家で『つぶつぶ料理教室』を開いていて、ユカの人柄にふれ遠くからも生徒が来ることもある。

 一夏はユカのインスタの可愛らしいピンクのババロアに一目惚れし、レッスンを受けに行った。


「これを型に入れて冷やすのですが、固まるには時間がかかるので昨日作っておいたものを試食しましょう」

 

 ユカは実演でババロアを作ってから満面の笑みで生徒たちの前に試食の皿を出した。一夏もそれを食べる。


「イヤイヤイヤ。先生、確かに作っているときはお砂糖を使っていませんでしたけど、こちらの昨日のババロアには入れたんじゃないですかぁ? だってお砂糖なしでこれだけ甘くなるわけないじゃないですかぁ」


 一夏のツッコミにユカも他の生徒たちも笑う。


「では、さっき型に入らず鍋からこそぎ落とした分を食べてみましょう。ふふふ」


 ユカが出してきた皿をみんなで試食する。


「甘っ! ちょっと温かいけどうまっ!」


「でしょう。お砂糖は一切使っていませんよ」


 一夏の驚いた姿にユカはしてやったりと思っただろう。


「申し訳ございません」


 一夏のおどけた謝罪に場がなごむ。


 そして、夫健太は主にリモートでやる本業だけでなく、旭市に関わる副業を模索していた。その過程でおひさまテラス館長永井と酒の席で盛り上がり、「旭市近郊の面白い人を紹介しよう!」という企画へと進んでいった。それがイオンタウン旭の二階にあるおひさまテラス内『レディーメイドインワンダーランド』で開催されているトークイベント『もともとあさひ』である。オモシロ人紹介だけでなく様々な人たちが集まることで繋がりが生まれたりしている。

 

「おっ! すずぅ!」


 みすずが振り返ると洋太が手を振って近づいてきた。すぐ後ろにいた水萌里は洋太の腕を小突いた。


「「みすずちゃん」よ。そろそろ直しなさい」


「大丈夫ですよぉ」


 みすずはほんわかと笑った。


「だって、すゞやベーカリーって覚えちまったんだから仕方ないだろう」


 洋太は腕をさすりながら悪びれなく言った。


「あはは。宣伝になりますねぇ」


 そんな洋太もおおらかに笑顔で許すみすずに水萌里の心もほんわかとなった。


「今日はこんなところで何してるんだ?」


 そこはおひさまテラスのキッチンスタジオの前だ。


「これからレディーメイドでトークイベントにゲストで出るの。来てくれた方にパンを食べてもらおうと思ってここで焼いていたんだよ」


「まあ、いい香りのするパンね。そのトークイベントって予約制なのかしら?」


「一応予約制ですけど席が空いていたら当日オッケーって聞いてます」


 水萌里と洋太はさっそく手続きして席についた。すゞやベーカリーみすずのトークが始まるとバターがのっただけの薄くスライスされたパンが配られた。かぐわしい香りがあたりを包む。


『シンプルな食べ方なのに本当に美味しいわ』


「これは酵母作りからやっていて」………………


 みすずの説明にみんな驚愕の表情だった。


「みすずさんのすゞやベーカリーは五月オープンを目指して現在もDIY中だそうです」


「そのときにはよろしくお願いします」


 みすずは可愛らしくペコリと頭をさげた。


 もう一人のゲストは『たこみんFM』の鳴滝しんごだった。しんごのジェットコースター人生を聞いている水萌里は目をパチクリとさせて驚いていた。


『私って平凡なんだわ……』


 神様と暮らすことは決して平凡ではないが、本人が気にしていないようなので平凡でよし。

 

 さて、カウンターの中には、トークを聞きながらも大きな体の大きなお腹をなでながら不安な顔は外には見せないようにしているGOゴウがいる。

 『レディーメイドインワンダーランド』店主GOには有馬から課せられた大きなお仕事があるのだ。


『GO和尚のありがたい〆話』

 

 このイベントの大切なコーナーとしてvol.0からあるものだ。ジョークとウンチクを混同させたお話に毎回感心させられるのだが、回を重ねるたびにGOのプレッシャーは増していく。


 是非その〆話だけでも聞きに来ていただきたい。と、私が言うと余計にプレッシャーになるので、しっかりと書いておこう。


 GO和尚は『レディーメイドインワンダーランド』を卒業することになったが『もともと』の企画員ではあるので、今後も彼の一言話は聞くことができることに、私もホッとしています。


 そうそう、もともとvol.0は有馬健太だった。観客が増えた際には是非もう一度やってもらいたいものだ。


 ☆☆☆

 有馬ご家族様

 アイランドキッチン様

 おひさまテラス様

 赤座ごう様

 もともと様

 すゞやベーカリー様 

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