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好きな人ができたの。

君は、遠慮するように、でも確かにそういった。

3年前の6月、梅雨が始まる少し前。
僕らは別れた。

高3の冬から僕らは付き合い始めた。
そして、彼女は見事第一志望に合格し、僕は落ちて、もう一年勉強することになった。

合格発表後、初めて会ったとき、君は少し困ったように「1年待ってるから、頑張って」と言ってくれた。

僕にはそれがとても嬉しかった。彼女がいてくれるだけで頑張れる気がしていた。


だけど、僕らは別れた。

思えば

三ヶ月前ぐらいから、予兆はあったのかもしれない。

君は待ち合わせによく遅れた。
LINEの返信が数日変えってこないこともあった。
僕と夜中に電話してても、妹さんが部屋に来ると
君は僕を置いて、妹と話し込んだ。

それでも僕は君のことが好きだった。

浪人生活も、君の待ってるね、が僕の支えだった。

あの日

僕は君と一緒に夜ご飯を食べた。

君は出会ったころから優柔不断だった。
そして、僕にもそれがうつったかのように、優柔不断になってしまった。
人は付き合うとお互い似るものなのだろうか。

食べるものがなかなか決まらなかった。
レストラン街を20分ほど回った結果、一番すいてたパスタ屋さんに入った。

パスタはすぐに出てきた。僕はカルボナーラを、君はカニが入った少し変わったものを頼んでいた。

パスタはおいしかったけど、小食の君には量が多かったらしい。
「食べる?」と言って、恋人が良くやる「あ~ん」をしてくれた。

あ~んをされたことなんて、付き合ってから一度もなかった。
僕はとても驚いたし、それ以上に嬉しかった。

前に行った展望台とてもきれいだったし、この後いかない?

君は珍しく僕に提案してきた。
付き合ってた頃は、なんでも僕が主体になって企画していたから、嬉しかった。「あ~ん」も相まって、僕はさらにうれしくなった。

展望台はビルの屋上にあった。
その日は風が強くて肌寒かった。

何をするでもなく、市内の夜景をみながら僕らは歩いた。
なぜか彼女は黙っている。

どうしたんだろう?何か怒らせるようなことをしたのだろうか?
僕は、不安になって、何回も彼女に尋ねた。

君は何にも悪くないの、私が悪いの

風が急に止んだとき、彼女はそういいだした。
彼女はついに泣き出した。

僕はわからなくなった。

どう訪ねても彼女は、「私が悪いの」と繰り返すだけだった。
僕は余計にわからなくなった。

僕は、とりあえず彼女と一緒にベンチに腰掛けた。
平日だったので、屋上は人もまばらだった。

数分して、彼女はようやく落ち着いてきた。
そして、彼女は僕の目を見て、「好きな人ができたの。」といった。

頭が真っ白になった

言葉が出なかった。
僕はあの時どんな顔をしていたのか、いまだにわからない。

もう一度「好きな人ができたの。」と、かすれそうな声で彼女が言って、ようやく我に返った。

未練がましい男は余計に嫌われる。
そう聞いていた僕は、なぜだか、冷静な振りをして、「そうだったんだ。じゃあ別れようか」といった。

その日、僕らはわざと電車の時間をずらして、家に帰った。

駅へ歩きながら
「友達でいようね」「君になら、もっとかわいくて素敵な人がいるって」
そう君は言ってくれた。
「どうだろうね、そうだといいな」と僕は返した。

最後、彼女と握手をして別れた。

僕はにっこり笑って、「じゃあ」とだけ言って、改札に向かって歩き出した。

なぜ嫌だと言えなかったのだろうか

家に帰って、お風呂に入って、布団に入るまでは不思議と冷静でいれた。
でも、布団に入ってから、涙が出てきた。

あんなに泣いたのは、後にも先にもあの時だけかもしれない。
ずっと泣いた。
泣くことがあっても、泣いた後はいつもすっきりするはずなのに、あの時は全然収まらなかった。

夜中に泣くことが1週間ほど、続いていた。
さすがに自分でもどうしたらいいのかわからなくなって、友達に相談した。
すると、友達はどうして嫌だといわなかったの?と言ってきた。

当たり前のことなのに、それを言われてハっとした。

だけど結局、そのあと、彼女ともう一度話をする機会も勇気も、僕にはなかった。

その年のクリスマス。彼女のSNSには新しい彼氏とのツーショット写真があげられていた。僕はいいねだけを押して、SNSを閉じた。

想いは言葉で伝えないといけない

と僕が思ったのは、このことがきっかけだ。

つい最近、僕には新しい彼女ができた。
彼女には思ったことは全部言うことにしている。

もしも、大切な人が一人でもいるのなら、想いはちゃんと伝えた方がきっといいはず。じゃないと、いつかきっと後悔することになるから。

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