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キュアコーラルの変身シーンが滅茶苦茶いいっていう話

かれこれ10年ほどプリキュアを視聴している。

2012年。
大学受験に失敗し浪人が確定した頃、たまたまテレビで見たスマイルプリキュア!が全てのきっかけとなり視聴を開始。
おっちょこちょいだけど明るくまっすぐでウルトラハッピーが口癖の女の子・星空みゆき(キュアハッピー)を筆頭に5人の少女達が「みんなのスマイルを守るために」戦う姿は高校のクラスで唯一進路が決まらなかった自分の心をタイムリーに励ましてくれた。

それから10年経った2022年。
当時高校三年生だった自分も社会人6年目、魑魅魍魎跋扈する現代社会を生き抜くスキルをインスタントに得る為にビジネス本やら自己啓発本にも手を出すようになりつつも、相変わらず日曜朝8時半にはテレビの前で女の子たちの一生懸命な姿に眼(まなこ)を輝かせる日々を送っている。
経営者のエッセイを読む傍らプリキュア、少年漫画よりも少し落ち着いた青年漫画を選ぶようになった傍らプリキュア、お笑い番組を見る傍らドキュメント番組を見る傍らプリキュア…生活の隙間がプリキュアで埋まっている。
裏を返せばプリキュアシリーズが成人男性の視聴にも耐えうる程に作品として一定クオリティを保っていることの証左だろう。
やはりプリキュアシリーズは素晴らしい。

閑話休題。

さて、現在2022年現在放送中のプリキュアはシリーズ19作目となる『デリシャスパーティ♡プリキュア』なのだが、今回お話ししたいのは2021年現在放送プリキュアはシリーズ18作目『トロピカル~ジュ!プリキュア』(以後、トロプリ)についてである。
中学校入学のため、都会にやってきた島育ちの少女・夏海まなつが人魚の国・グランオーシャンからやってきた少女・ローラと出会い、伝説の戦士・プリキュア「キュアサマー」に変身。人間からやる気パワーを奪う後回しの魔女達と戦うことに。
学校、部活、プリキュア、全てに対して全力で『トロピカっていく』まなつ達の日常を通して「今、一番大事なことをやる!」というテーマを描いていく作品である。

この作品なのだがとにかく素晴らしいのだ。
いや、毎年素晴らしいことには素晴らしいことは間違いないのだが、なんというかトロプリについては緩急の付け方が抜群に巧いのだ。
全体的な作風は南国のようにトロピカってる…もといポップでコミカルな雰囲気なのだが、一方でプリキュア達の抱える悩み・ぶつかる壁はリアルかつ繊細に描かれており、それらを解きほぐしていく過程がとても丁寧に描かれていて作品としてのバランスの取り方が非常に優れている。
勢いでやってるように見えて雑にしてはいけないところは時間をかけて慎重に描いてるというか。

また、物語を動かす存在としてまなつとローラの存在も非常に大きい。
裏表がなく飾らない性格で周りを引っ張っていくまなつと、いい意味で遠慮がなく自分に正直なローラが、悩みを抱える仲間の背中を押すことで、プリキュア達が「今一番大事なこと」へ向けて踏み出す勇気を手に入れ歩き出す…という流れが素晴らしい。特に最初期の各プリキュア覚醒までの流れはその点がクローズアップされていた。
もっと具体的に色々話したいところだがそれはまた別の機会に取っておく。


さてさて。
毎週欠かさずプリキュアを視聴しているプリ兄※諸兄には最早常識の話になるかもしれないが、一般的なアニメの例にもれず毎年プリキュアを観ているプリ兄にはそれぞれ、推しのキャラクターである「推しキュア」が存在する。
※プリキュア兄さんの略。プリキュアファンの呼称として「プリキュアおじさん」という呼称が一般的に使われているが、流石にまだおじさんとは言われたくないので勝手にこのように自称している。お笑いコンビ・EXITにおける「ジッター」みたいなもんだと思ってください。

トロプリにおける僕の推しキュアは涼村さんごちゃんこと、キュアコーラルである。



まずはこちらをご覧頂きたい。





かわいい。



はぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん、本当にかわいい。

これだけで十分キュートで可愛くて見てるだけで細胞が若返る。
所作の一つ一つ全てがかわいい。

ずっと見ていたい。これだけ流れるテレビが欲しい。
時計じかけのオレンジのルドヴィコ療法が瞼を開けて固定された状態で第九を爆音で流しながらキュアコーラルの変身シーンを数日に渡り見続ける人体実験だとしたら俺は嬉々として実験台になる。

とにかく素晴らしい、素晴らしいんだけど、キュアコーラルの変身シーンの素晴らしさをより深く感じる為には彼女が初の変身に至るまでに辿ってきた過去、そのバックボーンを知っておく必要がある。



さんごの本格的な初登場は第二話からである(正確には第一話だがワンシーンの出演のみ)。
オシャレとコスメが大好きで誰に対しても柔和に接する性格のさんごは、実家のコスメショップへ招き入れる等、まなつとすぐに打ち解けた。

続く3話ではそんな彼女の抱える悩みが明らかになる。
どの部活に入部するか迷うまなつに対し他の同級生が様々な部活を提案する中では終始「いいね」と相槌を打ち続け、同級生とのショッピングでは同級生から皆で同じキーホルダーを買おうと提案されれば為すがまま同意し、水族館に行けば「人魚はきっと面白い顔をしている」という同級生の発言に流れで同調してしまう。(その直前には作中で美少女として描かれている人魚のローラと遭遇しているにも関わらずである)

これらの振る舞いからわかる通り、プリキュアとして覚醒する前のさんごのは、よく言えば「和を重んじる」、悪く言えば「流されやすい」という、ある意味では今時の若者らしいと言える性格であった。
しかし、さんご本人はその性格を良しとはしておらず、ローラと出会ったにも関わらず人魚の見た目について周りと同調してしまったことに対して「なんであんなこと言っちゃったんだろう…」と自らの振る舞いを後悔していた。
その一方でまなつは、さんごが周りに流されている間も何が一番良いかと真剣に頭を抱えて考え抜いており、和を重んじるさんごと対照的に自分自身の意思を尊重する存在として描かれていた。


さんごは何故そういった性格になったのか。

翌日の昼休み。悩んだ末に一番食べたい焼きそばパン2個を両手に屋上でご飯を食べることを提案するまなつ。「熱いからパス」と断る同級生を尻目にさんごはまなつと共に屋上で昼食を取ることに。
昼飯を食べる傍ら、さんごは「私、まなつちゃんが羨ましい…」とポツリ呟き、自分のやりたいことを迷わずできるまなつと自分を比べ、とある過去を話し出した。

「幼稚園の時にね、みんなでチューリップの球根を植えたことがあって、好きな色を選べたの」
「私は紫が一番かわいいと思ったんだけど、紫を選んだのは私だけだったの」
「みんなは気にしてなかったけど、私もピンクにすれば良かったって…凄く後悔した」

引用元:トロピカル~ジュ!プリキュア 第3話「自分を信じて!キュートいっぱい!キュアコーラル!」

さんごが自己主張をしなくなった理由、そして彼女が抱える悩み、それは
「周りと異なった感性や感覚を持つことによる言いようのない疎外感、それに伴う自分の好きなものに対する自信の喪失」であった。

こういった感覚は誰しも少なからず抱えているものではないだろうか。
対して興味や関心を抱いていない映画なり漫画なりがあったとして「周りが良いと言っているから」「評価されているから」という理由でなんとなく「あれ良いよね」となんとなく同調してしまった経験は幾度となくあるだろう。(無論それで本当に良いものと出会えるケースもあるけど)
さんご達のような学生であれば、その時その時の流行に身を任せることがある種の処世術みたいなこともあるだろうし。

しかし、幼少期にビターな経験をしたさんごの心には、自分の感覚に対する不信感が根強く刻まれ、それが素直に自分の「可愛い」を思うままに表現できないことに繋がっているのだ。
トロプリ最初期の涼村さんごというキャラは、言うなればセルフで「ズレてるわ~」「ズレてるか?」「ズレてますよね?」「ズレてます??」と同調からの自己嫌悪を繰り返すセルフももをやってるような状態だったのだろう。

しかし、そんな彼女に対して「自分の『可愛い』を信じてやらんでどうする!!」と喝を入れる存在がいた。
それが、ローラ・アポロドーロス・ヒュギーヌス・ラメール…もといローラであった。

初登場の第一話から、不遜な態度、隠そうともしない時期女王の座に対する野心、利用できそうな人間を見つけて早々に捨て駒呼ばわり等々の傍若無人ぶりを見せつける、自分に対して正直、かつ絶対的自信を持つローラだからこそ、さんごの悩みを一蹴することが出来るのだ。

まなつとローラ、それぞれ違う形で自分の「今、一番大事なこと」に実直に向き合う二人と出会い、さんごの心には変化が生まれ始めていた。


そして場面は変わりとある公園。
後まわしの魔女の部下であるチョンギーレがやる気パワーを奪うべく怪物・ヤラネーダを召喚(今更ながらチョンギーレ役の白熊寛嗣さん、滅茶苦茶いい声だった)、その場に同級生と居合わせたまなつは急用を思い出したと公園へ走っていく、そんなまなつを心配そうに見送るさんご。
その傍らで同級生は「そういえば怪物が出た現場に人魚がいたんだって!」「人魚がモンスターを操ってるとか?」「悪者じゃん」と根も葉もない噂を立てては怖がっていた。まあ初期のローラ割と露悪的だけど。

そんな彼女らに対してさんごは「違うよ…!人魚は悪者なんかじゃないし、本当はすっごく可愛いんだよ!」と反論の言葉を紡いだ。

これまでならばそれらの発言に流されるまま同意していたであろうさんご、彼女は既にまなつとローラの出会いを通して自分の「可愛い」を信じる第一歩を踏み出していた。そのままさんごはまなつを追って公園に向かう。

キュアサマーとして戦うまなつとローラを目の当たりにし、敵の眼前へ飛び出したさんご。
ローラからこの場を離れるよう促されるも彼女は毅然と立ち向かう。

「私は…信じる!」

「私は…逃げない!!」

引用元:トロピカル~ジュ!プリキュア 第3話「自分を信じて!キュートいっぱい!キュアコーラル!」

その時、彼女の指に変身アイテムであるハートクルリングが出現し、トロピカルパクトもそれに呼応するようにさんごの方へ近づいていく。



「私が…プリキュア!!」

引用元:トロピカル~ジュ!プリキュア 第3話「自分を信じて!キュートいっぱい!キュアコーラル!」



はい、という訳でもう一度こちらをご覧ください。

ここまで説明すれば聡明な皆様ならばもうおわかりでしょう。

そう、キュアコーラルの変身シーンとは
「キュアコーラル、もとい涼村さんごが自分の信じる『可愛い』を、ありのままに表現することが出来るようになった証左」に他ならないのです。

皆さんの中にはコーラルの変身シーンを見て「あっっっっざと!!!!」「全てがあざとい」「黄瀬※じゃん」などと思った方がいるかもしれません。その感覚もあるいは間違っていないでしょう。
※黄瀬やよいの意。スマイルプリキュア!に登場するキャラクターでキュアピースに変身する。プリキュアシリーズにおいて「あざとい」と言えばまず初めにこの娘が出てくるくらいにはシリーズにおけるあざとキャラの代名詞的存在。

しかし、そのように思われてしまうことを恐れてきたからこそ、これまでのさんごは自己主張を行わずに自分の「可愛い」から目をそらし、周りに合わせてきたのです。
そんな彼女が、自分が本当に思う「可愛い」を信じ、思うがままに表現した結果、それこそがこの変身シーンなのです。

そう考えてみると、ほら…


©ABC-A・東映アニメーション 上記動画より引用

可愛い。

©ABC-A・東映アニメーション 上記動画より引用

可愛い。

©ABC-A・東映アニメーション 上記動画より引用

可愛い。

©ABC-A・東映アニメーション 上記動画より引用

あああああ~~~~~~~~~、本当に可愛い。


この笑顔を見るだけで3歳くらい若返る気がする。
貴方も僕と一緒にキュアコーラルデトックス。

もしも今後の人生で焼き印を押される事態に陥ったらなんとか嘆願して4枚目の画像の焼き印を入れてもらう。

もし僕が刑事だったとして、廃工場の銃撃戦の最中で後輩を庇って凶弾に倒れることになったら事切れるまでの最期の時間を使ってこの変身シーンを見る。


その後、キュアコーラルは「私はもう逃げない!」「私は私を信じる…だって、これが私の『可愛い』だから!!」と決意を改め、ヤラネーダを撃退するのであった。

そして再びショッピングのシーン。
同級生が流行りそうなマスコットを指して可愛いと色めき立つ中、さんごは別のマスコットを指して「こっちのも可愛いと思う」と自分の『可愛い』と思う物を主張する。
まなつやローラとの出会い、そしてプリキュアとしての覚醒を通して、さんごは自分の意見をちゃんと主張できるようになったのであった。




…といったところでいかがだったでしょうか。
普段からプリキュアを観ている人も、そうでない人も、変身シーンという概念はなんとなくご存じかと思われます。
そんな変身シーンも、初めて変身に至るまでのプロセスに注目すると、少し違って見えてきます。
皆さんも機会があれば何気なく観ている変身シーンも少し違った見方をしてみてはいかがでしょう。


ちなみに、初変身を迎えたさんごはその後、まなつ・ローラ・そして今回は触れられなかったみのり、あすか達と共に歩みながら「自分の本当に好きなこと・やりたいことは何か」と向き合っていきます。
そこに至るまでのストーリーもめっちゃいいのですが、この記事を見て少しでもトロプリに興味を持って頂けたなら、それはぜひ皆様の目で確かめて頂きたいと思います。多分そのうちネトフリとかアマプラでも配信されるのでぜひ。


という訳で、ちょっと長くなりましたがこちらの記事はこれにて終いとさせて頂きます。
ご覧いただきありがとうございました。

次回「キュアヤムヤムの変身シーンがマシマシに最高っていう話」でお会いしましょう。
それではまたよしなに。

#私の推しキャラ

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