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第3話『このうどんは、うどんか?』

山縣がうどんを打ちはじめてから半年ほどたった。
今までは空腹を満たすための食事だったが、今では人をワクワクさせる特技になった。
特技になるとともに、彼はふと思った。

“果たして僕のうどんは、うどんとして美味しいのか?”


自分はいくらでも自分のうどんを食べられる。それは生み出した者の責任から成せるのであって、全く無関係の人間にとっては、自分のうどんはただのうどんなのではないか。
悶々。鬱々。彼が彼自身のうどんと向き合う日々が続いた。打っては茹で、食べて。食事をするのではなく、実験でもしているかのようにうどんを打っていた。そして決めた。

“自分が美味しいと思えるうどんを打とう。”

自分を満足させるうどん。それが自分の目指すうどんなのではないか、という漠然とした決めつけ。主観。それでも、もともと自身の空腹を満たすためにはじめたうどん。うどんで自身を満たすこと。僕の大きなテーマとなっていた。

そこから山縣のうどんに対する探求は始まった。食感や見た目、茹で加減や塩のあんばいまで気にし始めた。一本噛んで、断面的にうどんを見る癖がついたのもその頃からだった。彼は、うどんをただの食べ物としてみることはできなくなったのである。

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