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手足の協調運動が困難になる理由

発達障害の一つである、自閉スペクトラム症(ASD)の多くで、協調運動の困難がみられます。

例えば、体育でスポーツをするときの動きがぎこちなかったり、スキップがうまくできなかったり、箸がうまく使えない・・・といった症状がみられる場合があります。

なぜこのような多岐に渡る動作に困難が生じるのかについて、正確なメカニズムは未だよく分かっていませんが、様々な仮説が提唱され、研究がすすめられています。

脳のGABAと協調運動スキルが関連する

私たちは以前の研究で、MRS(MRIの一種)という手法を用いて、脳の中のGABA(ギャバ)という化学物質の量の変化が、協調運動スキルと関連していることを発見しました。(Umesawa et al., 2020)

GABAは脳の抑制性の神経伝達物質で、神経活動を抑えるはたらきを持っています。(※詳しくは、GABA解説記事を参照ください)
特に、脳の「補足運動野」という領域に含まれているGABAが減っている自閉症者ほど、手足を用いる全身の協調運動スキルが低下していました。

SMAのGABA濃度と協調運動スキル

GABAが減ると、手足の同期を抑制できなくなる?

では、なぜ「補足運動野」のGABAが減少すると、手足の協調が困難になってしまうのでしょうか?

私たちは、定型発達(発達障害ではない)者においても、ある条件下では、意図した通りに手足を動かせなくなる、という研究報告に注目しました。

例えば、右側の手首、足首を、同時に伸展、屈曲させる動きを、繰り返し行うとします。
このとき、手首と足首の動かす方向を逆にしていても、徐々にずれが生じ、いずれ方向が揃ってしまうことが知られています(Baldissera et al., 1982)。

位相同期

先行研究では、「補足運動野」が、手足の動きを同期させようとする神経の信号を、抑制する役割を持っていることが示唆されています。(Nakagawa et al., 2016)

GABAは、神経活動を抑えるはたらきがあります。
私たちは、協調運動が苦手な自閉症者では、「補足運動野」でGABAが減少することで手足が同期しやすくなってしまい、両者の動きを分離することが困難になるのではないかと予想しました。

手足の同期しやすさの検証

自閉症の診断があるかないか、また、協調運動が苦手かどうかで、周期運動中の手足の同期しやすさが変わるかどうかを調べるため、モーションキャプチャを使った検証実験を行っています。

MotionCaputureぽい図

手足にマーカーを貼付、ピーク解析している図
(モーションキャプチャっぽい写真)

現状で、自閉症グループが、定型発達グループと比較して、手足の同期がしやすい傾向がみられています。

同期しやすさ

また、臨床用の協調運動スキルのアセスメントの結果と、手足の同期しやすさが関連しており、手足の同期がしやすい人ほど、協調運動のスキルが低下する傾向がみられています。

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今後は、手足の同期しやすさが、どのような神経メカニズムによって引き起こされるのかを、もう少し詳しく調べていく予定です。
また続報をお待ちいただけたらと思います!


・Umesawa, Y., Matsushima, K., Atsumi, T. et al. Altered GABA Concentration in Brain Motor Area Is Associated with the Severity of Motor Disabilities in Individuals with Autism Spectrum Disorder. J Autism Dev Disord 50, 2710–2722 (2020). https://doi.org/10.1007/s10803-020-04382-x
・Baldissera F, Cavallari P, Civaschi P. Preferential coupling between voluntary movements of ipsilateral limbs. Neurosci Lett. 1982 Dec 23;34(1):95-100. doi: 10.1016/0304-3940(82)90098-2. PMID: 7162702.
・Nakagawa K, Kawashima S, Mizuguchi N and Kanosue K (2016) Difference in Activity in the Supplementary Motor Area Depending on Limb Combination of Hand–Foot Coordinated Movements. Front. Hum. Neurosci. 10:499. doi: 10.3389/fnhum.2016.00499







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