見出し画像

ボウクウゴウ

これはある日、僕の祖父から聞いた話だ。
祖父はいつも日本兵として戦時中活躍して勲章までもらった自慢話をしていた。
話を聞くたびに倒したアメリカ兵の数が増えて、爆撃した飛行機や船の数も増える。
祖父の部屋には古びた勲章が飾ってあり、話の一部は本当のことなんだろうと僕は思っていた。
今日もまた祖父の武勇伝を聞かされるのかと思っていたが、この日だけはいつもの自慢話ではなかった。

その日の話は終戦直前の日本国内での出来事だった。
空襲警報が鳴って当時徴兵されていなかった祖父一家4人が山の防空壕へ逃げる話だった。
なぜ日本兵として戦場に出ている祖父が家にいるのかはわからない。

しかし、いつものやんわりと輪郭がぼやけた話ではなく、爆撃によって降り掛かってきた火の粉がなかなか振り払えなかったことや、倒れた人を置き去りにして逃げないと自分が死んでしまうといった切迫した臨場感が半端なかった。

山へ逃げた祖父一家4人は山の中にあった洞穴を防空壕として使った。
その洞穴なのかには以前誰かが住んでいたような痕跡があった。
床に並んでいた4枚の皿を端に寄せて寝床を作った。

二、三日洞穴の中で過ごした祖父たちは安全が確認されてすぐに洞穴を出た。
小さな洞穴だったので端に寄せた皿もいつの間にか踏んづけてしまっていて割れていた。

奇跡的に家は焼け残っていた。
火事場泥棒などに物も取られていなくて元通りの生活を送れるはずだった。

数日後、祖父は幻覚を見た。
どこの誰だか知らない人たち4人が食事をするテーブルに集まっている。
そして何かぶつぶつ言っているのである。
祖父が目を瞑って、もう一度目を開けるとそこのは誰もいなかった。
祖父は洞穴の中にあった皿のことを思い出す。
もしかしたらあれは大切な何かで、今のは何かのメッセージなのではないかと。
祖父はひとりで洞穴へと向かう。

祖父の話はそこで終わりだった。
それからどうなったの? と聞いても一切話してくれなかった。

祖父はそれから1年後に亡くなった。
結局、話のオチは聞かせてくれなかった。

お葬式で祖父は火葬になり、最後にみんなで祖父の骨を拾った。
その時である。
祖父の妹の顔が真っ青だったのである。
「この皿戦時中、防空壕の中にあったものです。どうして……」
祖父の体内から発見された割れた皿は4枚分あった。
どうして祖父がお皿を体内に入れていたのか、どういう経緯があったのか。
祖父亡き後、全ては謎である。

あれから洞穴へ戻って何があったのか。
体内に皿があったということは、何者かに無理やり皿を食わされたのか。
僕は今でも恐怖に身を捩らせている。

サポートしていただけると励みになります!