泡かぼちゃ|第9話

そういえば、平田が何かを頼んできていた気がする。なんだったか。勇次郎は、忘れっぽいくせに潔癖そうな見た目をしているから勘違いさせてしまいがちで、よく損をしている。

期待値が高いと、どんな結果を残しても「あぁ、悪くないな」と思われたり、結果を残さないと「え?あの島内さんが?」とか言われたりする。お茶汲みの仕事なんてないのに、自主的に(もしくは何者かによって操作されるラジコンのようにかもしれない)お茶を淹れてくれるひとたちの間で、ヌメヌメとした噂が蔓延るようになる。

「あ、そいえば、島内さん。あのプロジェクトで、社内コンペで優勝したらしいよ。」

「え、らしいね。あの顔して、毎度毎度結果残して、いい立ち振る舞いしてるわよね。本当」

てな具合で。


いや、てな具合ならイイのだけど。

「島内さんが経理部に配属し直されるって話が実はあったんだって。」

「あぁ、知ってる。でも、断ったんでしょ?」

「そうなの、断ったって聞いてどう思った?私、意外だなって思ってびっくりしちゃった。」

「うん、私も。そういうの、とりあえず引き受けそうだものね。島内さんって。」


てな具合も、あり得る。

てな具合は、書き記さずとも、何十通りもある。ちなみに、大抵話を振っているのは、八坂という女で、ナチュラルメイクだか、整えられた眉と少し薄い唇がいわゆる「キャリアウーマン」を連想させる社員だ。ちなみに、同期。なぜか、勇次郎は「島内さん」と噂話の場では呼ばれる。


噂話の場では。

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