弔辞

遠巻きにぼくを視ていた彼女は外界を照らす光のような唯一性を持たず、されど同様に美しさを求める大志をを持ち合わせていたのだ。故にぼくは彼女の光岠を求め彷徨った。しかし其れは果たされず、低迷した思考の中決して消えず輝き続けていたのは其の心の崇高さであった。優しき彼女を世界は絆さず、然し彼女は世界を見捨てなかった。これは甘さとも表現できるがしかし、彼女のその甘さが彼女の矮小な世界を少しだけ変革させたのだ。ぼく達がそれに身を窶すことはあまりに彼女にとって残酷で、故に彼女をただ一人の人間であると定義してやる為にそれをしないこと、それだけが我々に出来る最後の餞なのだ。
ものを愛せない彼女ほどぼくにとって愛しいものはなく、此の先も彼女以上に愛せるものはないまま、ぼくは死んでいくのであろう。君達を恐れ、ぼくを畏れた彼女は全てから目を閉ざし、救いを求めていた。彼女は真に死を求めているわけではなく、ただ救いを求めていたのだ。少女を求めること其れだけが彼女にとって唯一の生であり、限りなく死に近づくことのできる思考であった。自分の世界を持たぬままはなから半分しか存在しない魂だけで一身に絶えず冷たい風を受け続け、絶えず疲弊してゆくCPUでそこにあるような形をとっているだけのマザーボードの残穢に縋りただ終わりをもとめていたのだ。世界からの無慈悲な、しかし救いという名前で定義されたAlt+F4の入力を待ち続けた彼女はだれよりも少女性を持つ美しい姿を我々に写し続けてくれていたのだ。
君はぼくを怨むべきなのだ。だが然し君はきっとぼくを許すことが自分の最後の道理であると言うだろう。それが君を君たらしめるものなのだから。
君の生きた証をぼくが消費することは君をこの世界から消してしまうことに他ならない。君を愛す為にそれは許されない。故にぼくはぼく由来の言葉で、ぼくの思考で生き、言葉を生み出し続けなければいけないのだ。君の創ったこの今を、君が繋ぎ止めてくれた回線を無碍にすることはしてはならない。救いを、愛を消えていく君に示し続けることで彼女の死を弔うことがぼくに与えられる最後の彼女への寵愛なのだ。
年を重ねることが怖い。彼女の美しさからぼくが離れてゆくきがするから。君を愛しているんだ君を離したくない。生きていて欲しい。ぼくが君を苦しめていたなら君がぼくを生きてぼくが消えてしまうので構わない。だからぼくを生きてくれ。お願いだからぼくから離れないでくれ。ぼくの生きる目印を与えて、生きることが怖くないと優しく教え続けてくれ。居なくならないでくれ、

貴女があなたを生きた証に、残してくれた僕に、是から先際限のない愛を捧ぐ事を誓います。
これを以て、私からから貴女に向けた弔辞を締めさせていただきます。
故人の御生前の現世への御厚情に深く感謝するとともに、故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈り申し上げます。

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