カラス

「そういうところ、直したほうがいいよ。」

「え、どういうこと。急に、なによ。」

「別に意地悪なことを言いたいんじゃないんだ。ただ直したほうがいいと思っただけで。」

「うん、だから。どうゆうこと。そういうところって、どういうところ。教えてよ。」
「言ってくれないと分からない。」
美咲は、直紀にいつものトーンで言う。

「あぁ、だから。君はトイレットペーパーがぐちゃぐちゃになってても直さないだろう。それと同じで至るところで君はマイナスポイントを稼いでいる。」

「はい?ますますわからないわ。ちゃんと伝えて。」

「ちゃんと伝えて。か。」

「なによ。」

「ちゃんと伝えるが叶う条件は、伝える側にしか責任がないのかい。そうじゃないかもしれない。そうだろう。」

「意味がわからない。分かりづらい言い回しをしても、私はあなたが賢いことなんて鼻から知ってるの。いらないわ、そんなカッコつけ。」


「カッコつけているわけじゃない。」
「ただ、」

「いい、別に。そこを掘り下げたいわけじゃない。」
「で、なに?いきなりそんなことを言って、昨日の夜ご飯でも不味かった?」


「違う。原因があるから、何かを言うわけじゃない。」

「ねぇ、何度も言わせないで。あなたが賢いのはもうわかってる。」


「賢いと思われたくて、こう言ってるわけじゃない。」

「はい、分かりました。そうね、あぁ。あと、あなたの口癖って。わけじゃない、みたいね。さっきから137回出てきている」

「ごめん、それってさっきの期間が長すぎるように思うのだけど。」


「光陰矢の如し、よ。」

「なんだ、君もカッコつけじゃないか。」

「うるさい。で、結局あなたが言いたいのは、私が不器用だったり忘れっぽいところを直せって話?」
「それだったら既に頑張っている。」

「、、、頑張ってる。」


「頑張ってる。」


カラスは飛ばずに黒い視線をこちらに寄せている。何かエサでもやると思われているのだろうか。そんな余裕など、あるわけないのに。やはり、カラスのIQが高いというのはくだらない言説に過ぎないのか。


夕陽に染められてしまいそうな、バスタオルが揺れる。


明日はどんな口論をするのだろうか。

2人は会話を休戦し、コンビニへ氷菓を買いにいく。


もちろん、バスタオルは畳まないまま。

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