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ニコラス・ケイジの「PIG」が面白かったので見てほしい

ニコラス・ケイジの「PIG」という映画を見てきました。日本では2022年10月公開の映画なので、今映画館に行けばスクリーンで見れるラインの作品です。さあ、行って下さい!公式サイトはこちら。上映しているシアター情報も掲載されています。

どんな映画

どんな映画化と言えば、森の中で世捨て人然としてブタと暮らすニコラス・ケイジが、攫われたブタを取り返しに行く映画です。おっ、ジョン・ウィックか?と思うスジですが、実は文芸映画寄りの映画なのです。

これ以上は何を言ってもネタバレというか、楽しみを奪ってしまいそうなので未見の方は見に行ってください!

ニコラス・ケイジとヒロインの🐖さん

以下、ネタバレありで感想を。ご注意を。





ネタバレあり感想

いい映画でしたね!まさかニコラス・ケイジが伝説のおことは伝説の漢でも、殺し屋方面ではなくシェフだったとは。謎の地下闘技場シーンに来たときは「やるぞ…。ついにニコラス・ケイジが…」と思ったのも束の間、無抵抗でボッコボコです。

しかもその後、流れた血を決して治療しようとせずに、まっしぐらにブタ探しを続けます。この辺で「あっ、違うやつだ」と気づかされます。これロブだ。この爺ちゃんはニコラス・ケイジでもあるものの間違いなく伝説のシェフ、ロビン・フェルドだ、と。

所々でチャプター・タイトルを表示し、わざと文芸よりな演出をしてふざけていると思いきや、ド直球で投げ込んできてました。

いやあ、あのレストランでのかつての弟子への暴力的なまでに純真なダメ出し、グッときました。そして少しずつ明かされるロブとアミールの家族の過去、「そうだったんだ」という謎解きを推進力にして物語がどんどん進んでいきます。

かつてのロブの周りにいた人の反応からも、彼の人柄や偉大さが伝わってきますね。そして、クライマックスのチキン・ソテー。ついに語られるブタの行方。引き離され、二度とは帰ってこないブタ。そして慟哭。

その後、ブタという愛するものの象徴を失い、ダイナーの席に着くロブとアミールの2人。アミールは言います。「ブタはもういないんだ」。ロブは自分の言葉で答えます「そうだ」と。

愛する者はもういないんだ、と。ロブは妻の残したカセット・テープのメッセージを聞けずにいましたね。きっとそれは、妻の不在を、喪失を認められなかったのでしょう。ブタは、その喪失の、--愛の象徴だったのでしょう。それがもう無いと認めたロブ。別離と、そして解放のときが訪れました。

頑なに顔や服の血の汚れを洗わなかったロブ。その血は、そして傷は、自らの過去の過ちに対する罰であり、刻まれたまま背負い続ける事に意味がある戒めの象徴だったのでしょう。だから拭くわけにはいかなかった。洗い流すわけにはいかなかった。それはロブにとっては「逃げ」だった。ロブは自罰的に、そう考えていたのでしょう。

でも、アミールと別れ、小川の水でその血を洗い流したロブ。喪失を認め、自らを許し、視線の先には広がる空が。

相変わらずの山小屋に帰宅しますが、以前は閉ざされていた扉が、今は開いています。きっとロブは、これからもアミールと取引を続ける変わらぬ生活を続けるのでしょう。以前と変わらぬ、しかし、大きく変わった生活を。

ひとり妻の残したカセットテープを聞くロブ。やっと聞けましたね。エンドロールが流れる中、曲の最後にかすかに聞こえたブタの声は、かつての愛する者の声なのか、それとも、あらたな暮らしのパートナーの声なのか。ともあれ、希望のあるラストなのではないでしょうか。

という感じのお話なんだと思います。でもね……

めっちゃ勘違いしてました

実は私、ストーリーをめちゃくちゃ勘違いしてました。いい映画見た!他の人の感想知りたい!といろいろ廻ったところ、上記のような「希望のあるラスト」という方が多く「おや……?」と思ったのです。

なんせ私の感想は「超エモエモほろ苦かわいそうラスト」だったからです。「希望…?それよりせつなさが大きすぎるのでは?……何かがおかしいぞ」と気が付きました。

で、さらにいろいろ見た結果、原因が判明しました。実は私、アミールはロブの妻の子供だと勘違いしてたんです。

こんな流れだと思ってたんです。

  1. ダリウスとその妻が結婚し、アミールが産まれる

  2. ダリウスの妻とロブが不倫。この妻が「ローリー」

  3. ローリーがカセットテープにロブへのバースデーソングを吹き込む

  4. 不倫がバレてローリーが自殺  ← これがロブの過去の傷

つまり、ダリウス宅で延命治療をしているアミールの母と、ロブの死別した妻は同一人物だと勘違いしたまま見てたのです。ローリーを勝手に「妻」と自称し、ごっこ遊びのような不倫をしていたのでは、と。

だってさ、最初にローリーのカセット序盤を聞いた時、「もう、フフ、邪魔しちゃだめよ」的なセリフがあったじゃないですか…ありましたよね(曖昧な記憶)? だから、「あ、子供が邪魔してるのかな。てことは、ロブは家族と別れたせいで世捨て人やってる男性なのかな」と思っちゃったんですよね。そこがボタンの掛け違いの始まりでした。

その後アミールとなんやかんやあり、ダリウスが出てきたあたりで「あれ、もしかしたらアミールはダリウスの本当の子では無い疑いがあって邪険にされてる可能性は」と考えてしまい、それならば本当の父親は……ロブ!?不倫!?いやでもそれだとテープを吹き込むかなり前から不倫してた?ローリー綱渡り不倫ライフめっちゃ長期間続けてんじゃん!そりゃ心が疲弊するわ!しかもアミールはそれに気づいてなくてロブとダリウスは真実がわからないけど苦しんでるとかエモい!と、あたまのわるいドラマに毒された脳が暴走したんです。

おかげでクライマックスのチキン・ソテーをロブとアミールが作るシーンでは「ああ、息子に母親の思い出の料理のレシピを教えてるのか」と胸を痛め、ダリウスにワインを饗するシーン、ロブが「息子が(ワインを)探してきた」というセリフに「誰のや!誰の息子のつもりや!」と興奮し、ダリウスが自室に戻り、ブタの顛末を告白するシーン、「乱暴な者によって私の手元に来た時にはもう…」というセリフも「これは…ひょっとして過去にローリーを取り戻そうとしたときも同じ失敗を!? それは責任感じて山に引きこもるわ!」と涙する事に。

そしてダイナーでのロブ親子・・のシーン。アミールにトリュフの取引を続ける旨を伝えるロブに、「親子という事は隠して支え続けるつもりなんだな」としんみりしてました。

さらにラスト、ローリーの歌うI'm on Fireの歌詞!これがさー、

hey ベイビー ヤツはいい奴かい?
ヤツは俺にはできないことを君にしてくれるのかい?
ああ、燃えるぜ。俺は(嫉妬で)燃え尽きそうだよ

的なところがあって、「嫉妬で狂いそうだけどヤツの方が君を幸せにできるのなら俺は…」感を感じてしまいまして。

ロブはアミールをダリウスに託して身を引き、一人山小屋に戻ってローリーの歌を聴いている。そして、未来へ向かってひとり、あらたな戦いを始める、みたいに思ってたんです。だからこの映画は「超エモエモほろ苦かわいそうラスト」だと。俺のロブになんてことしやがる!監督は人の心無いのか!PIGはお前だこのブタ野郎!と。

でも、勘違いでした。ローリーがロブに対して嫉妬の歌とか変ですし、そもそも不倫してねーですものね。てへ。「邪魔しちゃだめよ」的なセリフは私の勘違いか、もしくは、あのトリュフブタくんがアミールを歓迎した時のように足元でじゃれついたのかもしれません?

言い訳させてください! こんな勘違いするのも、私があたまのわるいドラマに毒されていることは置いておいて、心情や設定をセリフで説明せずに、登場人物の動きや画面から推し量れるような作りになっているからなのです。理解させるのではなく、感じさせる映画。すごく素敵じゃないですか。私は誤解しましたけど、それでも超楽しめましたし!

と、いうわけで「PIG」。お勧めです。

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