妄想にコンプラはない~ひと夏の恋をもう一度~
「やっぱりわたしはあなたと結ばれる運命だったのね」
大好きだった元カレとの突然の再会。
こんなところで?急に?
20年の歳月なんて関係ないのね。
時空を超えてあっという間に『あの日』へタイムスリップできた。
当時の感情も蘇ってきて、
浮かれて、ニヤついて、体がぎゅーってなってジャンプしだすわたし。
久保田利伸がメリーゴーラウンドに回れ回れと指示しながら歌い
何から伝えればいいのか、と小田和正も参戦してきて脳内はどんちゃん騒ぎ。
正確に言うとそこにいたのは元カレに似たドラムの先生。
わたしはアラフォーにしてドラムを習うことにした。
やりたいなと思っていたら、近くでイベントがあって、更に近くでレッスンしている、そしてその先生が元カレに激似とか、激熱案件やん。
当時、運命の人だと思っていて
現在は人の夫である元カレのことが大好きだった。
中学の時に両想いがわかり学生らしいお付き合い。
(1カ月も続かなかった記憶)
高校も同じで、付き合ってみたり、彼が他の人と付き合ってるのを知って
その子が彼と釣り合ってるか審査してみたり。(怖っ)
大学に入ってからも、なんやかんや好きな期間があったりして、
「あぁ、わたしはこの人から一生離れられないんだ」
「あの人が結婚しても追いかけ回してニュースに出ることになるんだ」
とか
「いっそのことあいのりの❛❜ラブワゴン❛❜に乗って
全く違う人探しに行こうかな」
とかヤバイ思考しか出てこないくらい好きだった。
そんな彼のことを少し紹介しておくと
顔はともかく『雰囲気イケメン』だった。
醸し出しているなんとも言えない雰囲気が大好きだった。
顔は気象予報士の天達さんに似てて、
身長は178くらいで、猫背でやせ型。(何かの犯人か)
わたしには雰囲気が歩いている、雰囲気が呼吸しているようにしか見えてなくって、包まれた雰囲気ベールで顔が霞んでもはや顔もはっきり覚えてないくらい。もう天達さんかどうかも自信なくなってきたよ。
よくバンドマンの人で、それ前見えてる?髪邪魔じゃない?ピンで留めたら?ってくらいに前髪が目にかかってるのいるよね。あの人たちって顔見えてないのにめっちゃ色気あると思わない?
ドラムの先生も顔が似てるから『雰囲気イケメン』は確定してるんだけど。
先生はゆったり話す人で、それが更に『雰囲気イケメン』を加速させてて
おまけに楽器もできて、飛び道具として山も持ってるんだから
常にマリオのスター状態やん。
見学に行き、先生の腕前をしかと拝見したく一曲リクエストした。
さすがの先生。さらりと叩く。そのさらり感がわたしの青春をえぐってくる。
もう嘘やろ。あの人ドラムもできたん?勘弁してよ。どんだけわたしを虜にすれば気が済むんよ。罪な男やん。
わたしの心はトキメキを超えて動悸がしてきた。
油断していたら胸がきゅーーーーーーーーんとしちゃって、
思わずこんなこと聞いてしまった。
「モテるでしょ?」
はっ!わたしったらなんておばちゃんすぎる質問を!
この人は元カレやなくて、先生やで!失礼なこと聞くな!
「何歳ですか~?」「いくつに見える~?」くらいどうでもいい野蛮な質問だ。
そんなわたしの気持ちなんて露知らない先生の回答はこうだった。
「いやー、どうですかねー」
ひぃーーーーーーーーーーーーーーー!
ちょっと奥さん聞いた?
そんなん、モテる人が使う返しやん。
こういうとこやん!
これ以上、さらっとわたしの隙間に入ってこんどいてよ。
そんなん弱いの知ってるくせに。
ちょっと待ってよ。
どうしよ、月謝袋渡すときに手が触れてしまったら。握り返そうか。
どうしよ、ゴルフみたいに後ろに回って一緒にスティック持つなんてことがあったら。その手一生離さない。
どうしよ、椅子が座りにくいなら僕の膝の上にどうぞとか言われたら。
もう椅子捨てよ。
あ、いかん。
もう目の前の人が「先生」なのか「元カレ」なのかわからんくなってる。
妄想の迷宮入りやん。
激似フィルターで見てしまってるから冷静でいられない自分がいて
目の前の元カレにヤキモチやいた一瞬があったということを
正直に告白しておく。
先生とわたしには共通の知人が何人かいて
その人たちのことは下の名前で呼んでるのに、
わたしのことは「さか田さん」だって。
いいなー。ずるいなー。って思った自分にデコピン。
そもそも全くやったことないことを元カレの前でやるってド緊張ものなのよ。
想像しただけで脇汗が噴き出してくる。
できないことを見せるって恥部を見せるってこと。
(ここで言う恥部は下ネタじゃないよ。でもほぼ同等の意味か)
好みの歯科医に口の中全部見せる、とか。
好みの外科医に剃毛されて腹部切られる、とか。
元カレに恥部を見せる。
もう罰ゲームでしかない。
胸キュンしたかと思えば、恐ろしい現実を見るのが怖くなったり
わたしの心臓と思考回路はショート寸前だ。
しっかりしろ、わたし!
この人はこれからお世話になるドラムの先生よ!
情緒が乱高下する自分をビンタで一喝する。
どうするわたし?
いや、どうもせん。
この人は元カレではなく、別人のドラムの先生であって
わたしは脳内元カレと「あの日の続き」を楽しませてもらってるのよ。
これからも気持ちだけ浮かれるのはOKとしよう。芸能人を見て「素敵~」と思うのと変わらない。ただそれ以上、例えばわたしから積極的に「一緒にスティック持ちませんか?」とか言い出したら終わり。
人の道から外れたことをしないか自信がないので
毎回長男を帯同させることをここに誓う!
◎ ◎ ◎
あれから何週間か経ち、、、、
つ、ついに一線を越えてしまった。。。
いや、レッスン初日を迎えました。
わたしにとっては恐ろしい現実と対峙するということや
爆発した妄想を本人目の前にしてどう冷静を保てるかなど
レッスン初日はある意味『一線』なわけで。
恐れていた、スティックを一緒に持ちたくなる衝動は出てこなかったし、
一度レッスンに入ると、やっぱり集中しないと難しくって妄想を炸裂させる暇もないわけで。
この人、わたしがあんなことやこんなこと考えていたなんて知らんだろうなと思いながら受けるレッスンもまた違う意味でヒヤヒヤニヤニヤもんで。
先生、わたしうまく笑えてましたか?
鼻の下伸ばしてませんでしたか?
わたしは、あなたにバレないようにこれからも色々と過去のあれこれを取り戻させてもらいますね。これからもよろしく。
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