あさひ市で暮らそう43 輝きを生む者たち
あさげーの展望水滸伝が飯岡刑部岬展望館光と風にて開催される中、なんと灯台までもお色直ししているのだ。
遡って2018年、市役所内観光課で会議が開かれた。冬の目玉企画検討会議はいくつもの案が出てくるが真新しくは感じない。そんな中一つの意見に注目が集まる。
「千葉県唯一の『恋する灯台』は冬の恋人たちにぴったりだと思いませんか?」
彼女ができたばかりの若い市役所職員の青年は、その彼女が市外の人なので旭市を案内するため一番先に選んだのは飯岡刑部岬灯台だった。彼女と『恋人たちの鐘』を鳴らしたことを思い出すと顔がデレっとしたが、コホンと上司に咳払いをされてすまし顔でもとに戻した。
「ロマンチックにするならライトアップはどうですか?」
大きな反対もなく場所と企画が決まった。
ところで『恋する灯台』は自称ではないことはご存知だろうか?
PHAROSファロスという厳しい審査項目が課せられているのだ。
PLACE場所は、日常を忘れさせて、ふたりの"恋する気持ち"を刺激するロケーションで非日常を感じさせる場所あること。
HISTORY歴史は、心揺さぶられる感動的な逸話、後世に語り継ぐべき歴史を有してい物語感があること。
ACCESS道のりは、辿り着く道のりが、ふたりの心を近づけ、恋心の高まりを感じられ、その到達感を与えられること。
ROMANTICロマンティックは、心が開かれていく自由さと、夢見る気持ちに広がりを感じて創造感が広がっていく気持ちになること。
OCEAN VIEW景観によって、空と海の青が広がり、世界の果てを感じさせる壮大さを感じることで最果て感を共感できるか。
SHAPE形が魅力的なフォルムと、屹立するさまに孤高の美を感じさせるような造形美感を持っているか。
一般社団法人日本ロマンチスト協会と日本財団が共同で実施する「ロマンスの聖地」認定である。
未来を照らす灯台が、ふたりの道標になる。
どこまでも広がる青い空と海に、気高く存在し続ける白亜の塔。
晴れの日も、荒れ狂う嵐の日も、大海原を照らし続けてきた灯台の光は、人生の道標のようであり、未来に進む勇気を与えてくれるような気がする。
恋に悩み、夢に迷ったとき、灯台に行こう。
愛し合うふたりが、未来を誓い合うとき、灯台に行こう。
そんな、夢見るチカラ、恋するチカラを与えてくれる灯台を、恋する灯台と呼んでみる。
未来を照らす灯台が、ふたりの道標になる。
このようなロマンチックなイメージで生まれたプロジェクトに『飯岡刑部岬灯台』が千葉県で一つだけ選ばれたのだ。
そして五年目となる今年も行われたライトアップは、旭市役所観光課と旭市観光物産協会が自信を持っているだけのことはあり、華やかさの中にも自然を感じるものだ。七色に変化する光が灯台を照らし、光の動きが波間となり、灯台まで歩く高揚感が二人の距離をグッと近くさせる。
だが、観光物産協会の水木は眉を寄せた。
『せっかくのライトアップが見えない……』
灯台が奥まった場所にあり、手前に大きな『飯岡刑部岬展望館光と風』があるため、駐車場からライトアップされていることが見えにくいのだ。
水木は業者に委託するではなく自分で動いた。ツテを使いライトティング機材を集め、部材を買い、トンカチを振るう。
こうして突貫工事で展望館の階段にライト装飾を施すと灯台まで導かれるように進む。展望館のど真ん中に作られた大きなハートのライトは可愛らしく見ただけで恋人たちの肩はそっと寄り添うだろう。水木は協力者の青年に寄り添っ…………たりはしないが、達成感を感じていた。その姿を移りゆくあさピー電光掲示から見守る。
駐車場から歩く足元には温かい旭市を喜ぶようにビオラが見事に咲き誇っていて、二人は視線で恋人たちが歩くであろう道のりを確認した。
「これなら恋人と来たくなりますね」
「ああ。そうだな」
二人は高揚感はあれど、ハートのオブジェに頬も染めないし手は繫がれていないが、きっと恋するパワーは充電されたに違いない。
十二月某日夕方、真守は意を決して水萌里を誘って飯岡刑部岬展望館光と風の駐車場へやってきた。
「わあ! すごい!」
車を降りた水萌里が感嘆の声をあげた。水萌里のそばまできた真守が手を差し出す。
「明るくてよく見えるから大丈夫よ」
真守がコケる。
「そうじゃなくて!」
もう一度手を差し出す。
「旭市は暖かいから平気よ」
「もう! いいからっ!」
しびれを切らした真守は水萌里の手を握り歩き出した。いくらライトアップでも真守の耳が赤くなっていることまでは見えず、首を傾げている水萌里に伝わることはなかった。
これまでの実績のおかげもあり、年々ライトアップ期間が伸びていき、今年は二月末までと知った真守は心の中でリベンジを誓った。
恋する灯台を知った作者はこれを詞にしちゃいました。発表するかはまたお楽しみに。
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