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お店の未来 〜手間のかかるお年寄りさんはいらないの?〜

#日本一小さな百貨店の物語

SNSやテクノロジーの発展だけで、お店の未来は明るくなる?

初めに断っておくと、うちのお店は、田んぼの真ん中にポツンとあるような田舎の小さなお店ですが、レジはiPadだし、キャッシュレス決済も使えたりします。
SNS経由で来てくれるお客さんもけっこういて、ネットショッピングもできます。

だから、SNSやテクノロジーの発展は、今も大いに恩恵に預かっているし、これからもお店の未来には欠かせないと思っています。

それはそれとして、実際に田舎の小さなお店をやってきた立場から感じるのは、SNSやテクノロジーも大切だけれど、それよりも、もっと「お店の未来」にとって大切で、必要なこともあるんじゃないかなということです。

日本はこれからますます高齢化社会の時代を迎えます。それは地方だけの問題じゃなくて、都市部においても同じこと。内閣府の発表では、2040年には、人口の約35%が高齢者になると予測されています。三人に一人が高齢者の時代は確実にやってきます。

そんな日本の未来で必要な「お店」って、お年寄りさんがメインで、もっとお年寄りさんに寄り添ったお店の姿もちゃんと描いておかないといけないんじゃないかなと思うのです。

右肩上がりの成長を続けてきたこれまでは、普通のスーパーや量販店、コンビニでも、お年寄りのお客様はけっしてメインじゃなくて、どちらかというと疎まれる?タイプのお客様だったはずです。実際、量販店で勤めていたある若者から聞いた話で、店長から「年寄りは時間ばっかりかかって儲けにならないから相手にするな。」と言われたそうです。

高齢者の買い物というと、以下のような問題があるので、お年寄りのお客様は、対応する店員の稼働を無駄に奪う【コスト】としてとらえられてしまうのが悲しい現実なのです。

<高齢者に特有の問題点>
・時間がかかる。(商品選び、レジ支払い、動作そのものがスロー、小銭による支払い、話が長い。)
・内容があいまい。(記憶力の低下、新しい情報を覚えきれない。)
・話好き。(店員を捕まえて離さない。)
・食事に制限がある。(堅いものがだめ、塩分がだめ、糖分がだめ。)

例えば、うちのお店でもこんなケースがありました:

<ケース1>
『テレビで「きな粉とヨーグルトの組み合わせがよい」という情報を聞く。』

(高齢者以外の場合)
⇒車で店に行き、各売り場できな粉とプレーンヨーグルトを選び、レジに進む。
特に店員とのやりとりは必要としない。
(高齢者Aさんの場合)
⇒車で買い物に来れないので、まず、お店に電話してくる。
Aさん「昨日、テレビでよさそうなんやってたんやけど、おいてる?」
お店「どんなものでしたか?」
Aさん「きな粉と、白いのと、毎日、お通じもよくなっていいらしいんよ。」
お店「きな粉ですね、ありますよ。白いのはどんなものでしょうね?」
Aさん「あの白くて、お通じにいい、体にもいいらしいんよ。」
といったやりとりが続く・・・

<ケース2>
『一人暮らしのおばあちゃんから注文の電話。』

(高齢者Bさんの場合)
 ⇒車で買い物に来れないので、お店に電話で配達の注文。
 Bさん「体えらいから、うまげな魚とお菓子3つ、4つ持ってきてえな。」
 お店「うまげなお魚、どんなんにしましょう?」
 Bさん「青い魚はあかんのよ。あと塩があるのも。カレイとか、ハタハタあるかいな?」
「カレイは煮魚で、ハタハタは干したやつが好きやわ」
 「お菓子は、堅いのん食べられへんし、あの四角い、サクサクしたのが好きなんよ。」
 といった説明が続く・・・

こういうケースは、高齢者のお買い物では、珍しいことじゃなく、とても日常的なやりとりなのです。

やっぱり、お年寄りさんの相手は大変??

でも、考えてみてください。

高齢者でなければ、店員とは一切、コミュニケーションをしないでも、自己完結的に買い物が終わってしまうのに対し、お年寄りさんの場合は、ひとつひとつに長くて、あいまいなコミュニケーションが発生し、と同時に、そのコミュニケーションが、たくさんのデータをお店に伝えてもくれているのです。

例えば、先程のケース:

<ケース1>
(高齢者Aさんの場合)
 「きな粉と一緒に白いのん持ってきて」→「きな粉とプレーンヨーグルト」に変換してみる。健康に気を使っている。
<ケース2>
(高齢者Bさんの場合)
 煮魚のとき:カレイ○、焼き魚のとき:干ハタハタ○、青魚×。
 堅いお菓子×、四角いお菓子=ココナッツサブレ○。次回、バターサブレも提案。

こんな具合に、一見、あいまいで意味のないように見えたデータも、根気よくコミュニケーションを続けていくと、意味のある情報になってきます。

つまり、このコミュニケーションを生かし、あいまいなデータを正確な情報に変換し、たくさんのデータを有効な情報として蓄積できたら、長くて、一見無駄に見えるお店でのコミュニケーションも価値あるものに変わってくるのではないでしょうか。

しかも、そのデータがあいまいで、取得に手間がかかればかかるほど、そこから得られた情報の価値は、競争優位性が高く、競合の参入障壁の高いものとなります。

プラス、継続的なお客様とのコミュニケーションは、高いロイヤリティ(顧客満足)にもつながるので、単なるお客様とお店の関係を超える絆も生み出してくれます。

こういう風に考えると、いままでの時代なら【コスト】と疎まれてきた高齢者のお客様も、未来は【プロフィット】に変えられるかもしれません。

テクノロジーの発展で、人と人がコミュニケーションを取らなくてもお店での買い物が完結できてしまう未来と、無駄かもしれないけれど、人と人とのコミュニケーションのある買い物。

あなたならどちらを選びますか?

#お店の未来

京都北部の山あいの小さな集落にただ1軒の小さな百貨店から田舎の日常を書いています。子供達に豊かな未来を残すためにサポートよろしくお願いします!