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映画「無名」ネタバレ感想

第二次上海事変が起きた1937年から日本が降伏する1945年ごろまでの上海を描いた中国映画「無名」を見た。

ここである程度わかっている人なら、予想がつくだろうけど、「中国映画」だ。私は今回、やっとわかったが、中国映画は検閲が入る以上、基本的に共産党万歳というストーリーが前提にある。

映画無名は、おそらく日本人にとってはなじみの薄い時代になる(少なくとも私にとってはその時代というと、日本では貧しい戦中と対アメリカとの戦争というイメージだ)日中戦争の話になるため、この2つの前提からして、知識不足でだいぶ難しかった。

もうトニー・レオンが主演で出ている時点で、あのウォン・カーウェイのプロパガンダ的な意図が感じられない、映画作品そのものを期待していたのだが、、私の勝手な主観では検閲のフィルターなんてなくて、きっと純粋な芸術作品を見られると思っていたのだが、それはどうも違った。

うん、でもそのフィルターを付けてもなお、トニーレオンを主演に起用するだけあってなのか、やっぱりウォンカーウェイ作品のような雰囲気のあるシーンもいくつかあったし、ウォンカーウェイとはまた違ったヴィジュアルの作り方もよかったと思う。なにしろ、2回も見に行ってしまった。

あんなに重苦しく、残虐で、見ていられないシーンがたくさんあるというのに、それでもやっぱり作品としてのすごさを私は感じた。
ただ、この作品はネタバレを読んでから見るくらいでちょうど良い気もするから、もし、たまたまこのページにきてくれた人、まだ見ていない場合もぜひ読んでみてください。
一回見た方、見たけど、よくわからないという方は特に、一緒に答え合わせするように楽しめたらと思います。

まず、何度も言うけどストーリーの根本が中国共産党万歳であって、タイトルの無名とは、現在の中国共産党を陰で打ち立てた無名の英雄ということになる。

映画の魅力は、このわかりやすさを前提としながらわかりにくいことのように思う。それが私のような人間には、知りたいという気持ちを刺激して、2回目も映画館に足を運ばなくてはいけないほど気になってしまうし、映画を見ていないときには上海事変の歴史やらを何度も調べては結局わからず、深みにハマる。

日本が満州を占領していた歴史まではなんとか知っている。汪兆銘も蒋介石も名前くらいは聞いたことがあるが、日中戦争そのものがわかっていないし、共産党以外の党があったことも今回初めて知った。

映画では、重厚なボワーンという音とともにトニーレオンがベンチに座って、こちらを見るシーンから始まる。いったいあれはなんだろう。2回目にようやくストーリーがつかめたものの、いまだにあのシーンの意味はわからない。

そして、その後の電話の音とともに朝食を食べた後に向かう海辺でのシーンも。日本兵が前日の晩に射殺され、そのうちの1人が華族?(貴族院公爵)の殺された人に似ているというのはなんとなくわかったのだが…。

2回目に見たときは、さすがにタン部長と主演のトニーレオンが従兄弟であり、なんだか独特な関係性(ほんとかな)ということも、トニーレオン演じるフーが共産党員であることもはっきりとよくわかったのだが。イエとフーが実は協力していたことも。

冒頭でフーがジャンを殺したのも、同じ共産党員でありながら、自分の妻から銃を奪い取ったからであることもわかった。そして、殺さなければ自分や妻の身が危うくなることも。

時々出てくる上海の租界の情景シーンも見事だった。
イエの婚約者が出てきてテーブルに座って日本兵に言い寄られている姿をイエがじっと見ているシーンや、
フーとその妻が手紙でやり取りするためのナポレオンパイを買うお店が出てくるシーンや街並みなど
そういったところにウォンカーウェイ作品の独特な雰囲気を美しく描く感じがあった。監督はウォンカーウェイではなく、チェンアルなんだけど、たぶん確実に影響を受けているし、トニーレオンを見に行く人はやっぱウォン作品から連れてきているだろうし(私もその1人だ)そうならないことはないだろう。
トニーレオンが出てくる期待にはちゃんと応えてくれていたと思う。

今回、もう1人の人気俳優、ワンイーボーというのも目玉らしく、アイドルでもある彼が見たいばかりにあの重苦しい映画を見にたくさんのアイドル好きのエンタメ層もきているらしい。1回目に福井で見たときも、2回目の京都の映画館でもそれなりの人がいた。

でもやっぱりトニーレオンの演技が光っていたなと2回目はなおのこと感じた。なんだろう、あの表情、雰囲気。ワンイーボーももちろん良いのだが、トニーレオンの幅が個人的にはよかった。スーツを着て余裕の表情を見せる姿、捕まって刑務所のようなところで過ごしてきたあのくたびれた感じ、表情の演技だけでは出せないであろうその時々の状況からくる身体状況まで演技で幅をもたせていた感じ。簡単に言うと、なんかすごくリアリティがあって、そこにこそ、上海事変とは何か?日中戦争とは何だったのか?みたいな疑問に引きずるのだ。

たぶんワンイーボーしかいなかったら、私はそこまで気にならなかっただろう。むしろ彼はどちらかというと、リアリティに欠けていた。白すぎるという批評もあったけど、全体的にあの時代にしては、つるんとしすぎているのでは?と見ていて勝手に思ってしまった。もしかしたら、それはアイドルという存在ならではの足枷なのかもしれないけど。前半の人を殺すシーンでワンイーボーが顔を思い切りしかめ面する、あの表情だけがどこか私の中では彼ができる幅のようなものだったかもしれないとも思う。
あるいは婚約者から冷たくされて、苦しむ後ろ姿か、やはり表の表情よりも首やその周りの表現にリアリティを感じた。

あとはやっぱり全体的に惹きつけるものとして、私個人としては独特の緊迫感にあると感じた。
一言ひとことが与える意味、何気ない言葉や言動、それが相手にどう受け取られるか、言葉を発した後の緊張感。ああいう感じって今の私(たち)の日常にはなかなかない気がする。ちょっとした一言で命取りになるようなことがある時代や社会に生きているのは確かに不幸なのだけど、映画ではそれがどこか美意識のように感じられるものがあった。もしかしたらそこにワンイーボーのつるんとした美しさが一役買っていたのかもしれない。
緊張感は映画の中で割とずっと続いているのだが、特に重要なシーンはトニーレオンが日本人は皆、戦争犯罪者だと言ったシーンだと思う。あのとき、すでにその後のワンイーボーとの激闘が約束されたし、あの時点でトニーレオンが殺されるんじゃないかと、あの日本食の割烹?は血の祭りになるのではないかと2回目鑑賞でわかっていながらもなぜかドキドキした。

あとは、日本人の渡部とトニーレオンが一緒にいるとき、洋菓子を見せてくれと渡部から言われたその瞬間だ。あれは2回目でないとわからなかった。なぜあんなに緊迫する意味が。
あの時点で渡部がフーになぜ遅れた?と言及したこと、洋菓子店のことが出てきた時点で日本人公爵が殺害されることにフーが加担していたこととのつながりに渡部がつかみ出したということなのだろう。
危うく渡部はパイの箱の中にある手紙に気づかず、フーは万事休すが、あれで手紙に気づいていたらその場でフーは殺されていただろう。
あのシーンは1回目の鑑賞ではよくわからなかったが、かなり危うい場面だったんだなと今になってもようやく気づいてきた。
そもそもスパイが洋菓子店に行っていたから遅れたなんて、そんなおかしなことはないはずだ。あそこで言及されなかったのも、言及の端緒を掴まなかったのも、その後に何らかの行動を取らなかったのも渡部のスパイとしての能力のようなものが不足している点なのか、何なのかはわからない。

結局のところ、汪兆銘内部もタンが説明したように、共産党でも国民党でもない、時には私情を挟んだやり合いもあったりして(イエの婚約者ファンが殺されたくだりはどうもそういったものを感じた)汪兆銘が亡くなった後に弱体化した中で滅んでいったように感じる。

まだ疑問が残るのは、前半に出てきた美しい女性、ジャンだ。
(1回目の鑑賞では3人の女性がどれも同じ人のように思ってしまうくらい、みんなきれいが共通していた)
彼女は任務に失敗して処分されることになる国民党の女スパイ、とあるのだが、

https://unpfilm.com/mumei/

タン部長を殺そうとして殺せなかったとしているし(そういえば、渡部以外、女性絡んでるな)今ひとつ、どっち側なのかが分かりにくい。
上海在住日本要人リストを出したのは、フーが共産党であること、そっちの目的を持っていることに協力したことまではわかるのだが、
なぜパンフレットやホームページでは上記のように書かれているのに、タン部長を殺そうとしたなら共産党のスパイでは?と思うが、その辺がつじつまが合わない。

もしかしたら、フーと同じく本当は共産党員ながら、国民党員として存在し、タン部長を殺そうとしたことで罪に処せられたのか…

にしてもこの映画を理解するために数少ないネタバレ記事を読み、そこからチェンアル監督の前作ワンスアポンアタイムイン上海を見ていたから予備知識があってストーリーがわかったというのを見て、その作品を見た上で、ネタバレを読み込んだうえで2回目に臨んだのだが、まだ見たい。気になるというのが今の心情だ。

3回目は配信を待とうと思うが、何かのきっかけで見ることができるなら映画館を逃すことはできないだろうと思う。

ワンスアポンアタイムイン上海を見たら、あの渡部はなぜか無名でも同じであり、同じ言葉を発することで滅ぼされる。
それはまるで今、平和に暮らしている日本人に向けた戦争を忘れるなというメッセージのような気がしてならない。

3回目を見たら、またnote書きたくなりそう。

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