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『それはまるで呪い』


Case1.

優しさが怖い なんて贅沢だなあ

もう大丈夫?

とか聞かれちゃうと ついうっかり口を開けてしまって

奥底に抑え込んでいたものが

我先に外界めがけて押し寄せてくるもんだから

毎回 手遅れになるすんでのところでハッとなって

咄嗟に歯を食いしばって

急いでそいつを飲み込む

次に口を開くときは決まって満面の笑みで

うん もう大丈夫 ありがとう

もうすっかり慣れてしまったけれど

それでも毎回 発するたびにズサズサ刺さる

ありがとう って何だ? 何に対してだ?

たぶん 心配してくれたことに対して

咄嗟に口から飛び出してくるんだろうな

妙に明るいこの嘘に

毎回けっこう堪えるんだ


Case2.

優しさが怖い なんてとんだひねくれ者だな

大丈夫?

とか聞いたって

うん大丈夫 とか ちょっと調子悪くて

くらいの返事しか 想定してないでしょ?

無理しないでね とか 今日は早めに休みなよ

とか 百人一首の下の句みたいにお決まりの言葉を

さらっと口から出すだけでしょ

挨拶くらいにしか考えてないくせに

想定外の返事が返ってくるなんて 考えてもないくせに

向き合ってくれる気もないくせに

そんなに軽々と口にしないでよ

無責任だよ

毎回嘘つかなきゃならないこっちの身にもなってよ

あなたが軽く発するその音に

こっちは泣き出しそうになりながら

必死に気を遣ってるんだよ


Case3.

優しさが怖い なんて悲しいことだろう

大丈夫?

とか ぼくはそうそう人には聞けない

気づいても聞かないぼくを

冷たい奴だと思うかもしれない

だけどぼくは 自分を抱えるので手いっぱいで

とても受け止められる自信はないんだ

なんの覚悟もなく声をかけることなんて

ぼくにはできない

ましてや助けてあげようだなんて おこがまし過ぎる

ぼくにできることは 近くにいることくらい

少しでも たとえ一時でも

この世界も捨てたものじゃない

と思ってくれればいいな

なんて思いながら

できるだけ穏やかな空気を纏って

いつも通りの日々を過ごす

ぼくみたいな人間も

なんとか生きてるよって

伝わればいいなって

お気持ちをいただけたら大変喜びます。