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生息地:砂町運河(東京の営巣地)

== 砂町運河(東京の営巣地)の特色 ==

概要(Overview)

砂町運河(海鳥コロニーデーターベース [1] のNo.4380~4381)は、東京都江東区夢の島公園西側の砂町運河(正確には曙運河)上に掛かるJR京葉線路の曙橋梁にある営巣地です。営巣地の形成が2015年頃と新しく、それ以前はもっぱら東京湾の非成鳥(若鳥)の夏越しの場所だったと思われ、今も南側の係留施設には多くの非成鳥(若鳥)が4~7月に滞在します。そのため、成鳥と非成鳥の比率がほぼ半々程度の、他の営巣地(非成鳥比率は少ない)とは異なる特徴をもっています。なお、成鳥は3月ごろに到着し、7月頃まで子育てを行います。
東京湾の葛西海浜公園東なぎさ(立入禁止の保護区)の干潟から2kmほどに位置し、さらにその先には「江戸前」三枚洲の海が広がる場所にあり、絶好の餌場を近くに有します。

ロケーション(Location)

周辺を含めた広域地図

砂町運河営巣地(コロニー)付近の広域地図 (Google Mapを加工)

砂町運河営巣地(コロニー)は、荒川河口・葛西東なぎさの干潟、その先の三枚洲の餌場まで2~3kmの距離にあり、ウミネコは北の夢の島大橋上空と、南の曙水門上空をルートとして、行き来している模様です。

そして夢の島大橋は、営巣地と餌場の低空飛行での往来場所になるため、ウミネコが飛び交う姿が間近に見られる絶好のビュースポットになっています。

営巣場所(Breeding Site)

砂町運河営巣地(コロニー)地図(Google Mapを加工)
営巣場所: 防衝杭から線路脇や橋脚にあふれ出してきた

当初から現在までH形鋼を三角形に組み合わせた防衝杭(真ん中は三角形の穴が開いています)の上に営巣しています。H形鋼のくぼみを利用して、隣の巣と距離が自然に開くため、ペア同士の争いが少ないゆったりした雰囲気です。
しかし数が増えるとともに、2022年にはあふれ出て線路脇テラス状の場所や橋脚足場への営巣が発生しました。テラス(2022年は2個所)や橋脚足場は営巣状況が「丸見え」に観察できますが、強い南風が吹くと巣も雛も吹き飛ばされてしまう厳しい場所です。

毎年3羽の雛を育て上げる場所の家族写真
「今年も3羽🐥🐥🐥 無事に育て上げたよ💪🥰」

形成経緯と年齢構成(History&Age Structure)

JR京葉線曙橋梁の防衝杭上に雛が確認されたのが2015年6月18日、営巣が確認されたのが2016年5月10日。上野不忍池付近に営巣していた個体群が南下と推定されています[2]。全国的にも、歴史が新しい営巣地と考えられます。
それ以後は「東京都内湾水生生物調査(海域生物調査結果) 鳥類調査[3]が追跡記録してくださっています。2015年頃に比べて、成鳥生息数は増加している様子です。

一方で、東京湾奥は繁殖に関与せず、営巣地に戻らない若鳥(非成鳥)が夏を過ごす場所です。ゆえに成鳥の営巣地となる前から、葛西を餌場にする若鳥の一部がこの場所に滞在していたのではないかと思われます。そのためか、防衝杭営巣地の南の係留施設には、若鳥(非成鳥)が多数滞在します。

多いときは100羽前後の若鳥のいる南側と成鳥が営巣している北側

この結果、ここでは成鳥と若鳥(非成鳥)の割合が半々程度の、他の営巣地には見られない構成比率(若鳥(非成鳥)が多い)となっています。他の営巣地はほとんどが成鳥で、若鳥(非成鳥)の構成比率は多くありません)。

係留施設で成鳥が休むこともあり、また防衝杭に若鳥(非成鳥)が停まることもあります。
防衝杭の若鳥が邪魔な場合は、嘴でちょんと突いて追い払うのがほとんどで、
上図のような激しい例は多くありません。

この営巣地特有の行動(Specific behavior)

侵入者への集団威嚇行動(ウミネコ警備隊)

この営巣地では、営巣場所への侵入者に対して、営巣している個体だけでなく、周辺のウミネコも集まっての集団威嚇行動が見られます。動画のように営巣場所に侵入者があった場合は、ウミネコが多数群がって飛び回ります。
(私的には「ウミネコ警備隊」と呼んでいます😅。)

一方で、ウミネコが3月に到着する前は、ハシブトガラスが砂町運河を飛び回っています。しかし、ウミネコが産卵した以降は、カラスが接近すると複数羽が飛来して追い払う行動が生じます。(私的には「ウミネコ警備隊スクランブル」と、そして追尾して追い払う行為は「ロックオン」と呼んでいます😅)。
このようにカラスを追い立てますので、およそ5月以降はカラスの接近は無くなります(都心部でも「ウミネコが巣を作ったらカラスが消えた」と聞くことがありますが、このような事情と思います)。

集団威嚇には若鳥(非成鳥)も参加

さらに大きな特徴は、集団威嚇に若鳥(非成鳥: 南側の係留組織に滞在している)が参加するところです。

営巣場所の防衝杭を覗いた釣人への集団威嚇に何羽もが集まる
その中には、羽の色が茶色の若鳥(非成鳥)が見られる
集団威嚇に集まったウミネコの別写真2枚: 若鳥(非成鳥)が見られる
釣人は離れても飛び続けていた場面: 若鳥(非成鳥)がいる

写真の場面は、釣人が営巣場所の防衝杭(北から2列目)を覗き込んだために、防衝杭からはウミネコが飛び立つとともに、周囲の個体を含めて多くが集団威嚇のために集まってきたところです。注意してみると、茶色の若鳥(非成鳥)が混じっています。南の係留施設から加わってきたと思われます。
(若鳥の集団威嚇参加は、上のカワウに対する動画でも見られます)

「コロニー状に営巣するが,隣人間の社会的相互関係はほぼ攻撃的。限られたスペースで可能な限り離れて営巣するようである (Pierotti 1979, Coulson 1991)。」[4]と、セグロカモメの論文ですが、記述されています。
しかしこの場所のウミネコでは集団威嚇という協力関係が見られます。もっとも集団威嚇は都内都市部の屋上営巣している集団にも見られる行動です(実際にやられたことがあります)。この場所のウミネコはセグロカモメとは違った行動をとるようです。

しかも砂町運河では、若鳥(非成鳥)までが集団威嚇に参加するのです。
営巣中の成鳥であれば、集団威嚇への参加は自分の巣を守ることに繋がるメリットがあります。しかし若鳥(非成鳥)にとっては、自分の遺伝子を残すのに寄与するわけでもなく、威嚇への反撃で負傷するリスクも負いかねません。個体としての参加メリットが見いだせない、不思議な行動です。

(注)若鳥(非成鳥が参加しての集団威嚇は、2023年5月13日も発生しました(リンク先参照)。

営巣地での観察(私見)(Observation remarks)

観察場所

砂町運河コロニーでは、100メートル強離れますが、夢の島公園の岸辺から、双眼鏡など望遠レンズでかなり丸見えにウミネコの営巣の様子を見ることができます。人通りも少なく(釣り人が数人いる程度)、大人数が集まってもまずは大丈夫なところです。また、夢の島公園のトイレや飲料自動販売機を利用できます(但し、日除けはありません)。
しかも、ウミネコ同士の激しい争いなどの過酷/残酷なシーンはほぼ皆無(せいぜい嘴で「ちょっとどいてね」とチョンする程度)と、現時点ではゆったりと平和な眺めが展開しています。また、岸辺にいて糞が落ちてくることもありません。

一方で運河北側は、一部の営巣場所にやや接近できますが、網フェンスが張ってある私有地であり、うろうろすると迷惑になってしまうかと思われます。

留意事項

夢の島公園の岸辺は、昨年「スケートボード場」ができたものの、基本的に人通りが少ない場所です。何かあった場合は、自身での対処が不可欠です。

また、上の写真のように船上から巣を覗き込んだ場合は集団威嚇が来ます。意図せずに威嚇を受けた場合は「暗闇から目から炎を出して、嘴をカチカチ鳴らした悪魔👿の鳥が四方八方から襲い掛かってくる」ようなパニックです。水中に転落しかねません(巣から追い落とす方向での威嚇がウミネコの習性でもあるようです)。しかも夢の島公園の岸壁は上にせり出した形状で登ることができず、かつ岸辺からも見つけにくい状態ですので、水中転落は何よりも避けるべきと思います。

※砂町運河営巣地は、周辺の住居からある程度離れた(屋上に巣があるわけではない)場所ですが、まったく鳴き声が聞こえないわけではないと思います。しかしウミネコの年齢構成が他にない特別な営巣地であり、何とか残ればいいなと思います。

参考資料

1:「海鳥コロニーデータベース」, 環境省生物多様性センター
2: 奴賀 俊光, 小島 一幸, 永友 繁, 前川 真紀子「東京都内湾運河部の人工構造物上で初めて確認されたウミネコの繁殖記録」,2017年1月18日, Bird Research
3: 「東京都内湾水生生物調査(海域生物調査結果) 鳥類調査」, 東京都環境局 (2015年(平成27年)6月から、砂町運河でのウミネコ営巣状況が掲載されている)
4: Raymond Pierotti,Thomas P. Good,A. Poole,Frank Gill "Herring Gull (Larus argentatus)”の”,SOCIAL AND INTERSPECIFIC BEHAVIOR”, January 1994, The Birds of North America Online


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