虹がかかる

 親に頼み込んで、離れ離れになる前の最後の思い出作りの卒業旅行までしたのに、その痕跡はお揃いで買ったキーホルダーと、スマートフォンから現像した写真だけ。
 誰かの為に時間が止まることなど無く、ただ淡々と秒針は回り続ける。そして、記憶は劣化していく。感動したはずなのに思い出せなくなったり、忘れたいことをはっきり憶えていたり。
 秒針の音が残酷に思えた。

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 久しぶり、元気にしていますか。
 〇〇との時間は楽しい時間ばかりでした。他のみんなも、きっと、きみの存在に感謝していることでしょう。
 ただ、共に過ごした時間の記憶は刻一刻と薄れており、それに気づくと悲しく、寂しくなります。くだらないことも多い日々でしたが、そんな日々も美しい日々だったのだと、今更ながら感じています。
 またいつか、笑って会いましょう。

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 激しい雨が降る夜。
親友への簡単な手紙をしたため、眠りについた。
 目覚めたときには、窓から朝日が射し込んでいた。
来てほしくないと願った明日が、また来てしまった。またみんなが、きみが、ぼやけてしまう。

 外を見ると、優しく雨が降っていた。天気雨。
 傘を持たずに外に飛び出て空を見上げた。雨粒一つ一つに打たれる感覚や、雫が肌を伝う感覚は、自立して生きなければいけないことを、ぼくに自覚させた。
 後ろを振り返りながら生きることも大事だけど、前を向く方が大事だ。
 次は、ぼくがあいつを楽しませるんだ。
 ずっと感傷に浸っていては、人を照らせない。

 ある時、きみが皆にかけた言葉を思い出してから、新しい日常を始めるために家に戻った。今日も見えない糸で、大切な人たちと繋がっている。

「雨の中でみんなで歌ってたら晴れたように、辛くてもみんなで支えあってたら、きっといいことがある。離れてもずっと友達で、仲間だよ」








(NOMELON NOLEMON「雨にうたえば」を聞きながら。)


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