泡かぼちゃ|第11話

そうだ。平田から頼まれたことを思い出した。社内インタビューの、インタビュイーの選定だ。仕事というほどのものでは無かったから、勇次郎は少し自分にあった切迫感に呆れてみる。それにしてもどうして、平田は俺にそんな相談をしたのだろうか。確かに、顔見知り程度の知り合いはもちろん、会社に勤めているわけだからいるが、そんなに知り合いが多いわけではない。顔見知り程度の知り合いに、「平田がインタビューしてもいいひと探してましたよ。」と言ってもいいが、積極的に言いたくはない。

そもそも、どんなインタビューなのだろうか。せいぜい、採用面接のようなものなのだろう。あんなにも演技をした過去を振り返って、「面接官は我々が演技していることに気づかないのはあまりにもおかしい事実だ。」と思っていたことを思い出した。

今思えば、それは事実では無かった。採用担当は、その演技力さえも含めて我々のポテンシャルや実力を見ていたのだろう。

いわゆるコールセンター的なカスタマーサポート研修をこの会社で受けたときに、いかにして申し訳なさそうな声を出すかについて特訓した過去が回想される。法人営業もそんなものなのかもしれない。上司も実はアドバイスなんてしたくなくて、上司を演じてるだけ。


そうか、そうであれば演劇的な人生を歩んでいるのだな。と勇次郎は自らを含めた、あらゆる俳優に思いを馳せて、俯瞰し感心する。


しかし、となるとアーティストとはどんなものなのだろうか。

サブスク解禁された音源があることが条件か、はたまた映画で主演を勤めた経験か。

勇次郎は業務用のコミュニケーションツールで、同期と中間管理職的な絶妙な上司の名前を漁る。チカチカとはもはやしていない、マットな画面を流し見しながら。

勇次郎もまた、演ずるのだ。平田が仕事をしたフリをするために俺に相談をした可能性を感じつつも。

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