電中日記 アキコ3

8月中旬、上島と小橋がお見舞いに来てくれた。
大量の菓子のマンガを持ってきてくれた。
マンガほど暇人をいたわるものはない。最高の差入をしてくれたなと思った。

エアコンを効かせた部屋で男三人で会話をした。

「タツル最近何してんの?」と小橋が言った。
「何もしてねえよ、ゲームして、オナニーして寝てる。あとは病院行ったり塾行ったりしてる」
「えっ塾行ってんの!?タツルが?」
「ああ、うん俺高校受験しなきゃいけなくなったから」
「え、マジかよ!うちの高校行けないのかよ」

改めて事実として聞くと、やはりさみしくなった。
一学期は毎日が天国のように楽しくて、このままずっとその日が続くような気がしていた。

上島はきょとんとした顔をしてから何故進学できないのか聞いた。

「成績が一定の水準以下だと行けないんだって。俺と岡村がダメみたい。」
「うわーマジか、それ今から勉強頑張ったりしてもダメなの?」
「うーんまあ多分」
「そっか、さみしくなるなあ」

エアコンの音だけが少しの間聞こえた。

「まあでも、まだ半年以上学校に居られるし、いいんじゃね、全力で楽しめば」
僕は強がってそう答えてみた。

「そうだよまだ半年以上あるし、これからでも最高の思い出作ろうぜ!」
小橋はこういうときいつも勇者のようにポジティブな言葉をさらっと吐く。人を励ます才能の持ち主だ。

「ははは、でもその足じゃ無理だろ、エッチもできないっしょ」
上島は僕らの学年で一番最初に性体験をした男だった。彼が童貞の壁をぶち壊し、ついにやったという話は一瞬で学年中の知るところとなる。
彼は奴隷解放の英雄のように、多くの童貞に勇気を与えた。
上島に続けとばかりに、周りはみんなひとりづつ「卒業」をしていった。

帰りに上島はギプスに油性のマジックで「元気ビンビン」と落書きした。
小橋は「やればできる」と書いた。ついでに地図の工場の記号に似た女性器を表すマークを書いたが、それは恥ずかしかったので黒く塗りつぶした。

とにかくどうしても遊びに出かけたかった。

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