夢野久作著「ドグラ・マグラ」について

夢野久作著「ドグラ・マグラ」について(アマゾン電子書籍レビューに書いたもの)

私が26歳の時に読んだこの著作はニーチェ著「ツァラトゥストラ」と同質の虚無的世界観であると思った。
今でもその考察内容は変わらない。
近代以降、個人の受難劇とも謂える方向性を消失した閉じた球体、虚無空間の中で乱反射する言葉、想念の嵐に翻弄される悲劇劇でもある。

この著作の「絶対探偵小説・脳髄は物を考える処に非ず」にある「人間世界から『神様』をタタキ出し、次いで『自然』を駆逐し去った『物を考える脳髄』は同時に人類の増殖と、進化向上とーー中略ーー物質と野獣的本能ばかりの個人主義の世界を出現させた。ーー後略ーー」
これがこの著作の意図でもあり、核でもある。

さらには、アンポンタン・ポカンの名で語らせたこの文章は「ツァラトゥストラ」の手法と一見違って見えても内実は同じものである。
『人類を物質と本能ばかりの虚無世界に狂い廻らせた』と。

今日の虚無的世界観は人々の魂に憑依し猛威を振るっている。
この虚無的世界観を唯物論に依拠する思考で打破するのは容易な事ではない。

この著作が今でも読まれ得るとすればアンポンタン・ポカンに半ば共感しつつ、打破し得るのか、と苦悩する魂であろう。
くどいようだが、この著作は奇書ではなく、虚無空間でジタバタ苦悩する魂が生み出した産物、呻きなのである。

夢野久作著「ドグラ・マグラ」
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