電中日記 アキコ18

呼び出し音はすぐに止まり、アキコが出た。
「もしもし」という元気の無い声を聞いて、泣き疲れたのだろうとすぐに分かった。

10秒ほど、長い沈黙をしてから僕が口を開いた。
「あの、ごめんね。」

受話器の向こうから言葉にならない嗚咽が聞こえてくる。

「ごめん、今メール見てさ、アキコにひどいことしてたんだと思ったんだ。いくらなんでも今日の態度はひどかったよね、ほんとにごめん。ヤリ目で付き合ってるとかそう言うんじゃ無いんだ」
「…うぅ……うん」
動物の鳴き声のような高い音でアキコが答えた。

「ほらなんか、いつも二人で居るときは幸せでさ、それがいつもと同じようにできなかったなって事なんだよ。」
「エッチが、できなかったから嫌だったの?」
「いや全然、そうじゃなくて。もちろんしたい気持ちはあるけど別にそれだけが会う目的じゃ無いじゃん。一緒に居たくて会ってるんだし。」
「そうだよね」すこし声色が明るくなった。

それから僕は必死に弁明した。初めての彼女でどうしていいかわからないとか、受験でストレスが溜まっているんだとか、とにかく色んな理由をつけて話をした。
最後にはまくしたてるように「アキコが優しすぎるから俺が甘えちゃったんだ」と言うと、アキコは「私が悪かったね、ごめん」と言った。「こちらこそごめん」と言ってみてから違和感があった。

「じゃあまたね。バイバイ」と言って電話を切った。

結果的に言いくるめることはできたのだけれど、何か無駄なことに時間と労力を取られたような気がして、むしゃくしゃした気分で後から来た各駅停車に乗り込んだ。

その後、アキコから長くて顔文字のいっぱい入ったメールが来ていた。内容が一つ前と大違いだった。僕は『おやすみ。』とだけ返信し、生理が終わるのは一週間後くらいかな、と考えていた。

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