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無題
手を繋ぎたいとか。キスをしたいとか。抱きしめたいとか抱き合いたいとか。一切想ったことがなかった。
ただ、隣にいたい。一緒の時間を共有したい。綺麗な景色を見た時、楽しい経験をした時、まっさきに君に話をしたい。そうとしか想えなかった。
友人に言わせれば僕のこれは、中学生くらいまでの似非学生恋愛なんだそうで、大人が抱く真の愛とはかけ離れているそうだ。
「本当は彼女のこと、好きじゃないんじゃね?」
そう言われて胸に手を置いて考えてみても、僕が彼女に抱く気持ちは、他の女友達などに抱くものとは些か違っている。
気がつくとバイト中にも彼女のことを考えていたり、デートの前日にはどきどきして食事が喉を通らなくなったり、ふと笑顔が、声が聞きたくなったり。
この僕の気持ちは、“好き“だという気持ちとは違うのか? こういう恋人の形も、悪くは無いんじゃーー
「つまらない」
なにを、どこを、間違えたのだろうか。
彼女に連れられて入った異様な雰囲気のホテルの一室で、チェックアウトの際にそう別れを切り出された。
「ない。男としてないよ」
ここがどういう場所なのか薄々、いやはっきりと気付いてはいた。でもやる気がないんだから仕方がないじゃないか。
興味が無い。したいと思えない。思ったことがない。その行為の意味が分からない。
――性欲がない。
「最大級の愛情表現じゃん」
友人の声が蘇る。僕を罵る彼女の声と重なって。
「……ごめん」
僕が、桂木愛音が、人間らしく生まれられなかったから。
十九の秋、最後の彼女とはこうして別れた。
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