決着

2020/06/05(金)

歯の痛みですぐ起きてしまい、頑張って寝ようとするも痛みに悶えてしまってロクに寝られなかった。このままではいけない、もうすぐに病院へ行こう。そう決めていた。

当該の親知らずはに関しては、大分前にかかりつけの歯科では難しくて対処ができないという事で大きな病院の紹介状をもらていた。ただ、それがちょうどコロナと重なってしまい病院へ行くことができていなかった。そして前日たまらず予約の電話をしようとしたが、「紹介状に書いてある先生の名前で予約しろ」との事。その時は出先でわからなかったのでまた今度にしたのだ、改めて招待状を見ると「初心担当医様」と書いてある。これではいけない。
となると、やはり駆け込みで行くしかない。HPでも、電話の応対でも、「コロナのため、予約の方以外は腫れがあったり我慢のできないような痛みのある急患の方のみ受付」との様だったが完全に自分はそれに当てはまっている。急患か急患でないかなら超急患だ。

痛み止めを飲むために急いでパンを食べようとするも、歯が痛すぎてロクに咀嚼ができない。舌と左側の歯だけを使って最小限に分解して、薬を飲んで家を飛び出す。電車は席が多少空いている。自分以外に座席を必要としている人はいなさそうだ。他人との距離だとかコロナだとかはもはや関係ない。ただ座して、到着を待つ。乗り換えの間も、駅から病院の間も、「後どれくらいで着くか?」しか考えていなかった。

そんな思いをして、受付開始時間ちょうどに受付をした。急患のみ、と言われた瞬間に「もう我慢できないんです」と伝え招待状を出す。すると、受付から何やら偉そうなお医者さんが出てきた。名札には「科長」と書いてある。えらそう。そんな先生から衝撃の一言を伝えられた。

「コロナの影響で医療器具の供給が安定するまでは、抜歯のような血の出る治療は基本的にできません。」

終わった。俺はこの痛みを後どれほど耐えなければいけないんだ?紹介状を他の病院宛に書き直してもらうか?他の病院でも変わらないはずだ、だいたいもう今週末は耐えられない。そんな考えが一瞬で頭を巡った。

すると、お医者さんは続けて「レントゲンを見る限り、痛みが親知らず出ない可能性があるので、一度担当の先生に掛け合ってみます」と言って電話をかけに消えていった。まだ一縷の望みはある。耐えよう。頭を抱えながら、ひたすら痛みに耐える。何分待ったか分からない。だが、待った甲斐があった。お医者さんの返事は、「とりあえず一旦見て貰います」との事だった。まだ可能性はある。治療室へ、最大限可能な早歩きをして向かった。

問診をして、レントゲンやCTを撮ると言って待たされたり階の移動などを何度も繰り返した結果、「レントゲンが古いものだったが、新しいもので確認すると痛みの原因は親知らずしか考えられない」との事だった。そして、「神経を抜くことも考えたが、協議した結果神経を抜くくらいならどうせ抜く歯を今抜いてしまった方がいいので、緊急ということもあって抜歯します」との事だった。

勝ったのだ。痛みに耐え、諦めないで病院に向かった俺に、お医者さんは応えてくれた。その事実だけで、痛みが若干和らいだ気がした。

抜歯する前の段階で、何人かのお医者さんが自分の席を取り囲み、「もう我慢できないくらい痛い?そんなに痛いけど会話はできてるね?」「眠れてる?」「熱は本当にない?」などの質問を立て続けにしてきた。怖そうなおじさんだったので正直に答えつつ、「この答え次第では歯を抜いてもらえないかもしれない…」とビビっていたが、話を聞いていると「待合室で見たところかなり辛そうだったし、体調悪い時に麻酔を打っちゃうともっと体調が悪くなるからね」との事だった。やさしい。うたがってごめんなさい。

いよいよ歯を抜く、麻酔を打つ、という段階になった。麻酔というものはすごい。打った直後に、あれ程自分を追い詰めていた痛みが一瞬で感じられなくなった。歯を触られてもなんともない。医学、凄すぎる。それしか感想が浮かばなかった。

そこから先は早かった。お医者さんがとんでもない力を込めて歯に器具を差し込み、そのまま引っこ抜いたらきれいに歯が抜けていた。治療前に「歯の根っこが歯茎に残って、削ることになったらその部分はまた今度になってしまいます」と言われていたが、抜いた歯を見せてもらうとまあ綺麗な根っこをしていた。運が良い。ただそれと同時に、手や足に力を入れないと受ける事ができない力を加えられても何も感じなくなる、そんな麻酔、というより薬は怖いな、とも感じた。


治療を終えてお医者さんにお礼を伝え、次回の予約をして病院を出た。歯を抜いて麻酔もして、というのに思ったほどの金額は掛かっていない。社会保険制度はやはり本当にありがたいものなんだと実感した。このままついでに買い物でもして帰るか、と隣の駅は歩き出したは良かったが、途中から明らかに様子がおかしい。脚が妙に疲労感があるし暑い。頭もふらつく。吐き気もする。そこで、「自分は寝不足の体に、いつもの治療より多い量の麻酔を打っている」「親知らずを抜いた後熱が出る事がある」という事実に気がついた。

何駅か歩いたところで体が持たないという判断をして、何もせずに電車に乗った。歩いた時間とその分の交通費が無駄すぎる。帰り際、麻酔が切れてきたので昼食だけ食べた。エネルギー不足の身体に野方ホープを入れる。一口食べた瞬間、口の中から体全体にスープが染み渡った。コロナ期間中全く食べていなかったのだ。身体はそれを喜んで受け入れた。

野方ホープで初めてアイスのサービス券を使ったものの、忘れて店を出そうになるレベルで限界だった。最寄駅のコンビニで、ポカリと栄養剤とアイスを買い、自宅についてすぐエアコンをつける。服を脱いで横になる。身体が熱い。放熱しなければ。それしか考えられなかった。「足が熱すぎるので冷やそう、文字通り頭寒足熱だ」などと思ったレベルなので、よっぽど頭は働いていない。締め切りが迫っている課題を遅らせる旨を、事情を説明して教授に許可をもらい、バイト先の同僚から頼まれた仕事だけなんとかこなして、後は力尽きてしまった。


そういえば、「いつきこうぞうの説明をしてほしい」との要望をもらった。ありがたい。今日分で書く、と伝えたが長くなってしまったので明日書いてみよう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?