藤井猛九段との指導対局振り返り


はじめに

2023年11月26日(日)に将棋の森のイベント
「藤井猛九段指導対局会&トークショー〜タイトル戦駒・特選駒使用〜」
にて、人生二度目の藤井先生との指導対局に行ってきました。
一度目の棋譜を紛失するという大失態を犯したこともあり、
備忘録も兼ねて対局の自戦記を残しておきます。
イベント全体の感想はX(旧ツイッター)に書いてあるのでよろしければ。

事前準備

手合い

手合いは以前負けてしまった二枚落ち。当時も準備はしていったのですが、目の前に藤井先生がいるという緊張と、準備から外れたところで消極的な選択を繰り返した結果不甲斐ない将棋にしてしまったのが心残りでした。
今回も勝ちを目指すのはもちろんですが、何より恥ずかしくない将棋をするのが大目標でした。
参考にした本は先崎九段の「駒落ちのはなし」。
定跡手順だけでなく、上手の思考、下手の方針といった将棋全体の指針となる説明を書いてくれているのがとても好みでした。
もちろん文章自体も大変読みやすく読み物としても面白いのでおすすめ。

銀多伝

戦法は前回同様に銀多伝。ただし同じ轍を踏まないように、
特に定跡を抜けた後のために考え方の軸を決めて臨むことにしました。
一つは「上手はあまり指す手がない」。
焦って攻めずに、遅くとも確実な手があればそちらを選ぶこと。
もう一つは「手厚さを意識する」。
3~5筋の厚みは相当なものなので、これを維持しつつ有効活用すること。
どちらも本から自分なりに読み取ったことですが、
おかげでぶれずに指すことが出来ました。ありがとう先崎先生。

対局内容

序盤

序盤は多少の手順前後はあれど定跡通りに進めて頂きました。
分岐点は以下の局面。ここで▲3四歩と行くのが定跡の一つですが、
2~3筋の金銀に触らずにいられるのが銀多伝の好きなところなので
▲5九飛の方を選びました。
「上手はあまり指す手がない」という軸のおかげもあったと思います。

図1 序盤の分岐点。ここでじっくり攻める▲5九飛を選択。

中盤

▲5九飛で本の定跡は終わっているのでここからはアドリブ。
とはいえやることは変わらず▲5五歩からの中央突破なので、
まずは▲6六歩△7六金で邪魔な金をどかしました。
(△7五金なら▲6七金で手厚くなるのでよし!)
ここから機を見て▲6五歩と角道を開けて総攻撃の予定だったのですが、
指した後で△6五同桂から△5八歩▲同飛△5七歩と
先手で飛車道を止める筋を見落としていたことに気づいて悩みました。
実際は5筋の歩を取る前に▲6五歩とすればこの筋はないので、
△同桂に▲6六歩で桂得になるので杞憂だったのですが…
その勘違いもあって、角道を空けて自分の5五の利きを増やすのではなく、
相手の5四の利きを減らす方針に切り替えました。
そこで思いついたのが▲7二歩、△同玉なら▲5五歩で攻めになります。
放置されると▲7一歩成~▲7三とまで3手かかるのですが、
「上手はあまり指す手がない」という軸で指しているならこう指すべきだと決断することが出来ました。
感想戦でも良い手だったと褒めて頂きとてもうれしかったです。

図2 5四の利きを減らすための▲7二歩。遅いが確実。

終盤

ここで上手から△6五歩と仕掛けてきました。
▲同歩△6六歩でと金を作られる筋が見えて、
「上手はあまり指す手がない」はずでは???と大分焦りましたが、
勝つには△6七歩成で角道が空く瞬間に攻めを合わせるしかない
と腹を括り、▲5五歩から4六の銀を良い形で捌くことを目指しました。

図3 次の△6七歩で角道が空く瞬間を活かすため攻め合いを選択。

図3から△6七歩成▲5四歩△同歩に▲6四歩が地味ながら大事な手。
△同玉は▲5五銀が痛いので△5四玉とかわすしかないですが、
そこで満を持しての▲5五銀。△同銀なら▲5四歩が入るのが大きく、
それもあってか△7八と▲5四銀△4二玉と進みました。

図4 角を見捨てての歩突き。△同歩なら▲同角で角を逃げながらの詰めろ。

ここで▲4四歩が決め手級で、藤井先生にも「一旦角が逃げると思った」と言って頂けました。厚みを形成していた歩を攻めに使えるこの手はあまりにぴったりで、見えた以上指さなければならないと思う手でした。
△8八とと角は取られましたがと金がそっぽに行き自玉は万全。
▲4三歩成△3一玉▲3二と△同銀と進みました。

図5 序盤で2筋の歩を切ったので打てた▲2三歩。

既に勝ちだろうとは思っていて、
どう勝つかを考えていたところで見えたのが図5の▲2三歩。
この手自体が▲4二銀からの詰めろで、
△同銀なら▲4三銀成で飛車道が空くという綺麗さ、
序盤に2筋の歩を切ったことにさらに意味を持たせられることもあって、
対局を締めくくるに相応しい、とても気持ち良い勝ち方でした。
この後、△2三同銀▲4三銀成で上手が投了。
藤井先生に恥ずかしくない将棋をお見せできたと思います。

おわりに

後から見直すとなかなかうまく指せているのですが、
対局中は穴だらけの読みで要らぬ心配をしたり、
ほぼ大丈夫と分かっても踏ん切りが付かなかったりで、かなり疲れました。
そんな中でもこの将棋が指せたのは、
不甲斐ない将棋をもう藤井先生に見せたくないという決意と、
決めた軸に準ずる姿勢を貫けたからだと思います。
次は飛車香落ちになりますし、平手の棋力の方もいい加減上げていかないとなのでまだまだやるべきことは山積みですが、
今はこの満足感をもう少し噛み締めていたいと思います。




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