R6司法試験 再現答案:刑事訴訟法

こんにちは。
やっと終わりました。
最初はウキウキで川出説で書いたろ!!と思って解き始めましたが、終わってみると理解の甘さが浮き彫りになり、論理の矛盾・評価の一貫性の欠如などが出てきて落胆してます。


再現答案

6.7枚

第1.     設問1(以下刑事訴訟法につき法名を省略する)
1. 刑訴法は実体的真実主義(1条)を目的とするところ、適正手続(憲法31条)の要請も踏まえ、司法の廉潔性及び将来の違法捜査抑止の観点から証拠能力を否定すべき場合があると考える(違法収集証拠排除法則)。そして、違法な捜査により直接的に獲得された証拠を排除すれば一応かかる目的は達しうるが、派生的証拠についてもこれを排除しなければ上記違法収集証拠排除法則の趣旨を没却しかねない。そこで、(ⅰ)先行手続における違法の重大性及び(ⅱ)先行手続と派生的証拠の関連性を総合的に考慮して、派生的証拠の証拠能力が否定される場合がありうると考える。
2. 以下本件におけるPの各行為についてみる。
(1)職務質問行為

覚醒剤の密売が行われている疑いのある本件アパートから出てきた人物が甲に本件封筒を手渡ししている。かかる甲には覚醒剤取締法41条の2違反という「犯罪を犯し」たと「疑うに足りる相当な理由」がある(警職法2条2項)。よって甲に対して職務質問を開始した行為は適法である。
(2)「停止させ」た行為(警職法2条1項)
ア 「停止」行為については、身柄拘束は禁止(警職法2条3項)されており、かつ警察比例の原則が妥当することから、必要性等を考慮した上で具体的状況をのもとで相当といえる場合には適法であると考える。
イ 甲は封筒の中身を貸していたお金を返してもらったものと答えている。しかし、甲は以上に汗をかき、目をキョロキョロさせ、落ち着きがないなど、覚醒剤常用者の特徴を示している。そうだとすると、甲の覚醒剤所持または使用の疑いがさらに強まり、職務質問を継続する必要性がより高まっているといえる。そして、甲はいきなりその場から走って逃げ出しているから、職務質問を継続するべく甲を立ち止まらせる必要性が高かったといえる。Pは甲を追いかけ、すぐに追いついて甲の前方に回り込んでいるが、甲の身体に直接有形力を行使しておらず、極めて穏当な態様による行為といえる。したがって本件の状況においてPの行為は相当なものといえる。
ウ 以上より、Pが甲を「停止させ」た行為は適法である。
(3)所持品検査
ア 所持品検査は職質の実効性確保のためこれに付随して行うことが可能である。しかし、任意である職質に付随する以上①相手方の同意があることが原則として必要であると考える。もっとも、同意がない場合でも、②捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、③職質の実効性確保の観点から必要性、緊急性等を考慮して具体的事情のもとで相当と言える場合であれば適法に行うことができると考える。
イ 本件では、Pはいきなり甲の持っていた本件かばんのチャックを開けて所持品検査に着手しており、その同意は得ていない(①不充足)。そして、Pは本件かばんの外側から触れるのではなく、いきなりかばんの中に手を入れて中を覗き込みながら在中物を手で探っている。このような行為は、本件かばんの内容物を視覚及び触覚をもって検知しようとするものであり、「所持品」について有するみだりに私的領域に侵入されない権利(憲法35条)を実質的に制約するものであるから、捜索に類する行為にあたるといえる(②不充足)。
ウ 以上より、Pによる所持品検査は違法である。
3. 本件鑑定書について
(1) 上記職務質問及び所持品検査によって甲を任意同行したのち、職務質問を実施した経緯について記した捜査報告書①と上記所持品検査において注射器を発見したという経緯に関する捜査報告書②を提出し、捜索差押許可状(218Ⅰ)の交付を受けて本件かばんの創作を実施している。そして、捜索において発見された本件封筒に入っていた結晶を差し押さえ、鑑定を行ったところ覚醒剤である旨が判明したのであり、本件鑑定書は上述の鑑定の結果を示したものである。以上を踏まえると、本件鑑定書は本件所持品検査を起点として、甲の覚醒剤取締法違反の捜査のために行われた捜索差押えにより発見された本件封筒内の結晶について作成されたものであり、所持品検査の派生的証拠に当たる。
(2) Pは本来任意の所持品検査において捜索に類する態様の行為を捜索差押許可状を(218条1項)の発付を受けずに実行している。よって、令状主義の潜脱に当たる重大な違法性が認められるといえる(ⅰ)。
(3) 前述の通り、本件鑑定書は所持品検査が発端となり、捜索差押えを行って得られた結晶の成分について取得したものであるから、先行手続たる上記所持品検査との関連性が認められる。しかしながら、本件捜索差押えにおいては「捜索すべき場所、身体又は物」(219条1項)を甲の身体及び所持品として、「差し押さえるべき物」についても覚醒剤等と示し、適法に発付している。そうだとすると、適法な令状審査を経ている以上関連性が認められないのではないかとも考えられる。
 本件では疎明資料として捜査報告書①及び②を使用している。しかしながら、Pは捜査報告書②においてPが本件かばんの中に手を入れて探り、書類の下から同注射器を発見して取り出した旨は記載していない。そうだとすると、令状審査において所持品検査での上記の重大な違法について裁判官は認識していない。すなわち、所持品検査における上記違法について、令状審査を経て関連性が弱まったということはできない。むしろPがあえて上記事実を記載しなかったことがPにおける令状主義を潜脱する意図を推認させ、将来の違法捜査抑止の観点からの排除の要請を高めるものであるとすらいえる。
 以上を踏まえると、本件鑑定書と所持品検査においては強い関連性が認められる(ⅱ)。
4.  以上より、本件鑑定書は派生的証拠として証拠能力が否定される。
第2. 設問2
1. 捜査①
(1) 捜査①は「強制の処分」(197条1項但書)には当たらない。
「強制の処分」とは、相手方の明示又は黙示の意思に反して、その重要な権利利益を実質的に制約する行為をいう。
捜査①はビデオカメラでの撮影:無断で容貌等を撮影されることは、乙は容認していないといえる。よって乙黙示の意思に反するものと認められる。そして、個人には、みだりに個人の容貌を撮影されない権利が保障される(憲法35条)。一方で、捜査①が行われたのは本件アパート付近の喫茶店内であるところ、かかる場所においては、容貌等が他者の視線にさらされることをある程度受忍せざるを得ないという点で一定程度後退する。そうだとすると、喫茶店内におけるビデオ撮影では、「住居、書類及び所持品」と同視できるほどの重要な権利利益に対する実質的制約は認められないといわざるを得ない。
(2) 捜査①は任意捜査の限界に抵触せず、任意捜査として適法である。
任意捜査についても、捜査比例の原則が妥当するから、必要性、緊急性等を踏まえて具体的状況のもとで相当と認められる場合に適法となると考える。  
 本件アパート201号室を拠点とする覚醒剤の密売についての情報が存在していた。そして、同室の名義人乙には覚醒剤取締法違反の前科があった。薬物犯罪は密行性が高い一方で証拠隠滅が容易であることを踏まえると、同室を拠点とする覚醒剤の密売について捜査を行う必要性は高いといえる。そして、乙は首右側にタトゥーがあり、本件アパートの張り込みにより極めて乙に酷似した人物が部屋に入るのを確認されていた。そこで、同男性が乙であるかどうか、タトゥーの有無により確認する必要があったところ、喫茶店に入店したため、上記目的で捜査を行う必要性があったといえる。
 そして、Pは喫茶店内においてビデオカメラで20秒間撮影しているが、撮影時間は短く乙の利益侵害の程度は小さいといえる。さらに、店長の承諾を得た上で撮影に及んでいる。確かに、後方の客の姿も映ってしまっているが、乙に気づかれないよう撮影する必要があり、少し離れた席から撮影しているために不可避的に映ってしまったものである。上記撮影時間の短さも踏まえると後方の客に対するプライバシーの侵害も程度は小さいといえる。
 以上を踏まえると、方法は穏当なものであり生じる不利益が小さいといえ、本件の状況において相当といえる。
2. 捜査②
(1) 捜査②は「強制の処分」には当たらない。
 前述と同様乙は本件アパートの出入り口付近でその容貌や姿を撮影されることを容認しているとはいえない。よって、捜査②における撮影は乙の黙示の意思に反するものである。
 そして、捜査②における撮影範囲は本件アパート201号室の玄関ドアや付近の共用道路である。かかる撮影により玄関ドアが開けられるたびに玄関の内側や奥の部屋に通じる廊下が映り込んでいるところ、かかる部分は「住居」に当たり、重要な権利の実質的制約にあたるともいえそうである。しかし玄関ドアは公道側に向かって設置されているから、公道または公道に面した建物から玄関ドア及び付近の共用道路部分、さらには上記玄関の内側部分についても人の目に触れうることが想定されており、その意味でプライバシー保護の要請が後退しているといわざるを得ない。そうだとすると、確かに玄関ドア等それ自体よりは保護の必要性が高まるが、憲法35条が保障する「住宅」に対するプライバシーと同等に保護する必要性が認められるとまではいえない。
 よって重要な権利利益を実質的に制約するものであるとはいえない。
(2) 捜査②は任意処分の限界を超えており、違法である。
 捜査①などにより乙を特定したが、犯罪の全貌は明らかになっていない。その一方で、本件アパートにおいて乙以外にも複数人が出入りしている様子が窺われる。したがって、本件アパート201号室を拠点とした覚醒剤の密売について、共犯関係や覚醒剤の搬入状況等の組織的な覚醒剤密売の実態を明らかにする必要性があるといえる。すなわち、同室に出入りする人物や行動パターンを明らかにする必要性があったといえる。そして、同室のドア横には公道を見渡せる位置に腰高窓があり、出入りする人物に気づかれずに玄関ドアが見える行動上で張り込みを行い間断なく監視することは不可能であった。かかる事情のもとでは、ビデオカメラを公道の反対側のビルの部屋に設置して継続的に撮影を行う必要性があったと認められる。
 ビデオ撮影においては、ビルの所有者及び管理会社の承諾を得ている。さらに、玄関外の共用部分は乙らが出入りする以上不可避的に映る限度といえる。そうだとすると、ビデオ撮影の方法自体は穏当なものであるとも思える。しかしながら、撮影期間が令和5年10月3日から同年12月3日と2ヶ月間と非常に長い上に、当該期間内は24時間ずっと撮影を続けていたものである。そうだとすると、行動パターンや出入りなどが網羅的に把握されていたといえる。さらに、玄関ドア開閉の度に上記室内部分が映っていた。前述の通り、確かにかかる部分に対するプライバシーの要保護性は「住居」それ自体よりは低いが、それでも室外に比べれば高く、かつ上述の通り長期間にわたり撮影を続けていれば、プライバシーへの侵害の程度が蓄積して重大なものとなるといえる。その上、共犯関係などが分かった時点での撮影の終了や時間の短縮が行い得たのにも関わらず、漫然と2ヶ月間撮影を続けている。以上を踏まえると、本件の状況においてこれだけの不利益を生じさせる捜査②は相当性が認められないといえる。

感想

設問1
いきなり証拠法の問題が出て面食らいましたが、蓋を開けてみれば半分は捜査法の問題でした。
派生的証拠が問題になっていることには比較的すぐ気づきました。
川出説なら違法承継論や毒樹の果実ほど証拠構造が重要視されないでしょう…と願いたいところ。そもそも川出説の理解はこれであっているのか…?
思いきり手を突っ込んで掻き回しているのに「捜索」ではなく「類する行為」にとどめた一方で、違法の重大性を認めているという矛盾があります。また、捜査報告書②がダメでも捜査報告書①だけではダメなのか?というあたりも検討をすっ飛ばしており、もったいないミスをしています。

設問2
捜査①②ともに、なぜ強制処分該当性が問題になるのか、一言言及すべきところを落としており、印象は悪いですね…
①はともかくとして②は微妙なラインではあるのですが、事情の扱い方的に強制処分で切る構成で書き切る自信がなかったので、どちらも任意処分とした上で適法性を論じました。
本番中と直後は割と過去問演習でやってた通りに書けたと思っていましたが、②の限界事例っぷりに対してきちんと悩みを見せられていたか、事情を論理的に整合させつつ扱えていたかは不安の残るところです。

以上になります。お読みくださりありがとうございました。

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