奴隷が買える石

「うちの石つけて〇〇ちゃんは有名になったのよ。」
店に入る前に、50歳くらいの体の大きなおじちゃんに声をかけられた。
店の中を指さして、
「今、うちの店員が接客中だから私が案内するよ」
「お客さんたちラッキー、私普段いないから、
私が直接案内すること無いよ。」

どうやら、おじちゃんはこの店の店主らしい。
「〇〇ちゃんは、この石つけてから売れ始めたのよ」
と有名人の話を始めた。

沖縄で友人4人と落合い、
友人の1人が、首につける木や石の自然素材を使った
アクセサリーが欲しいと言って、
3時間ほど前に地元の人に自然素材を使った良い店はないかと
聞いてこの店に来た。

店をみつけて、
「ここだ!」
言った瞬間に、店の中から
ソバージュでセミロング、サルエルパンツを履いた
体の大きな男性が現れてそのまま店の前の人通りがたくさんある歩道で話し始めた。

その有名人がなぜこのアクセサリーを購入したか。アクセサリーをつけて、いきなり大きなチャンスを掴んだこと、つい最近も家族のために買いに来たこと。
おじちゃんが流れるように話すのを
「めちゃくちゃ話が上手いなぁ。」

友人の付き添いで行った私は、購入する気は全くないので、
おじちゃんの話を聞きながら、
「今、私は、おじちゃんの鉄板の話をきいてるんだろうなあ。
もう10分近く話してるけど飽きない。
すごいなあ」
とまあ、楽しく話を聞いていた。
沖縄の人は、コミュニケーション能力が高い。

私はパワーストーンに興味がない。
運を石に頼る、とかえって心が弱くなってしまうように
思っているのだが、あくまで個人的な意見なので、
パワーストーンやパワーストーンをする人を嫌っているとかは
全くない。むしろ、
「その石のおかげでこんなことが起きて・・・」という話は
大好きである。
夢があるし、魔法みたいだ。

一通り有名人の話を聞いて店の中に入った。

中に入ると
他にも沢山の人の
パワーストーンで強運を引き寄せた
話をしてくれた。

全然売れなかった車販売の営業マンが突然高級車が3台も売れ、
社長になった話とか、事業が何倍にもなった自営業の人の話を聞くうちに
友人はどんどん引き込まれて、
その強運はどれを買えば手に入るか尋ねた。

ソバージュのおじちゃんは、ショーケースを指さして、
「これは、400年〜500年前のもので、これ1個で奴隷が1人買える。お金の代わりに使われてたものなの」

「奴隷と交換、なんじゃそりゃ?」

私は俄然興味が湧いてきた。

私だけでなく、他の友人2人も急に身を乗り出した。
ネックレスを買いたい友人の付き添いなので、
多分私と同じ感じで購入する気はなく話を聞いていたのだが、
突然全員おじちゃんを注目しはじめた。

その感じは店主にも伝わったようで、
携帯の画像を出しながら、
さらに流暢に話しつづけた。

先ほどの普通の営業マンから社長になった人が買った商品のレシートを
携帯の画像で見せて来た。
購入額は50万円とか100万円とか、
「え?このお店でこんな金額買うの?」
ショーケースのものは数千円〜3万円ほどのもので、
なんで100万円分を購入するのか驚いた。

ネックレスが欲しい会社を経営している友人は、
その金額を聞いてますます興味を持ったようで、
ブレスレットばかり並んでいるショーケースを見て、
自分は首にかけるものを探している、ネックレスはあるかと尋ねると
VIPルームがあるから2階へいくかという。

4人で2階にあがった途端、
その奴隷と交換できるビーズの歴史表が壁一面に貼られた、
1階とはまるで違うセレクトショップのような空間が現れ、
壁一面にネックレスやブレスレットが宝石店のように飾られていた。

数万円〜数百万のビーズのアクセサリーが並ぶそのVIPルームに
足を踏み入れた途端、他の友人たちの顔色も変わった。

とはいえ、パワーストーンを全然知らない私は、
「ここと一階の商品と何が違うんですか?」と聞くと
別の友人が「全然違うわよ!!」
と目の色を変えて商品を食いつくように見てる。

私はよくわからないまま店内をうろうろしてみると、
その奴隷と交換できるビーズについてさらに店主は説明を続け、

これは、
ビーズの貴族」と呼ばれ、「富と権力の象徴」
金や象牙、そして奴隷との交換されてきたビーズだという。

結局私たちは、そこで数十万近く購入した、
全員奴隷の石を購入した。

私は、2つ購入し、奴隷が2人買える石を手に入れた。

#創作大賞2024 #エッセイ部門




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