遠い記憶
ボイスレコーダーに録音された多くの音。
街中を歩きながらふと浮かんだメロディー
子どもとの何気ない会話
即興で心ゆくまま奏でたピアノ
日常にあふれる自然の音
整理されていないので
再生しないとどんな音がそこに存在しているかわからない。
遡り遡り流していく。
時折、タイトルのある音に出逢う。
昔、曲として紡いだ音たちだ。
5月の風がさらさらと葉を揺らしながら通り過ぎていった『しあわせな日』
沁みるお手紙に言葉が無くなってしまい代わりに音でお返事を紡いだ『手紙〜青と海と、光と言葉の贈り物〜』
普段はわんぱくで手に負えないけれど安らかにすやすやと眠る息子の頭を撫でながら作った『to my sweet engel』
きらきらと今にも吸い込まれてしまうような美しい川を歩いた日を思い出しながら歌った『river』
他にもあるけれど
こんな曲、もう二度と作れないだろうなと感じてしまった。
良くも悪くも
あのメロディーはきっと浮かばない。
なぜ、あのようなメロディーを生み出せたのかもよくわからない。
音を聴きながら
懐かしいピアノの音色に耳を澄ませながら
ピアノが弾きたいと強く強く思ってしまった。
もうきっと指は動かないだろう。
もうきっとあの音は出せないだろう。
もうきっとあの頃には、戻れない。
進んでいるから。