あさひ市で暮らそう30 オムレツ
「母さん。オムレツが食べたい」
リクエストを出せるほどいろいろと食べてきた洋太であるが、このリクエストがダントツに高い。
「昨日、ベーコンを買っておいてよかったわ」
水萌里は道の駅季楽里あさひでベーコンを買うことにしている。そこで売られている熟成いも豚ベーコンはほどよいくちどけと、甘さが特徴の千葉県産銘柄豚「いも豚」を7日間熟成させたこだわりのベーコンで、深みのある味わいとコクがある。いも豚を使った加工品は道の駅季楽里あさひの名物の一つで、冷凍庫にはウインナーも常備している。いも豚ブランドの加工品は旭食肉協同組合直売所の自社ブランドである。
そして、何よりここ旭市では新鮮な卵が比較的簡単に手に入るのだ。そのため、田中家の冷蔵庫にはいつでも十五個ほどの卵が入っている。
その理由は、市内のあちらこちらに卵の自動販売機があることが大きく起因する。水萌里も卵の自動販売機が日本に存在することは知っていた。地方に旅行へ行けば、道すがらに見かけることもある。だが、ここでは数が違う。国道から少し離れればそれがあるのだ。
養鶏場が直接納入している冷蔵庫型の自動販売機は、個数や大きさ、種類によって値段が設定されていて自由に選ぶことができる。産直なので新鮮なだけでなくリーズナブルなお値段だ。そのため、タイミングが悪いと買えないということもあり、水萌里は何箇所か回ることもある。
また、養鶏場に直売所を設け直売するところもある。
夏は涼しく冬は暖かいという恵まれた環境で生まれ育てられた鶏たちは安心安全にこだわり衛生面も重視されている。生産量は県内一位、国内でも二十一位である。ちなみに、国内都市の区市町村は千七百四十一ある。
水萌里が大ぶりに切ったベーコンをフライパンに放り込むとジュッといい音がして、たちまちいい香りが台所に広がった。それを程よく焼いてから皿に移し、ベーコンの油の中にバターを投入。さらに芳しくそして魅惑的になったところに卵三個分の卵液を投下。ジュワッと音を立てながらその香りたちを自分の中に閉じ込めていく。半熟になったところでベーコンを戻し入れ、一混ぜしたら火から下ろす。
洋太が用意して待ち構えていた丼ご飯の上にツヤツヤと光るそれをのっけ、黒胡椒をガリガリと削ってから刻み海苔をトッピング。
そこからは洋太の一気食いだ。カレーは飲み物と言ったのは一体誰であったか、今まさにオムレツ丼が飲み物のように洋太の腹の中に入っていっていた。
「お弁当食べて来たんでしょう?」
流しには水萌里が料理している間に洗われた大きな弁当箱が逆さにして干されている。
「おやつを食ってないからなあ」
オムレツ丼をおやつだと言い切る洋太に水萌里は呆れたと両手を挙げた。
「うまかったあ!」
ぺろりと平らげた器を流しに持っていくと一連の流れのようにそれと弁当箱を洗う洋太は基本的に真面目である。神様だから真面目さは当然かもしれないが。
器を水切りかごに置くとその脇に洗ってあった菜箸を一本だけ抜き取った。躊躇もなく冷蔵庫を開けて茶色の液体の入ったピッチャーをドアポケットから引き出すと蓋を開けて菜箸をぶっ刺した。
「ちょ! ちょっと!」
慌てる水萌里をよそに菜箸を引き抜けば、そこには丁度良く色づいた味玉が刺さっていた。半熟なため菜箸から黄身が流れ始めている。
この味玉も水萌里の手作りだ。熱湯に入れて八分茹で、水にさらしながら熱いうちに剥いて麺つゆに浸す。一晩置くと白身が茶色になり、三日置くと黄身が塩分で固まる。
洋太が刺したのは浸けて一日目のものである。
「おっとと!」
それをスポンと音がしそうな勢いで一口で口に入れた姿を見た水萌里は顔をしかめる。
「ヘビみたい」
「やつらは神の眷属でもあるからな。悪い例えではないぞ」
カラカラと笑う洋太から卵入りピッチャーを奪い取った水萌里はそれを冷蔵庫へ戻した。
「次のラーメン日では、洋太は味玉抜きです!」
「なら、もう一つだけ」
冷蔵庫を開けようとした洋太の頭を水萌里は遠慮なく叩いた。
とはいえ、新鮮でリーズナブルな卵なので、水萌里は味玉を作るときには十五個くらいは作るようにしているから、洋太もありつけることにはなるだろう。
しかし、それは洋太が味玉を十個以上一気食いして水萌里にこっぴどく怒られたという前科によって、本当にお預けを喰らう罰を受けたことがあるからなのは、洋太が反省をするカワイイ神という証拠ということにしておこう。
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ご協力
旭食肉協同組合直売所様
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