あさひ市で暮らそう66話 ボッチって知っていますか?
旭市は千葉県産落花生か全国に普及することになった始まりの街である。
みなさんは秋になるとピーナッツ畑に現れる円錐状の塊を見たことがあるだろうか。周囲1メール高さ1.5メートルほどの大きさのものがいくつも並ぶ様子は心を和ませる。
その円錐状のものを『ボッチ』とか『豆ぼっち』と言うのだが、実はそれ、千葉県の方言だって知ってる?
ということで、今回は『ボッチ』のお話です。
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ある晴れた日の土曜日、みらいファームの企画の一つであるリトルステップの手伝いをしている水萌里は大きな倉庫の中にいた。
子どもたちが自分たちで作ったマルシェブースを一生懸命に設営していくのを手伝っていく。イシイファームのミニトマトは子どもたちの手作りパッケージに入れられツヤツヤと輝いていた。
富浦小学校近くの倉庫でボッチツキ市が開催されている。その日も多くのブースが集まり、主催者マミは忙しく走り回っていた。
マミは幼い頃からスポーツが得意だった。運動神経バツグンで、男の子にも負ける気がいないマミは直談判で男の子たちのサッカーチームに所属したほどの豪者である。令和も六年になる現在では女の子が男の子のチームに所属することは稀ではあるが珍しいことではない。しかし、マミの世代においては陰口を叩く者もいたであろう。マミはそれを実力で跳ね返していく運動神経とバイタリティーを持ち合わせていた。
そんなマミにとってスポーツインストラクターを職に選ぶことは自然に進んだ道だ。サッカーにも没頭できる環境で、サッカーがかたわらなのか、仕事がかたわらなのか不明な時間を過ごした。有名な女子サッカーチームとも試合をしたことがあるというのだから本当にたいしたものである。
積極的に参加してきたサッカーによってステキな出会いがあり、結婚したマミは夫ヒロユキの実家のある旭市へとやってきたのだった。
スポーツばかりをやってきて他のことなど何も知らないマミが嫁いだ先はピーナッツ農家だった。
「うわぁー、ダサ……じゃなくて、伝統的なパッケージだね。オホホホホ」
マミはヒロユキの実家が出荷している落花生の袋を見て驚いた。
『それに……高いよぉ! ピーナッツでしょ?』
マミの知るそれは輸入品のミックスナッツだ。
そんなマミが高い理由を知るのはそれからすぐのことだった。
輸入品は農薬をたくさん使って大量に作り、機械であっという間に乾燥させて真空パックしたものである。
それに対して、株式会社セガワは手間と時間を惜しまずにかけていた。
収穫までの手間はもちろん、収穫後はその場でさやを上向きにして一週間以上置き半乾燥させ自然に土を落とす。それを集めて野積みにすると三ヶ月もの間じっくりと乾燥熟成させていく。
その野積みこそ『豆ぼっち』である。ぼっち作りにも様々な工夫があり、水分を含んだ腐りやすい豆をいたわりながらしっかりと乾燥させる作りになっている。
「落花生は乾燥していく時に「種」としての役割で自分で甘みを作っていくのね。だから収穫してすぐに乾燥機に入れた豆は美味しくないんだ」
昔ながらの農法に不思議な科学的根拠があるのは結構『あるある話』なのだが、何を聞いても『昔からの知恵』には感心してしまう。それはピーナッツにもいきている。
落花生の素晴らしさを目の当たりにするたびにマミはジレンマを覚えた。
「これをみんなに伝えたい。これをみんなに届けたい」
マミは願うように考え続け、その願いを天が聞き届けたかのタイミングで加工工場と関わることになった。パッケージを変え若い人でも手にとりたくなるものにしたり、加工製品化して『落花生』として食べる以外の形を消費者に提供していく。
マミは自然に株式会社セガワのセールスマネージャーになっていった。
こうしてやっていくと、マミの魅力でどんどんと女性たちが集まり、どんどんと新商品が浮かんではマミに選定され差し戻され修正され再選定され……と着々と商品化される。
ブランド化の一つとして名付けることになった時、マミは落花生の畑の姿を思い描いた。
「Bocchiにしよう」
ロゴに使うイラストもボッチとなる。ネット販売にもそれまで以上に力を入れ、ページデザインからこだわった。
「お土産としてじゃなくもっと一般の食卓に届けたい」
食卓を仕切るのは主に主婦、主婦が気軽に足を運べるもの、そこに届けたいという想いはマミの中にいつもメラメラと炎となっていて、アイディアの火の粉になってマミの手に降ってくる。
「マルシェをやってみよう」
知人を中心にマルシェ企画部を作り、みんなのマルシェにし、株式会社セガワの倉庫を使いマルシェを開催するとたくさんの来場者に恵まれた。
だが、マミのアクティビティは留まることを知らず、カフェの併設にいたることになる。
週末だけの『カフェボッチ』はピーナッツ商品も多く並んでいる。
真守はその一つを手に取った。
『ピーナッツあん?』
あんこは小豆からできているのだが、たしかに豆であることに関してはピーナッツと同じである。そう、それは確かにそうなのだが、それを思いつくことはすごいと言わざるを得ない。
ピーナッツあんが完成すれば、それはそれは多くの商品につながって当然んだ。
「あら? 真守さん、ボッチへ行ってきたの?」
キッチンのテーブルに置かれたお土産を見て水萌里はにっこりと笑い手に取った。
「よくわかるね」
「先日のボッチツキ市のお手伝いに行ってきたから。わあ! その日に食べられなかったアンバターパンだわ。嬉しい」
二人はお茶を手にピーナッツ会を始めた。そして水萌里は前回の『ツキ市』の様子を詳しく話す。みらいファームの『こどもマルシェ』の『ミニトマトのお店』については殊更楽しそうに語って聞かせた。真守はその様子を笑顔で見ている。
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