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イカの刺身②

「青春」とは何か。それは『孤独、情熱、社会性の無さ』に他ならない。異論は認める。だが僕はそう思う。その三つがぐるぐると渦巻いて螺旋の様に続く日々、それが「青春時代」だ。そして僕は今その「青春時代」を渇望している。『孤独、情熱、社会性の無さ』。

(イカは皿に盛り付けられた)

僕はそれをここで作る。そして自ら黙々と咀嚼する。その風景を君が見る。そんな構図だ。随分前にビレッジバンガードあたりで売られてた「食卓を囲んでご飯を食べる人の映像を眺めるだけのDVD」みたいなモンだ。知らんか〜

まぁ前置きが長くなったが、文字読むの苦手な人が諦めない様にサッとまとめてしまうと、

「一人黙々とメチャクチャ無駄な事がしたい」って事よ。

…今気づいちゃったんだ。
編集画面下の方に文字サイズ変えるボタンあるのを。とりあえず使ってみたよ…

まぁそんなワケで40歳遠井地下道少年と読者少年少女の青春時代のはじまりはじまり〜


さぁ長々と前説があったが本題だ。今日話したいのはイカの刺身への熱い想いだ。それをツラツラと綴って行こうと思う。

僕はイカの刺身がこの世の食べ物の中で最も苦手だった。

遡ること34年ほど前。東京葛飾時代に戻る。

当時我が家は両親が共働きの自営業で馬車馬の様に働いてくれていたお陰で、幸い物に困る暮らしはしていなかった。遊び感覚より疲れてたのが一番の理由だと思うけど外食や買い弁も多かった。

一位はマクドナルド。週の一日は夜遅くにガランとした店内に母と兄の三人でマックを食べに行った。まだセットなんて無かった時で僕はフィレオフィッシュとてりやきバーガーを食べるのが好きだった。兄の食べてるビッグマックの素晴らしさを知るのはもっとずっと先だった。そして当時珍しい店に併設されたプレイランドでメリーゴーランドに乗るのが楽しかった。

二位は吉野家。両親の帰りが遅い平日は腹をすかせた兄と僕の元に電話が入る。「吉野家買ってくけど並?大盛り?」と。吉野家がまだ〇〇丼とか無くて「並、大盛、特盛」だけで営業していた頃だった。松屋、すき家はなかったと思う。この習慣のお陰で今でも一番好きなのは吉野家の牛丼だ。20代の頃はバイトまでしてた。粉の味噌汁が…とバイトの話はまた今度しよう。話せる事がたんまりあるんだ。

三位は燕京。近所の町中華だ。月の何度かは日曜日の昼に、兄と弟で小遣いをもらって燕京に行った。小学生二人だけで町中華で飯を食ってる光景は今日日なかなか見られないと思うけど、我が家は当たり前だった。毎度決まって味噌ラーメンとメロンソーダを頼んだ。餃子を兄と二人でシェアした。そして今じゃ信じられないけど毎度少し残した。小学校低学年が食べるにはラーメンは行けてもメロンソーダは多過ぎた。でも毎度小遣いを余らせて返すなんてもったいない事出来ないから、ピッタリ使いたくてそのセットを頼んでた様に思う。そして食べ残すと言う一番もったいない事をしてた。タイムマシンに乗って叱りに行きたい。ちなみに出前の初体験も燕京だ。岡持ちの蓋を上げるとラーメンどんぶりが入ってて、こぼれない様にサランラップが被せてある。それが温度変化によって程よく真空パックの様にビタッと張り付いていた。上手く出来てたモンだ。

そして第四位。この辺になると大分頻度が下がるがいくつか候補がある中で「小僧寿し」があげられる。

そこに奴はいた。

そうお待たせしました、イカだ。

シャリに乗っかった真っ白なイカの刺身だ。

オレがもし八戸生まれだったら、もしくは小倉のBAR TWOFACEの近くに住んでたらシンヤ君の釣った透き通る様なイカの刺身をたらふく食って大好物になってただろう。(いや彼も当時小学生だからそれはない)

でも葛飾。ましてや小僧寿しチェーンだ。イカもそれはそれは真っ白だ。

僕はイカがメチャクチャ苦手だった。ムニュムニュした食感もふんわり香る磯臭さも全てがキツかった。

今と変わらずチャレンジ精神は旺盛だったので果敢にチャレンジはした。そして良く吐いた。

そのまま大人になってしまった。酒を飲む様になってからも塩辛とかホタルイカの沖漬けとか色々チャレンジしたが酒で飲み込むのがやっとだった。

その間にセロリとかイクラとか生牡蠣とかブルーチーズとか秋刀魚のワタとかガンガン克服して好物になっていったのに、イカの刺身だけは何年経っても苦手だった。

そうしてるうちにコロナが来た。
二年前くらいの話。
2021年の正月かな。

当然思い立った「こういう時間ある時にやりたかった事をやろう!」と。今年こそイカ好きになってやるぞ、と。(ちなみにピアスのゲージを00まで拡張したのもこの頃)

思い立ったら元日。
営業してた100円よりは高い回転寿司屋へ。

こうなると極端な性格がモロに出る。
「イカしばり」だ。もうイカばっか食べる。

僕は知ってる。ゴールへの最短ルートを。
それは「ゴールしてる人を真似する事」だ。
だから寿司はイカだけでも良いんだぜ、くらいの人間を降臨させて挑んだ。何事も勢いのナリキリが大事だ。

席につくなりアカイカ、コウイカ、と何種類かのイカ達を順番に食べて行く。もう美味いかどうかは考えない。舌に置いたり口を止めて匂いを楽しんだりしない。ただ黙々と咀嚼する。これはイクラ軍艦を克服した時も使った技だ。

四皿目くらいからだろうか。「ん?あまり気にならなくなってきたぞ」。そう、食べ方に成功し始めたのだ。何でもそうで、中身そのものより付き合い方なのだ。人間もそう。付き合い方が分かればイヤな部分も平気になる。

こうなったらもうこっちのモンだ。心に余裕が出来てくる。さぁおいで!イカ君!君の良い所探してあげる!

幸いにも選んだ店が良かった。イカはどれも新鮮で歯応えがあった。ムニュムニュしてないイカの刺身。

気づいたら口がもう求めていた。
イカを食べながら次のイカを選んでいた。
満足するまでイカを食べまくった。

ほぼ、とつけておく。
無事イカの刺身を克服した。
少年期の苦手意識がこびりついてるから、いまだに一口目は緊張する。でももう大丈夫。良い思い出も出来たから。

最後になるが僕の夢は「世の中の全ての物を好きになること」だ。まぁたかが100年足らずの人生じゃ無理だろう。知らない事がほとんどだろう。でも夢観てる。

ほんの少しずつでも全てに愛を持って接したい。苦手な物や人の中にも好感や尊敬を見つけて付き合いたい。全てを大好きになりたいけどそれは欲張りってモンだ。

今ではイカの刺身と仲良しだ。
また一つ夢に近づいたのだ。

これが今回の話。

前半から読んでくれた人はまさか②がこんなに長いとは思わなかったと思う。無駄な部分もあったかもしれないけど、これで良い。僕は今「一人、黙々と、無駄な事がしたい」。


最後まで読んでくれてありがとう。

こんな無駄な事に付き合ってくれたんだから、青春時代なら君はもう友達だな。
気づいたら親友になってたら良いね。

ではまた次回の駄文をお楽しみに。




追加

会計間際に「一皿くらい良いか」と食べた『活タコ』が死ぬほど美味くてそれまでの10倍満足して帰ったのはここだけの話。



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