R6司法試験 再現答案:刑法
こんにちは。
相変わらず検討もれに気づきまくってツラいです。解いている時は設問2(2)以外は淡々と処理していた気がするんですけどね。
再現答案
6.7枚
第1. 設問1(以下刑法について法名を省略する)
1. 甲の罪責
(1) 甲がAの頭部を拳で殴り、その後Aの腹部を繰り返し蹴った行為について、傷害罪(204条)が成立する。
「暴行」とは、身体に対する不法な有形力の行使をいうところ、甲は上記行為という不法な有形力の行使に「よって」Aに肋骨骨折等の「傷害」を負わせたものである。そして、甲には故意(38条1項)が認められる。
(2) 甲が本件財布を自分のズボンのポケットに入れた行為について、強盗罪(236条1項)は成立しない。
236条1項における「強取」とは、被害者の反抗抑圧に足る暴行・脅迫を手段として財物を奪取する類型をいう。そこで、財物奪取の手段として暴行・脅迫が用いられている必要があり、従前の暴行により作出された反抗抑圧状態を利用するのでは足りないと考える。
本件では、上記「暴行」の時点で甲はAから財物を奪取する意思はなく、本件財布内の現金6万円を見つけて初めて奪取意思を生じている本件財布を奪取するにあたり、手段として用いられた暴行・脅迫は認められない。
(3) 上記行為については、窃盗罪(235)が成立する。
ア 「窃取」とは、相手方の意思に反する占有移転をいう。
「財物」である本件財布は、Aが甲の要求に従い自らの上着ポケットから取り出して自らの手元においた時点では、Aの事実上の支配下にあり、占有意思も認められる。ゆえに、同時点においてAに占有が認められる。甲が本件財布を拾って中身を見たのち、6万円が入っていることに気づきポケットの中へ入れているところ、この時点で本件財布の事実的支配の移転により占有が甲に移ったといえ、かかる事態はAの意思に反するものであるといえる。
よって「窃取」にあたる。
イ 甲には故意が認められる。また、不可罰的な使用窃盗や毀棄罪との区別から権利者排除意思及び利用処分意思からなる不法両得の意思も必要となる。本件では、甲は本件財布内の現金という経済的効用を得るためにAを排してAにしか認められない行為を行う意思を有しており、利用処分意思及び権利者排除意思が認められるから、不法領得の意思も認められる。
(4) 以上より、甲には①傷害罪、②窃盗罪が成立し、これらは併合罪(45条前段)となる。
2. 乙の罪責
(1) 乙がバタフライナイフの刃先をAに示しつつ、本件カードの暗証番号を言うよう迫った行為について、Aに対する強盗利得未遂罪(236Ⅱ、243条)が成立する。
ア 2項については、処分行為が不要である一方で、「財産上不法の利益」に該当するためには、行為者から財産上の利益の移転が具体性・確実性を有している必要があると考える。クレジットカードの暗証番号は、それ自体は単なる数字の羅列に過ぎない。しかし、当該クレジットカードを所持している者が暗証番号を聞き出せば、容易に当該カードにかかる預金口座から預金を引き出すことが可能になる。そこで、カード所持者との関係で、かかる行為は預金を引き出しうる地位という具体的な財産上の利益を直接的に移転させる行為にあたるといえる。もっとも、真正な番号を聞き出せなければかかる地位の移転について確実性が認められないと考える。
乙は、甲から受け取った本件財布にA名義の本件カードがあることに気づき、本件カードをAに見せながら、その暗証番号を言うよう迫っている。本件カードを占有している乙との関係では、本件カードの暗証番号を伝える行為は預金を引き出しうる地位を確実に移転させるものといえる。しかし、Aが乙に伝えたのは自宅に保管中の別のキャッシュカードの暗証番号であり、その番号は本件カードのそれと異なる。ゆえに、上記地位が確実に移転したとはいえない。
イ もっとも、「実行に着手」したといえる(43条本文)。
強盗利得罪は暴行・脅迫を手段として財物を奪取する類型であることから、財物奪取に向けた反抗抑圧に足る「暴行又は脅迫」に着手した時点で「実行に着手」したといえるものと考える。
本件では、乙はAに向けてバタフライナイフという鋭利な刃物の刃先をAの眼前に示した上で、「死にたくなければ、このカードの暗証番号を言え。」と申し向けている。かかる乙の行為は身体ひいては生命への危害を予感させるものであり、反抗抑圧に足る暴行・脅迫にあたるといえる。
ウ さらに、乙には故意及び不法領得の意思が認められる。
(2) 乙がATMに本件カードを挿入して4桁の数字を入力した行為について、コンビニに対する窃盗未遂罪(235、243)が成立する。
ア 誤った番号を入力する行為でも未遂になるか。
行為時の一般人を基準として、一般人に知り得た事情及び行為者が特に知り得た事情を踏まえて危険性が認められる場合には未遂犯が成立すると考える。
本件においては、コンビニのATMにキャッシュカードを挿入し、正しい暗証番号を入力すれば容易に預金を引き出すことが可能である。本件カードの暗証番号と入力した数字は具体的に異なるが4桁の数字であることは共通であったところ、乙はAから本件カードの暗証番号として聞き出した上記数字を入力かかる数字を入力していることで、行為時においてみれば乙が預金を容易に引き出す危険性があった評価できる。
よって不能犯には当たらず、「実行に着手」したものということができる。
イ 乙には故意及び不法領得の意思が認められる。
(3) 以上より、乙には①強盗利得未遂罪、②窃盗未遂罪が成立し、これらは併合罪になる。乙は以上の罪責を負う。
第2. 設問2(1)
1. 1回目暴行
(1) 1回目殴打はCの胸ぐらを掴みCの顔面を拳で殴るという態様のものであり、身体に対する不法な有形力の行使にあたる。そして、丙には故意も認められるから、暴行罪の構成要件に該当する。
(2) 1回目暴行に正当防衛(36条1項)が成立する。
ア まず、「急迫不正の侵害」とは、違法な侵害が現に存在すること又は差し迫っていることをいう。本件では、Cが丙の顔面を数回殴り、丙を転倒させ、その後も殴りかかってきている。よって丙の身体に対する違法な侵害が現に存在するといえる。
イ 次に、「ため」とは防衛の意思を意味し、侵害の存在を認識しつつこれを避けようとする単純な心理状態で足りると考える。丙はCが殴ってくるのを認識しつつ、自らの身を守るために1回目暴行に及んでいるから、防衛の意思が認められる。
ウ そして、「やむを得ずにした行為」とは行為としての相当性を意味する。Cは30歳男性であり、拳で丙に数回顔面を殴打している。これに対して、丙は26歳男性とCと歳も近く、素手で襲ってきたCに対して拳でその顔面を殴打している。したがって、1回目暴行は行為としての相当性が認められ、「やむを得ずした行為」にあたる。
2. 2回目暴行
(1) Cの顔面を殴るという不法な有形力の行使にあたり、「暴行」に該当する。さらに、丙には故意も認められる。よって暴行罪の構成要件に該当する。
(2) もっとも、正当防衛が成立し、違法性が阻却される。
ア Cが丙に対して殴りかかってきており「急迫不正の侵害」が存在する。
イ そして、丙は上記侵害から身を守ろうとしており「防衛の意思」が認められる。
ウ また、Cが素手で殴りかかってきたのに対し丙も素手で1度顔面を殴ったものであり、「やむを得ずにした行為」といえる。
第3. 設問2(2)
1. 丁について
丙による2回目暴行について暴行罪の幇助犯(62条1項)は成立しない。
(1) 「幇助」とは、物理的ないし心理的寄与を通じて犯行を容易にする行為をいう。丁は、丙に対し「頑張れ…」と声をかけている。これを聞いた丙は、発奮して2回目殴打に及んでいる。したがって、上記声掛けは丙がCを殴打する意思をより強固にするという意味で心理的寄与を果たしたものといえ、「幇助」にあたる。また、丁には故意が認められる。
(2) もっとも、甲に正当防衛が成立するため、丁についても違法性が阻却される。
狭義の共犯の処罰根拠は、正犯を通じて法益侵害結果発生に因果的寄与を及ぼすことにあるから、正犯による違法な法益侵害結果が生じている必要がある。その一方で、責任は個別的に検討するべきである。そこで、狭義の共犯が成立するには正犯が構成要件に該当する違法な行為を行なっている必要があると考える。
丙の2回目暴行は暴行罪の構成要件に該当する。しかし丙について正当防衛が成立し違法性が阻却される。よって、正犯について
よって丁には幇助犯は成立しない
2. ②について
丁の1回目暴行及び2回目暴行について、甲には暴行罪の共同正犯(60条)が成立する。
(1) 共同正犯における一部行為全部責任の根拠は、他の共犯者を通じた法益侵害結果に対する因果的寄与に認められるところ、実行行為を担当せずとも重大な寄与を行うことでかかる因果的寄与が可能である。そこで共謀共同正犯も認められると考える。そして、上記根拠より、①共謀及び②共謀に基づく実行の要件を満たす場合に成立すると考える。
甲が丙に対して「俺がCを押さえるから、Cを殴れ。」と発言し、これを聞いた丙は、同行してきた甲の言う通りにするのも身を守るためにはやむを得ないとして自ら殴打行為に出ている。よって、両者の間で黙示の共謀が成立していたといえる(①)。そして、甲は上記発言により具体的な方策を指示しつつCへの攻撃を提案しているから、丙に殴打を実行させる重大な心理的寄与を及ぼしていたものといえる。なお、甲がCを押さえる前に1回目殴打に出ているが、これはCの侵害が目前に迫ったために丙が臨機応変に対応したものであるから、「共謀に基づく実行」にあたる(②)。また、身を守るため2回目殴打を行なっているが、Cがなおも殴りかかって来ており共謀時からの一連の侵害が継続している以上、甲との「共謀に基づく」実行といえる(②)。
(2) 丙について正当防衛が成立するが、丁については当然に違法性が阻却されない。
共犯従属性の議論については、共同正犯についても排除すべき理由はない。そして、共同正犯は実行者を通じて法益侵害結果発生に因果的寄与を及ぼす類型である。そこで、原則として実行者について成立要件を判断し、共同正犯が成立するには実行者が構成要件に該当し、かつ違法な行為を行う必要がある(ア)。しかしながら、共同正犯は実行者との心理的意思連絡を通じて自己の犯罪としてこれを遂行する点で二次的犯罪である狭義の共犯と異なるものというべきである。そのため、違法性阻却事由のうち主観的要素については共犯者自身を基準として判断し、その結果違法性の判断が共犯者間で異なることがあり得る(イ)。
丙の1回目暴行及び2回目暴行については、正当防衛が成立する。一方で、甲はC方に赴く時点で、Cから殴られるかもしれないとの危険を予期していたにもかかわらず、むしろその機会を利用してCに暴力を振るおうと考えていた。さらに、丙がCに殴られた際も、丙にCを痛めつけさせようと考えていた。ゆえに、甲には積極的加害意思が認められ、甲との関係では「急迫不正の侵害」があったとはいえない。また、もっぱらCに暴力を加える目的であり、「防衛の意思」も否定される。
よって甲については違法性が阻却されない。
感想
設問1
甲については淡々と必要事項に触れていけたと思います(まだミスを見つけていないだけ説あり)。一方で乙についてはカードを差し込んで番号を入力する行為それ自体の実行の着手該当性を論じていないなど、ポコポコ論点落としをしてしまってますね。監禁は今回は聞かれてない(拾うべき事情が少ない)し、傷は小さいと思っていますがどうでしょう…。
設問2
小問(1)
丙による暴行(1回目殴打及び2回目殴打)と書かれているのに行為の一体性を検討しませんでした…。いやでもそれぞれの行為について正当防衛認めてるから一体性を認定する実益あるのですかね…?わかる方いたら教えてください。
小問(2)
共犯従属性の議論、よくわからなかったのでうろ覚えです涙
口述のときから基本刑法のここ一回読んでおきたいな〜を放置したツケが回ってきました。一応それっぽく整合させたとは思いたいです。
以上になります。お読みいただきありがとうございました。
それではまた。
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