キミの名は

春の嵐。
唸り声が遠くの方で聞こえる。

雲ひとつない青空のもと
軒下で息子と絵具を広げる。
息子はためらいなく筆を進める。
虹を描くのだそうだ。

私は何も描くことがなく、
ちょうど木の葉の影が手元の画用紙に写り込んでいたので、
その影を色のついた筆でなぞった。

何もなかったような感覚に陥る。
仕事も、趣味も、信念も、過去も、大切に思っている人さえも、全てが最初から無かったような…
ただ、太陽の光と子どもと、その隣に私がいるだけ。
不思議な感覚だった。

絵を描き終わった後も
とりわけ何かに追われることもなく
その不思議な感覚が続いていた。

匙を投げたわけではない。

ただ、小休止。

やるべきことはあるし、
いつでもそのレールに乗ることはできるとわかってはいるのだけれど
今はそこから外れていたい気持ち。

数日前に、ある種の節目を迎え入れて少し燃え尽きてしまったというのもある。

その日までに
やるべきことも向き合うこともそれなりにあって、
その日に集中できるように
意識を高めていったのだと思う。
これはたぶんその反動。

がんばったなと思う反面、
すでに遠い記憶と化している。
スタート地点を目指して歩いている実感が
今はあまりないのだ。

現実から少し距離を置いているはずなのに
頬をつたう僅かな涙。何故。

この感情の名を、
私は知らない。

#心がほんのり涙するとき
#38日目