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書かれなかった戦い① ディール要塞奇襲戦 ~ファイアーエムブレム アカネイアの海と地政学~

 こちらの記事で同盟軍の進行ルートについて述べた。
 その進行ルートを進んでいくと、必ずぶち当たる厄介な場所がある。
 それが「ディール要塞」である。
 同盟軍とアカネイア軍が最初にぶつかった場所であり、大激戦が行われたといわれてもおかしくない。
 しかしながら、ここで何らかの戦いがあったかということについては全く記述がない。
 それはなぜかといえば、「アカネイアの無能な将軍の拙劣な指揮」によって信じがたいほどあっさり陥落したであり、そのさまを詳細に記すことがのちのアカネイア連合王国(マルス朝)にとって不都合すぎたからである。
 ではその不都合な戦いとはどういう戦いだったか。
 まず、前提として、前回の記事の通りマケドニアはディール候と交流があった。もちろん朝貢関係という言葉すら生ぬるいような隷属関係である。
 となると、当然ながらマケドニアの王族がディール要塞まで「隷属のしるしとしてのあいさつ」に出向いたことがあったと思われる。
 そして、暗黒戦争勃発の段階ではおそらくミネルバがあいさつに出向いたのだろう。マケドニア軍の一部・特にあのペガサス騎士団の3姉妹らが「美女の貢ぎ物」と偽って侵入し、グルニア軍の一部も各種宝物の運び手として侵入したと思われる。
 貢物に偽装した3姉妹たちは、場内に難なく入ると宝物として荷物の中に仕込んでおいた武具を身に着け、一気にディール要塞を攻略した。しかし、日頃から中央での業務に熱心だったディール候シャロンは不在にしており、とらえることができなかったということである。
 そして、この戦いが「マルス朝アカネイア連合王国」の歴史に書かれなかった理由としては2つある。
 1つはマケドニア軍が「輝く」ことが不都合であったからだと思われる。英雄戦争後にマケドニアがなんだかんだで滅亡に追い込まれていることからもそれはうかがえる。
 2つ目は「マルス朝アカネイア連合王国」の権威継承元であるアカネイア聖王国における野蛮なイメージを残したくなかったということである。女性も多く活躍し、社会進出が進んでいたであろう英雄戦争後のアカネイア連合王国にとって、その継承元であるアカネイア聖王国が女性を貢ぎ物として受け取るという前時代的な風習があったことを大々的に物語化したら支配体制に影響が出かねないからであり、その支配をひっくり返したマケドニアという国が「いい国」だったと思われかねないからである。
 このように、暗黒戦争や英雄戦争においては、マルス朝アカネイア連合王国の歴史家によって「書かれなかった戦い」がたくさんあるように思われる。本マガジンではこのような「書かれなかった戦い」について考察していく。